その時、安倍のデスクの内線が鳴った。

 

「安倍だ、長官から?分かった。はい、代わりました安倍です。

はい、利倉さんもいます。分かりました」

 

「五島長官ですか?」
「はい、長官室に来てくれとの事です。ご一緒にお願いします」
二人はそのまま官房長官室に向かった。部屋に入ると五島長官が

立ち上がった。

 

「失礼します」
「ああ、ご苦労様です。先程総理がアメリカに出発しました、

昨日のホットラインで、犯人像が浮かんできました」
「本当ですか!」
「はい、昨日破壊されたのは中継衛星のE572という事です。

攻撃はミサイルだった模様です」

 

「ミサイル!ですか?」

安倍が驚いて五島を見た。
「はい、これでロシア側の衛星が破壊工作に関わっていた事が

ほぼ確実になりました、大統領は相当の決意で対処する方針

のようです」

 

「長官、まさか戦争ですか…」

 

「交渉のカードとしてはそれもあり得るでしょうね、総理は

アメリカとの共同歩調を強調する為に共同宣言には武力行使

の容認まで盛り込む予定です」
「そうですか、そこまで腹をくくりましたか。長官、共同宣言を

出すのは?」

 

「明日の予定です、今、ステーションに向かっているシャトルで

そのままロシアの衛星を査察するという要求を突き付けるつもり

ですね」

 

「もう国連は全く無視ですか?」
「そうですね、しかしこれはアメリカにとっても大きな損失ですよ。

国連という歯止めを自ら放棄するならタガの外れた桶のように

全世界に災厄が溢れ出します。
今、ロシアを追い詰めるのは懸命な選択ではありません」

 

「総理はその点を?」
「最大限OB大統領を説得するつもりですが、押し切られる

可能性は高いですね」
「アメリカとの軍事同盟は日本を制約する為のものですからね

もう、大統領との信頼関係に望みを託すしかないですか…」

安倍は腕組みしたまま下を向いた。

 

「長官、自衛隊への出動命令は?」
「現在は北部方面隊に待機命令を出しています、しかし大規模

な艦隊の展開は却ってロシア側を刺激しますので海自には」
「第七艦隊は?」
「ハワイの動きは無いですね、太平洋より本土の西海岸防衛を

優先させる考えのようですから動かすとしても横須賀か佐世保

の部隊でしょう」

 

利倉が五島に進言した。
「長官、ゆきかぜを日本海に派遣しましょう」
「ゆきかぜをですか?しかし今は特殊部隊の訓練中では」
「いえ、訓練はほぼ終了しているはずです。今、単艦で

動かせるのはゆきかぜしかありません」

 

「また梅田艦長に心労をかけますか…分かりました、海幕僚長

に内示しておきます。ゆきかぜには演習を終了して、そのまま

日本海に向かうように伝えて下さい」
「はい、チームコールで連絡します」

「全ては明日ですね。親父が息子程の世界最強の権力者を

どこまで説き伏せられるか」

 

三人の表情には明らかに不安の気配が感じられた。

 

                                   つづく