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漫画ときどき研究者

読んだ漫画と論文の感想を書いていくブログです。
ジャンプを読むように論文を読めるようになることが目標です。

先日紹介した論文 のラボの教授が2002年に出した論文です。

Rates of behavior and aging specified by mitochondrial function during development.

Dillin A, Hsu AL, Arantes-Oliveira N, Lehrer-Graiwer J, Hsin H, Fraser AG, Kamath RS, Ahringer J, Kenyon C.

Science. 2002 Dec 20;298(5602):2398-401. Epub 2002 Dec 5.


結果は、

1. 一連のRNAiスクリーニングから、電子伝達系 の構成因子をノックダウンすると、線虫の寿命が延びることを発見。

2. これらの個体は、体が小さい(細胞のサイズが小さいためらしい)、動きが遅いなどの他の異常も見られた。

3. また、電子伝達系をノックダウンしたこれらの個体では、ATPの量が減少していた。

4. 電子伝達系の阻害によって寿命が延びる仕組みは、よく知られているインスリン経路による寿命延長とは別のものであることが示唆された。

5. 時期特異的に電子伝達系を阻害する実験から、成虫になる前に電子伝達系が阻害されていることが、寿命を延ばすための必要条件であることが分かった。(成虫でだけ電子伝達系を阻害しても寿命は延びない!)

6. 幼虫期でのみ電子伝達系を阻害した個体では、成虫においても(それぞれのmRNA量は回復しているにもかかわらず!)ATP量は依然として低いままであった。


結論としては、

線虫は発生期のミトコンドリア呼吸の活性を元に、成虫での個体の寿命を決めている

という感じでしょうか。


このDillin教授の文章がうまいのか、複雑な話なのにとても読みやすく、かつ面白かったです。

やっぱり文章力は重要ですね。

というか2002年にはscienceに2本も出してるし、、、、化け物か ( ̄□ ̄;)

論文紹介のネタ変更です。
理論の論文2つは自分で理解できたら発表するのが面倒になってしまったので(;´▽`A``

ガラッとテーマを変えて、寿命のはなしについての論文です。

The cell-non-autonomous nature of electron transport chain-mediated longevity.

Durieux J, Wolff S, Dillin A.

Cell. 2011 Jan 7;144(1):79-91.


線虫においては、ミトコンドリアの機能(正確には電子伝達系)を(※マイルドに)抑制すると寿命が延びることが知られていました。
この解釈として、ミトコンドリアが電子伝達系を使ってATPを産生するときに出る活性酸素 (ROS) が寿命を縮める“悪者”で、ミトコンドリアの機能を抑えることで産生されるROSも減り、その結果として長生きできるのではないかと考えられていました。
この考えは直感的に受け入れやすく、広く信じられていましたが、ここ数年の研究から、どうも違うんじゃないか?という結果がどんどん報告され始めました。
今回紹介する論文では、実は一部の組織だけでミトコンドリアの機能を抑えることで寿命が延びることを報告しており、“特定の組織でのミトコンドリアの活性が個体全体の寿命を決める”という新しい(?)概念を提唱しています。

結果を簡単にまとめると、
1. 細胞内へのdsRNAの取り込みができない変異体を用いて、一部の組織だけでcco-1という分子をノックダウンして電子伝達系を阻害し、寿命を調べた。その結果、腸や神経で電子伝達系を阻害した場合は寿命が伸びることが分かった。(体壁の筋肉でノックダウンしても寿命は変わらない。)
2. RNAiに必須な分子であるrde-1の変異体において一部の組織だけrde-1を発現させるという別の方法で組織特異的に電子伝達系を阻害した場合も同様の結果が得られた。
3. 神経と腸の両方でノックダウンしても、単独の場合と効果が変わらないことから、「神経と腸が互いのミトコンドリアの状態を“伝え合って”どれくらい生きるか(寿命)を決めている」という仮説を考えた。
4. cco-1のノックダウンは、酸化、UV、熱などのストレス耐性には影響を与えなかった。
5. cco-1の(全身での)ノックダウンによって、ミトコンドリア特異的なストレス応答機構( mitochondria-specific unfolded protein response; UPRmt)が(全身で)起こっている。
6. isp-1やclk-1などのミトコンドリアの変異体(定義は未確認)での寿命延長に、UPRmtが必要。(注: cco-1のノックダウンでの寿命延長に重要化は技術的に調べるのが難しいらしい。)
7. 幼虫期のみでcco-1をノックダウンしておくだけで、成虫でのUPRmtの誘導も寿命の増加も起こる。
8. 神経だけでcco-1をノックダウンした場合でも、腸でUPRmtが強く誘導される。

以上から、特定の組織(例えば神経系)でのミトコンドリアの活性が、他の組織(例えば腸)でUPRmtを誘導し、寿命を延ばすのではないか、と考察しています。
ただし状況は複雑で、UPRmtは誘導されても寿命が延びないケースもあるので、UPRmtは必要条件ではあるが十分条件ではないようです。


以下は読んでみての個人的な感想妄想です。
何となく、一生で使える総エネルギー量(つまりは耐えうるROSの量)が決まっていて、活動量を低くすれば寿命が伸びるのかな(つまり細く長く生きる)と漠然と思っていたのですが、どうももっと積極的に寿命が決められているようですね。
本当だとすると、“太く長く生きる”ことができるようになるかもしれないと希望が持てますね。
この分野をまだ勉強していないので分かりませんが、読む限りでは歴史的な論文である気がします。
前回紹介した論文 と同じ号のCell誌に出たもう一つの理論の論文です。

Control of the mitotic cleavage plane by local epithelial topology.

Gibson WT, Veldhuis JH, Rubinstein B, Cartwright HN, Perrimon N, Brodland GW, Nagpal R, Gibson MC.

Cell. 2011 Feb 4;144(3):427-38.


この論文では、一層の上皮細胞において、ある細胞の分裂方向が周囲の細胞の形によってどのように影響を受けるかを理論と観察の両方から考察しています。


簡単に結果をまとめると、

1. 細胞を一定の高さの角柱で近似し、細胞の辺を理想的なバネ、細胞の中身を理想気体として、エネルギー的に安定な“形”をシミュレーションを行いました。周囲の細胞のうちの一つを四角形、五角形、・・・八角形としたときに、中央の細胞の“安定な形”を調べると、四角形などの辺の数が少ない場合はその向きに短軸が、八角形などの辺の数が多い場合はその向きに長軸が向くことが分かりました。(言葉だと分かりにくいですね。見れる人は論文のFig1と2をご覧いただければよく分かると思います。)

2. ショウジョウバエのWing Disc (成虫の翅の元になる組織) で細胞質分裂中の細胞(ひょうたんみたいな形になっている)の周囲の細胞について、分裂面に接している割合(clevage plane indexと命名; つまりは細胞の短軸方向に位置する割合)をそれぞれの多角形ごとに計算したところ、四角形などの辺の数が少ない場合ほど値が高いことが分かりました。さらに、経時観察の結果、間期の細胞の長軸方向に向かって細胞は分裂することが確認できたので、これらの結果は1の結果に一致するわけです。

3. 同様の結果はキュウリの上皮細胞での観察からも確認できました。

4. 細胞のアスペクト比を指標に色々なパラメータの与える影響を調べたところ、周囲の細胞の“形”が重要であって、細胞の大きさや接している辺の長さは大きな影響を与えないことが示唆されました。

5. 2つのシミュレーションから、このような分裂方向の偏りは、確かに組織全体の形や組織内の多角形の割合などに影響を与えることが分かりました。


5については引用している論文を読まないといまいち何をしているか分かりませんが、ともかくも簡単な思考実験レベルのモデルから組織の形などの複雑な現象を説明できる(かもしれない)ということが新しいんでしょうか。理解度が足りないのでいまいち論文の“売り”が掴めていませんが、面白い論でした。