Increasing adult hippocampal neurogenesis is sufficient to improve pattern separation.
Sahay A, Scobie KN, Hill AS, O'Carroll CM, Kheirbek MA, Burghardt NS, Fenton AA, Dranovsky A, Hen R.
Nature. 2011 Apr 28;472(7344):466-70. Epub 2011 Apr 3.
少し時間に余裕が出たので、気になっていた論文を読みました。
脳深くにある海馬の歯状回と呼ばれる領域は、記憶などの認知機能や気分 (mood) に重要だと言われています。より詳細には、入力情報の分離(pattern separation)を行っているらしい。入力情報の分離とは、二つの入力の違いをより大きくして、二つの情報をきちんと区別できるようにすることらしい。
また、この領域は大人になっても新しく神経細胞ができる(神経新生が起きる)場所としても知られています。
この神経新生を阻害することで、入力情報の分離がうまくいかなくなったり、抗うつ薬の効果のいくつかがなくなることから、歯状回での神経新生は認知機能や気分の制御に重要だと考えられていました。
しかしながら、神経新生が十分条件かどうか、つまり、歯状回の神経新生を促進するだけで認知能が向上するかどうかについては、良いテクニックがなかったために明らかになっていませんでした。
筆者らは、大人で新生された神経細胞の60-80%が死んでしまうことに注目しました。
(Nestin-CreERを使って成体の神経幹細胞でBaxをノックアウトすることで、)この細胞死を抑制するシステムを作ったところ、新生神経の数を約3倍まで増やすことに成功しました。
こうして生き延びさせた神経細胞は通常の細胞と同様のパターンの樹状突起や軸索を持っており、LTPも正常に起こったことから、これらは“まともな”神経細胞であることが示されました。
この新生神経細胞が増えたマウスは、記憶力やかなり異なった文脈を区別する能力は野生型のそれとほとんど同じレベルでした。
そこで、よく似た文脈の記憶を区別する能力を調べるために、恐怖条件付け学習を行い、よく似た状況をどれだけ区別して覚えていられるかを調べたところ、新生神経細胞が増えたマウスは野生型よりも良い成績を示しました。
また、抗うつ薬の効果との関連から、新規探索行動や不安行動についても調べましたが、野生型と有意な差は認められませんでした。つまり、抗うつ薬の効果に神経新生は必要ではあるものの、十分ではないことが示唆されたわけです。
面白いことに、自発運動をさせてやると、神経新生を増やしたマウスでは野生型よりも新規探索行動や不安行動が増えることから、神経新生と外的要因の両方が揃うことが重要であるようです。
やっぱり神経新生は大事ではあるんですが、万能というわけではないようですね。
専門分野から離れるんで、業界としてこのことが驚きなのかみんな思っていたことが確認されたということなのかは分かりませんが、やっぱりきちんと実験系を作ること(この場合は新生神経細胞を増やしたマウスを作ったこと)は大事なんだなと思いました。