「しょうかっこう」とタイプしたら、そのまま「小確幸」に漢字変換できたが、使われているのは見かけたことがない。
この言葉に出会ったのは村上春樹の本で、文字通り「小さいけど確かな幸せ」を意味する彼の造語。特に村上春樹のファンというわけではないが、この言葉はずっと私の語彙に入っている。
娘が一歳を過ぎたころ、娘をひざに載せ、ブランコに乗っていた。晴れた午後で、暖かい陽射しの中、娘の頭のてっぺんの匂いを嗅いだときに、なんとも言えない幸福感を感じ、「あぁ、小確幸だなぁ」と思ったことを覚えている。
この夏休みは、娘は別にして、私自身は病院以外、ほとんど出かけなかった。イースターでマドリードに行ってることもあり、夫が疲れていたり、仕事だったりで、夏休みの計画をしないまま、夏休みを迎えてしまった。スコットランドにいたときは、そんな夏も普通だった。
ところがアイルランドにきて、夏休みがスコットランドに比べて長いせいか、環境が変わったせいか、夏休みは出かける人がほぼ全員で、一度のホリデーだけではなく、2、3回くらい出かけている人も多い。娘の友達は、夏休みが始まった途端、まずアイルランド国内2箇所にいき、帰ってきてすぐに、アイルランド語の合宿に送られ、合宿が終わる日にスペインに行き、帰ってきて数日後にはバスケットキャンプに送られ、翌週はおじいちゃんおばあちゃんを訪ねにどっかに出かけるという、聞いているだけで疲れそうな夏だった。
そういう話を聞いていくうちに、段々、気持ちのコントロールが難しくなっていった。最初は「いいなぁ」くらいの感情だったのに、会う人、会う人から夏休みの予定を聞いていくうちに、焦燥感と鬱々とした気分になっていった。
我が家は旅行に出かける機会が少ないかもしれない。私も、学生の頃は少しは出かけていたけど、結婚してからは、スコットランド、アイルランド、日本の往復がほとんどで、スコットランド国内も、娘が産まれてからは少なくなった。若いうちは金銭的な理由もあったり、夫の仕事が忙しかったり、あとは夫自身があまり旅行が好きでないというのが大きいと思う。
夏のアイルランドは「晴れれば」素晴らしいし、近隣でも十分に楽しめるところはある。それにこの夏はアイルランドはなんていうか、私が知っているアイルランドの夏で、猛暑の日本とスペインにいる家族からは羨ましがられた。
でも、やっぱり、他の国に行ってみたいなぁと思う。違う空気、文化、言語、街並みに触れてみたい。イースターに行ったマドリードは本当に楽しかった。
気が沈んでいるときは、自分が閉じ込められていて、とんでもなく惨めな気がしていたが、ある出来事を通して、浅はかな自己憐憫に浸っていたことに気がついた。
どこかで見かけた「幸せはうす味」というのは、本当にそうだなと思う。強い味、刺激的な楽しさばかりを味わっていると、日常が退屈で物足りなく感じてしまう。でも、そんな日常をゆっくり味わっていく中で、見過ごしてしまいそうな美しさや、心が動かされる瞬間、感謝が生まれるひとときー小確幸をしっかりと感じることの大切さを、学んでいる。
この夏は、娘は本当に充実した時間を過ごした。友達に恵まれ、楽しそうな笑顔で家に帰ってくる姿を見るのは小確幸そのものだ。
