大阪肛門科診療所は明治45年創立。
来年、創立110周年を迎えます。
今の院長で4世5代目となります。
明治創立以来、肛門科一筋100年以上。
そして創立以来、全てのカルテが残っています。
長く肛門科をやっていると、昔、手術を受けた患者さんがやって来られる事があります。
昔・・・と言っても数年前とかではなく、30年以上前の先代の院長の時の患者さんが久しぶりに受診されるのです。
先日、35年前に先代の院長に脱肛の手術を受けた患者さんが来られました。
ここ最近、時々出血したり、きばりすぎた時にまた以前と同じように中から出てくる感じがするとのこと。
診察すると奥の方に内痔核が出来ていました。
そして今日は2回も排便があったのに、まだ便が残っています
飲酒は毎日。
飲み過ぎた翌日に出血することが多いと。
そりゃ、それだけ飲んでたら出血もするわな・・・
痔は排泄の結果だから、手術して痔を治しても、また肛門に負担がかかるような排便を続けたら何度でも痔になることを説明したら患者さんが
「院長先生から『もう二度と痔にならんように手術しといたから』と言われて、手術してから35年間、本当にオシリが快適だったので、なんでまた痔になったんやろ
って思ってました」
と言われました。
え
そんなこと、言ってたんや
と私が衝撃を受けました。
いやー・・・
昔の先生たちは
本当にそう信じて
患者さんに説明してたのですね
主人(今の院長です)にその話をしたら
「親父が生きてて一緒に仕事してたら治療方針で絶対にぶつかったやろなぁ。学生時代に亡くなって大変やったけど、ある意味、ぶつかって険悪な仲にならずにすんだことを考えたら幸せやったかもしれん」
と。
なるほど・・・。
確かにその通りかもしれませんね
そもそも
お父さん(主人の父親)が生きていたら、私は肛門科医になって診療所で仕事をすることもなかったでしょうから、全ては何もかも必然だったのでしょう。
患者さんは「大阪肛門病院で手術をして、術後も痛みもなく本当に快適で良かった」と、思い出話をたくさん聴かせて下さいました。
この患者さんに限らず、手術したら二度と痔にならないと思い込んでいる人は多いのかもしれません。
あるいは「手術したのにまた痔になるのは手術の腕が悪いからだ」と思っている人もおられるかもしれませんね。
手術して2〜3年でまた脱肛するのは、正直、手術の腕によるものかもしれませんが、10年、20年経ったら、また痔になることはありますよ。
いや、むしろ良い手術ほど痔核ができやすいとも言えるかもしれません。
取りすぎた(切りすぎた)肛門は硬くなるため、痔核の組織が発生しません。
その代わり、奥の直腸粘膜が痔核のように脱出してくることがあります。
適切に病変部のみ切除して、正常な肛門上皮をしっかりと残した手術では、肛門の機能は保たれますが、負担がかかるような排便をしていると、また痔核が発生しやすいです。
だから再発は決して手術の良し悪しで起こるものでもないんですよね。
手術で治せるのは痔だけ。
便秘まで治せません。
手術しても二度と痔にならない肛門を作ることはできないんです。
そのことに患者さんも納得。
それを理解された上で「35年間、なんにもせずにやってきて、ずっと痔に悩まされることなく来れたのは、やっぱり手術が上手かったからやと思います」と言って褒めて頂きました
いやー
ありがたいですね。
100年以上の歴史のある肛門科ですが、ずっと同じ治療、同じ治療方針でやってきたのではなく、時代の変遷とともに変わってきたことが今回の患者さんの話でよく分かりました。
昔は手術件数も多かったですしね。
手術が最善の治療だと信じて先人たちは患者さんを救ってきたのでしょう。
今の私たちの「切らない方針」を見て先祖たちはどう思っているでしょうか。
創立100年以上ですが、先祖代々伝承されてきた秘伝の技術や薬があるわけではなく、古くからやっていること、長く続いていることが良いこと、素晴らしいことでもなく、常に「患者さんのために」という当たり前の心持ちで治療に当たってきたことが「老舗の伝統」なのではないかと思い至りました。
正しさは時代によって変わるし、人によっても違うでしょう。
治療方法や手段も変わるだろうし、何が良い悪いではない。
ただ「患者さんのために」は時代が変わっても、院長が代替わりしても変わらないこと。
これからも目の前の患者さんのために診療を続けていきたいと思います。
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