今日ご紹介する患者さんは50代女性。
地元の肛門科に2年間通院しているけれど症状が治らず、セカンドオピニオンで私の外来に来られました。
この患者さんも2年間通院しているのに直腸指診をされたのは初回のみで、そのあとは受けておられませんでした
肛門科はオシリを診てもらうところ。
肛門の診察というのは視診・指診(直腸指診)・肛門鏡診の3つを行います。
さらに必要に応じて吸角や直腸鏡を使用する場合もあります。
うちの診療所では肛門を診ずに患者さんを帰すことはありません。
いくら患者さんが「調子良い」「何も変わりない」と言われても必ず肛門の診察を行います。
なぜなら患者さんの自己申告内容とオシリの状態が一致しないことも多々あるからです。
特に直腸指診はとても大切。
便があるかどうかを必ず毎回チェックしていますが、実はそれ以上に大切なのが肛門付近にある癌を見逃さないため。
今まで他の医療機関にずっと通院していたのに、直腸指診を受けていなかったが為に、すぐそこにある直腸癌を見つけてもらえなかったケースを山ほど診てきたからです。
だから「癌はないよな?」ということを確認するために、直腸指診は時間をかけてしつこく、便があれば便を出してきてもらってからもう一度診察をし直しているのです。
便があると癌が分かりにくいから。
坐薬や浣腸をして便を出してきてもらったら直腸に癌があった・・・なんていうケースも多々ありました。
だから直腸指診はとても大切。
もしも肛門科に通院されているのであれば、先生にお願いして定期的に受けて下さいね。
それでは患者さんのアンケートをお読み下さい。
この患者さん、診察室に入って来られるなり「そんなひどい状態じゃないんです。」とすまなさそうに言われたのですが、地元の肛門科に2年も通院されていて、わざわざ地元ではない、しかも自由診療の肛門科に受診されるからには、相当、困ったことや悩みがあったはず。
痔がひどいかどうかは関係ありません。
この患者さんは自己申告通り、いぼ痔(痔核・脱肛)も無い、切れ痔も今は治っている状態の、キレイな肛門でした。
何も無いのに肛門科を受診すると先生に怒られる・・・
と言われた患者さんも多数おられましたが、痔が無くても「症状」があれば受診していいのです。
患者さんの「困った」「不便」を解消するのが私達の仕事。
ただ一般的な保険診療の肛門科では「治療」がメインなので、痔がない状態で受診すると「大したことないですよ。大丈夫です。」と言われてステロイドが入っていない注入軟膏と酸化マグネシウムなどの緩下剤を処方されて終わることが多く、それを使っても出始めの便が硬くて出す時に痛いことや、排便後の気持ち悪さは治りません。
中には「何しに来たの?こんなことで来ないで。」と先生に冷たく言われた患者さんもおられました。
忙しい肛門科だと大してひどくない、何も痔がない状態だと迷惑がられるようです
痔になってから受診しないと相手にされないのかもしれません。
でも私達の考え方は逆。
痔になる前に受診して欲しい。
痔は無いけれど、肛門に何かトラブルがあるのであれば、それは排泄がうまくいっていない証拠。
その段階で排便に介入してあげると痔になることを防げる。
そう確信して便通を治すことに力を入れています。
なぜなら痔の背景には必ずと言っていいほど「間違った排便」があるからです。
その中の重要な一つの要素が出残り便秘。
毎日排便があっても痔になっている人が多く、そのような患者さんのほぼ全員が出残り便秘でした。
そしてその出残り便秘を直すと痔が改善する、治るということをたくさん経験しているので、痔の根本治療は手術や注射療法ではなく、痔の原因となった便通を治すことだと考えています。
実際、手術と言われた痔も、この出残り便秘を直すだけで治ってしまった患者さんも大勢いるため、
手術の前にやることがあるだろう
まずは便通なおしてみない
と提案しています。
便通を治しても症状が改善しない場合は手術を検討。
だけどそういうケースはレア。
多くの患者さんが便通を治すだけで痔が良くなる、治る。
だからまずはオシリに負担をかけない排便を教えてあげることが私達の仕事だと思っています。
この患者さんのように長年、肛門に便を残して生きてこられていると、オシリが鈍感になっているため残便感やスッキリ感がよく分からなくなります。
残った便を肛門に挟んで生きてこられたので、そこに便があることが当たり前になってしまっている。
肛門は便の通り道であって便を溜める場所ではありません。
だからいついかなる時も、排便直前以外は空っぽ。
そこに便は無いんです。
坐薬を入れても何も出ないのが正常。
坐薬を入れると便が出るわ、出るわ・・・という状態は、まさしく出残り便秘。
それを出さずに溜めて生きてきたから肛門が不調なんです。
いっぱい便を溜めるのが当たり前になってしまっているから、たくさん便が溜まらないと便意が来ない。
坐薬を使うようになってから自然に便が出なくなった、便意を感じなくなったという場合は相当、肛門の感覚が鈍っています。
もっとたくさん便が溜まらないと便意が起こらない肛門になってしまっている証拠。
坐薬のせいで出なくなった・・・
と勘違いして坐薬をやめると、坐薬で出していた残便が、また肛門に溜まり、肛門のトラブルが再発します。
たくさん溜めて少しずつ出す習慣に戻れば、見かけ上、毎日排便があるかもしれないけれど、それは正常な排便ではありません。
出したあとは肛門の中は空っぽが正常なので、そこに便が残っている状態は肛門の感覚を鈍らせ、排便機能の低下を招きます。
坐薬を使ってオシリのリハビリをやっているようなものなので、自分でちゃんと排便できるようになるまで根気よく続けてみて下さい。
肛門の感覚が元に戻ってくると、便が分かる、便意を感じる、スッキリ出せるようになってきます。
実際、数年かかったけれど、今ではスッキリ自力で排便できるようになって、年に10回くらいしか坐薬を使っていないという患者さんも増えてきました。
そうなるまで信じて頑張れるかどうかですね。
そして酸化マグネシウムは「やわらかい便を作る薬」です。
決して「便をスッキリ出す薬」ではありません。
これから作られる便には効きますが、既に製造が終わって肛門の所まで下りてきている便や、出残り便には効きません。
出てくる便を見て、カチンコチンの硬い便しか出ない人にはいいでしょう。
でも普通便が出ている人には必要のない薬です。
必要の無い下剤を飲んで、軟便ばかり出していると、肛門が狭くなってしまいますので注意してくださいね。
この患者さんの結末ですが、2週間後の通院で完治終了となりました。
ほとんどの患者さんが2回目の通院で治療が終了します。
あとは患者さんが生活の中で排便管理を続けて行くだけ。
うまく行かないこともあるでしょう。
不安になることもあるかもしれません。
そんな時は遠慮なく受診してもらったらいいのです。
受診するほどではない場合は電話で相談して下さい。
そして年に1回のオシリ健診に是非いらしてくださいね。
1年過ぎるとお薬だけ処方することも出来ませんし、次に受診した時に初診となります。
最後に診察を受けた日を覚えておいて下さいね。
その日を過ぎると初診です。
皆さん、だいたい1ヶ月くらい前倒しで来られていますので、ちょっと早めの受診をオススメします。
別に痔が無くても、便通で困ったことがあるのであれば受診して頂いて構いません。
最近は分子栄養学を取り入れた便通治療をやっているので、お腹の便秘にも対応しています。
また肛門以外の身体の不調の相談を受けることも多くなってきました。
身体の不調や栄養療法希望の患者さんにも、必ず肛門の診察は受けて頂いています。
なぜなら出口の便秘によって身体の不調が引き起こされているケースがあるからです。
排便から生活習慣までトータルで患者さんを診ていますのでご理解頂きますようお願いします。
また来年、オシリ健診でお会いできるのを楽しみにしてます
診療所のセラピードッグ「ラブ」
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