今日ご紹介する患者さんは63歳女性。
痛みとでっぱりを主訴に来院されました。
実は、この患者さん、2003年に当院を受診されていました。
その当時は血栓性外痔核ということで自然治癒して治療終了していました。
最近、排便時にいきむと外に膨らみがあって、それがざくざくと痛みが生じるように。
ふくらみを中に押し込むと痛みが少なくなるという状況でしたが、現在は排便時の痛みもふくらみも何もないとのこと。
出残り便を出すためにいつも肛門の周りを押して排便されていました。
その出残り便を出そうとしていきんだらポコッと中から出て来たと。
便通は4〜5日に1回と便秘です。
出始めは硬くて出しにくい。
便秘なので市販の酸化マグネシウムを4日に1回くらい4錠(約1300mg)飲んで便を出しています。
もちろんウォシュレットは使っています。
キレイに洗ったはずなのに紙に便が付くので3回は拭いています。
診察をすると洗いすぎで肛門周囲の皮膚が色素沈着していました。
皮膚が炎症を起こし肛門のシワが浮腫状に盛り上がっています。
これはウォシュレットを使っている人によく見られる所見です。
直腸診で便を確認
昨日、下剤(酸化マグネシウム)を飲んで便を出したところなので、今日は排便がありません。
コロコロ便を触れたので、これは昨日の出し残しです
昨日は軟らかかった便が1日経って古くなったもの。
坐薬を入れて出して来てもらいました。
キレイに出し切れています。
肛門鏡でやや脱出気味の内痔核を確認しましたが、大きさも小さく、現在、脱出症状も痛みも出血もないため保存治療でOK
便通を治したら、この痔核もしぼんで小さくなることが多いため2週間後に期待
毎日坐薬を使ってもらい、酸化マグネシウムは軟便にならないよう調節して毎日飲んでもらうことにしました。
受診時に患者さんが書いて下さったアンケートがこちら。
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私は長い間かけて痔を育ててたんやと思いました。
だめな習慣の積み重ねで出口の便秘になってしまってました。
便秘の薬は色々飲みました。
しかし「便秘薬は大腸に効いて肛門には効かない」が正解だったんですね。
出口(肛門)の便秘なんて考えた事なかったです。
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短い感想ですが、一文一文が全てポイントです。
便秘=腸の問題と考えている人が多いでしょうから、出口の便秘の話には衝撃を受けられます。
そして18日後・・・
4〜5日に1回しか排便がなかったのに、坐薬を入れたら毎日便が出たそうです。
ということは腸はちゃんと動いて毎日便を作って、せっせと肛門まで運んでくれているということ。
だけど出口まで送り届けられた便を感知しない。
だから便意がこない。
かなり肛門が鈍感になってますねぇ・・・
「坐薬を入れないと便が出ない」ことを「坐薬が癖になった」と勘違いする方もおられますが違いますよ〜。
肛門の感覚が鈍りきっているから、坐薬を入れないと便が出せないんです。
逆ですからね。逆
坐薬を入れないと便が出せないような肛門にしてしまった・・・と考えて下さい。
この鈍っている感覚が元に戻ると、便が下りてきたら感じるようになり、そのうち便意が起こるようになって、自力で排泄できるようになってきます。
そうなるまで頑張って下さい。
酸化マグネシウムは毎日1〜2錠飲んで、ちょうどよい便が出ているとのこと。
それなら継続です。
酸化マグネシウムは「便を出す薬」ではなく「やわらかい便を作る薬」です。
これから作られる便には効きますが、既に出口まで下りてきている便や、ましてや出し残した出残り便には効きません。
便の水分を増やす薬なので、水分が少なく硬い便が作られてしまう人にはいいでしょう。
この患者さんは毎日1〜2錠飲んで、ちょうどよい硬さの便が出ていたので継続して内服するようアドバイスしました。
そして診察すると・・・
洗いすぎで色素沈着して、炎症で皮膚が浮腫状に盛り上がっていた肛門周囲の皮膚がキレイになっていました
洗うのをやめてSザルベを塗るだけで2週間後にはキレイになることが多いです。
肛門鏡で中を診察したら・・・
なんと
前回あった内痔核が無くなっていました
もちろん脱出症状や腫れ、痛み、出血など何も症状がありません。
このようなこと、よくあるんです。
便通を治したら痔も治ったというケースばかり。
ちょっとした内痔核や外痔核であれば、便通を治すだけで消失することも多いです。
だから手術と言われてもあきらめない。
まずは便通を治してみる価値はあり。
それにね
手術して痔核を切除しても、痔の原因となった便通を治さなければ、また痔になりますよ
実はこの患者さん、だいぶ昔、2003年に当院を受診される前に、他の肛門科で脱肛の手術を受けられていました。
「手術すれば二度と痔にならない」と思って手術を受けている人もおられるようですが、手術しても便通が悪ければまた痔になります。
私の外来に来られる患者さんの中には、痔の手術を4〜5回受けられたというツワモノもおられます
だから痔の根本治療は痔の原因となった便通を治すこと。
この患者さんには痔の原因となった出残り便秘と鈍感便秘の話と、その便秘治療に坐薬を使うこと、正しいおしりの手入れを指導し、完治終了となりました。
あとは年に1回のお尻健診です。
こうして多くの患者さんが2回目の通院で治療が終了し、あとは自己管理となります。
自己管理がきっちりできていれば、オシリの調子が悪くならないので、頻繁に通って来られる患者さんはおられません。
最近、年に1回の通院患者さんが増えてきて、なんだか治療をしている病院というより、予防センターみたいになってきてます
まさしく私達が目指している「痔にならないために、痔になる前に受診する肛門科」になりつつあります。
本当の治癒治療と予防医療を目指して頑張りたいと思います
出残り便秘・鈍感便秘についてはこちら。
出残り便秘・鈍感便秘 〜その残便感は便秘かもしれない〜
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