ハリー・ポッターシリーズのネタバレ(6巻のみならず、既刊のネタバレを含みます)OKな方、わたしの誤訳を笑って許して下さる方のみお読み下さいませ。


今回は感想は抑えて、原書にある会話を中心にご披露したいと思います。



Chapter4 Horace Slughorn(ホレイス・スラグホーン:人名)


ここ数日間、目覚めている時はいつもダンブルドア校長がここ(プリベット通りのダーズリ―家)から連れ出しに来てくれることを願ってやまなかったのに、いざプリベット通りを出て校長とふたりきりになると、ハリーは決まり悪くなってしまった。


これまで校外で校長とまともに会話をしたことは一度もなかった。いつもはふたりの間に机があった。


しかも、この前最後に校長と会った時自分がしでかしたことを思うと、更に気まずい気持ちになった。


その時ハリーは叫び、わめき、その場(校長室)にあった貴重な品(校長の持ち物)をいくつも壊したのだった。


しかしそんなことがあっても、校長のほうは完全にリラックスしているように見えた。


「杖を用意しておくのじゃ、ハリー」と校長は明るく言った。


「でも僕は校外で魔法を使うことは許されていません」


「もし襲われたなら、わしは君にどんな防御魔法だろうと使う許可を与えよう。

まあじゃが、今夜襲われる心配はないと思うがの」


「なぜです、校長?」


「君はわしと一緒におる。だからじゃよ」


ハリーが校長の(怪我をしていない)左腕をとると、ふたりは Apparition 姿現しで移動した。


ハリーにとって初めての姿現し。とてもきついゴムチューブを無理やり通リ抜けたような感じだった。


校長がハリーを連れてきたのは、真夜中の閑散とした村の広場のような所。


「大丈夫かね?」


「ええ、大丈夫です。でも僕は箒のほうが好きかも知れません」


校長はそれを聞いてにっこりして言った。


「ハリー、君の傷は・・・少しでも痛んだかな?」


「いいえ。僕もずっとそれを不思議に思ってました。

ヴォルデモートの力が強くなったので、ひっきりなしに痛むと思ってたのに」


「わしは間違っておったようじゃ。

どうやら今では、ヴォルデモートは君に対し、オクルメンシー(精神防御)を用いておるようなのじゃ」


「僕はそれでいいです。それより、ここで何をしようとしているんですか?」


「おお、そうじゃ。君に言っていなかったのぉ。

わしの昔の同僚を隠居暮らしから引っ張り出して、ホグワーツ(魔法学校)に戻って来るよう説得しに来たのじゃ。」


「校長、なぜその方の家に直接姿現しできないんですか?」


「それは玄関の扉を蹴りあけるくらいの無作法になるからじゃよ。

それにほとんどの魔法使いの家は、望まない姿現し防止の魔法がかけられておる。

たとえばホグワーツは――」


「――建物の中や敷地のどこにも姿現しすることはできない。ハーマイオニ が教えてくれました」


「あのこのいうとおりじゃ」


ハリーは、ではこんな遅い時間に訪問することについては、なぜ無作法に思わないのだろうかと訝しんだが、もっと差し迫って聞きたいことがあった。


「校長、ファッジが解任されたのを新聞で読んだのですが…」


「そのとおり。後任はルーファス・スクリンジャーじゃ。彼は闇祓い局長じゃった」


「彼は…彼は適任だと思いますか?」


「興味深い質問じゃな。彼は有能だ、間違いなく。コーネリアスよりも断固としていて、芯が一本通っておる」


「はい、でも僕が言おうとしたのは・・・」


「君が言おうとしたことはわかっておるよ。

ルーファスは在職中の殆どを闇の魔法使いと戦ってきたのじゃ。

ヴォルデモートを見くびるようなことはすまい」


「それに…マダム・ボーンズのことも読みました」


「そうじゃな。ひどい損失じゃ。彼女は偉大な魔女じゃった。わしらが目指す所はすぐそこじゃ――お、痛」


校長は怪我の手で道を指し、痛さにうめいた。


「校長、その腕はいったい?」


「今それを説明している時間はない。(略)ここがそうじゃ、ハリー、まさにここじゃ」


ふたりは小じんまりとしたきれいな石造りの庭のある家の前まで来ていた。


その家の玄関の扉は外れてぶらさがっていた。人がいる気配は感じられなかった。


「杖を出してわしの後について来るのじゃ、ハリー」


灯りのついた杖を高く差し上げ、校長はハリーを従え居間に入っていった。


ハリーが小さく息を飲むと校長がふり返った。


「あまり美しいとは言えんのう。ここで何かひどいことが起こったようじゃ」


校長は注意深く部屋の真中に行き、足元の残骸を精細に調べた。


ハリーは荒れた部屋をじっと眺め、ピアノの残骸やひっくり返った長椅子で見えない陰に何かあるのではないかと少なからず恐れた。が、死体はなかった。


「たぶん襲撃があって――奴らは彼を連れ去ったんじゃないでしょうか、校長?」


「そうは思わんよ」


「じゃあ、彼はまだこの家のどこかにいる?」


「そうじゃとも」


校長は、詰めものをしすぎた肘かけ椅子のシートに、唐突に杖先を突き刺した。


「痛い!!」


たった今肘かけ椅子のあった場所には、とてつもなく太ったハゲの老人が屈み込み、下腹をさすりながら校長を横目で睨んでいた。


「こんばんは、ホレイス」


「そんなに強く刺さないでもよかったはずだ!痛かったぞ。しかし何でわかったんだ?」


ホレイスと呼ばれた男は、肘かけ椅子の振りをしていたのを見つかったばかりにしては、ちっとも決まり悪くなさそうだった。


「親愛なるホレイス。デスイーターがやって来たのなら、家の上に闇の印が上がっていたじゃろう」


「闇の印・・・何か忘れたことがあるとは思っていた…ああそうだった。でもどのみち時間がなかった。

君が部屋に入って来たときに、私はちょうど椅子の詰めものの最後の仕上げを終えたところだったんだ」


「部屋を片付ける手助いをした方がいいかね?」


「ああ、お願いするよ」


「ちなみにあれは何の血だったのかな?」


「壁のか?ドラゴンだよ(略)」


ホレイスの視線がハリーをとらえ、その大きな丸い目がハリーの額にある稲妻型の傷を素早く見つけた。


「ほお・・・」


「こちらは、ハリー・ポッターじゃ。

ハリー、こちらはわしの古い友人でありかつての同僚、ホレイス・スラグホーンじゃ」


「では、これ(ハリーを連れてくること)が私を説得する方法と考えたわけか?

だが、答えはノーだ、アルバス」


「飲み物をいただけるものと思っておるんじゃが?」


「いいとも。では、一杯だけ」


「さて、調子はどうかね、ホレイス?」


「あまりよくない。胸が弱っているんだ。ぜいぜいいうし、リューマチもある。前のようには働けない。

まあ想定の範囲だ。年を取ったんだ。疲れたんだ」


「それでも君は、わし等のためにああいう歓迎をあんなに素早くするには、かなり速く動いたに違いなかろう。

君に3分以上の猶予があったとは思えんが?」


「2分だ。それでも私が年寄りだという事実は歴然としてあるんだ、アルバス。

私は静かな生活と少しばかり慰めの品を手にいれた老いぼれだ」


「だとしても、君はわしほどの老いぼれではないぞ、ホレイス」


「まあ、君も自分の引退について考えるべきだろう。

反応が以前のようにはいかないらしいな(黒焦げの腕を見て)」


「まったくその通りだ。わしは前よりも遅くなっている。

だがその一方で…(特殊な指輪を獲得したことを見せつける)。

で、一連の侵入者に対する用心は、ホレイス…

デスイーターのためなのか、それともわしのためなのかな?」


「デスイーターが哀れなくたびれた老いぼれに何の用がある?」


「あ奴らは少なからぬ君の才能を、強要や拷問や殺人に使いたいのだろうとわしはにらんでおる。

君はあ奴らが今まで誘いに来なかったと、本気でわしに言っとるのかね?」


「私は奴らに踏み込むチャンスを与えなかった。私は一年間ずうっと引っ越しを続けていた。

ひとつの場所に一週間以上は決していなかった。マグルの家からマグルの家へ――(略)」


「器用なものじゃ。しかし静かな生活を求めるガタのきた老いぼれにとって、それはちいとばかり疲れる生き方に思えるがの。どうかな、もし君にホグワーツに戻る気があれば――」(略)


校長は唐突に立ち上がった。


「帰るのか?」


「いや、バスルームを使わせてもらえないかと思ったのじゃ」


校長が席を立って、ハリーと二人きりになるとホレイスは話しかけてきた。


「ハリー、彼がなぜ君を連れてきたか、私が知らないとは思わんでくれ。君は父親にとてもよく似ている」


「ええ、そういわれます」


「目は別だが。君の目は――」


「母の目です」


「ふむ。そうだな。

教師というものはえこひいきをするべきではない、もちろん。

だが彼女は私のお気にいりのひとりだった。君の母親、リリー・エヴァンズは。

私の教え子のうちで最も輝ける生徒のひとりだ。快活だった。魅力のある娘だった。

よく彼女には、私の寮に入るべきだったと言ったよ。

その度にとてもこしゃくな返事を受けとったものだった・・・」


「あなたの寮は?」


「私はスリザリンの寮監だった。だからといって悪く思わないでくれ!

きっと君は彼女と同じグリフィンドールなのだろう?そうだ、一般的に家族は同じ寮になる。

しかし絶対ではない。シリウス・ブラックのことを聞いたことがあるかね?

聞いたことがあるはずだ――ここ数年、ずっと新聞を賑わしていて――数週間前に死んだ―。

まあ、それはそうと、彼は学校時代、君の父親の大親友だった。

ブラック家は全員私の寮だったが、シリウスはグリフィンドールに入った!

残念なことだ―彼は才能ある少年だったのに。

弟のレグルスの方は手に入れたがね。しかし兄弟は揃っていた方が良かった」


ホレイスの言い草はまるで、競売で値を吊り上げるコレクターのようだった。


「君の母親はマグル生まれだった。それを知ったときには信じられなかった。

彼女は純血に違いないと思っていた。彼女はとても良く出来たから」


「僕の親友のひとりもマグル生まれで、彼女は僕達の学年で一番です」


「私が偏見を持っているなどと考えてはいけないぞ!違うん、違う、違うんだ!

私は君の母親がずっと私のお気に入りの生徒だったと言わなかったかね?(略)

…私が有名な選手と名前で呼びあう仲で、いつでもタダでチケットがもらえると聞くと、世間の人は決まって驚いたものだよ」


「その有名なみんなは、あなたが今どこにいるか知ってるんですか?」


ハリーは、もし、チケットを送ったり、彼の助言を求めたりする人々がコンタクトできるなら、なぜデスイーターに彼の居所がわからないのか不思議だった。


ホレイスの顔から、壁から血が消えたと同じ位の速さで笑顔が消えた。


「もちろん知らない。私はこの一年、誰とも接触を持っていないからな。

当然…慎重な魔法使いならこんな御時世には目につかないようにするものだ。

ダンブルドアと話をするのはまったくかまわないが、今この時、ホグワーツの教師になることは不死鳥の騎士団に公然と忠誠を誓うようなものだ!

騎士団は賞賛すべきであり、勇敢であり、他にも色々素晴らしいことは認めるが、その死亡率がいけない」


「ホグワーツの教師になるために騎士団の一員となる必要はありません」


ハリーは嘲るような声の調子を隠すことはできなかった。


洞窟でネズミを喰らって生きてきたシリウスを思うにつけ、スラグホーンのぬるい生き方には共感できなかった。


「ほとんどの教師は騎士団に入っていませんし、誰も殺されてはいません――クィレルを別にすればですが。

彼はヴォルデモートに協力していたのですから、その報いを受けました。

ダンブルドアが校長でいるうちは、ホグワーツの教師は他のたいていより安全だと思います。

彼はヴォルデモートが唯一恐れた相手です。そうでしょう?」


「まあ、そうだな。名前を言ってはいけないあの人が決してダンブルドアと戦おうとしなかったことは事実だ。私はデスイーターにならなかったから、名前を言ってはいけないあの人は、私をまず友人としては迎えないだろう…だからアルバスの側にいることで、ずっと安全になるかも知れない…

でも、私はアメリア・ボーンズの死に震え上がらなかったような振りは出来ない…

あの、魔法省とのつながりも保護もある彼女でさえ…」


校長が部屋に戻ってきた。ホレイスは彼が家にいたことを忘れていたかのように驚いた。


「ああ、君か、アルバス。ずいぶん長かったな。腹の具合でも悪いのか?」


「いや、マグルの雑誌を読んでいただけじゃ。わしは模様編みが好きなんでの。

さて、ハリー、もうおいとまする時間じゃ」


ホレイスは不意をつかれたように見えた。


「帰るのか?」


「そうだとも。わしは駄目になった人間は会えば判ると思っておる」


「駄目になった…?」


「君が職をほしがっていないのは残念だった、ホレイス。

ホグワーツの警備は厳重になっておるが、君が訪ねてくれればいつでも歓迎しよう」


「そうか…それは…どうもご親切に…」


別れの挨拶をしてハリーと校長が玄関扉の前に来た時、後ろから叫び声がした。


「わかった、わかった、やるよ!」


「隠居暮らしから出てくるつもりかな?」


「そうだ、そうだとも。私は気が狂ってるに違いない、だがそうしよう」


「よろしい。では、ホレイス、9月1日に会おうぞ」


「そうだな、そうなるだろうな。給料を上げてもらうぞ、ダンブルドア!」


校長はくすりと笑った。


「よくやった、ハリー」


「僕は何もしてません」


「ああいや、君はしたとも。

ホレイスにホグワーツに戻って来れば、どれだけのものを得るか気づかせたのじゃ。

彼が好きかね?」


「それはその…」


「ホレイスは、自分を悦ばせてくれる者が好きなのじゃ。

有名で成功していて力を持った者とつきあうこともまた好きじゃ。

そんな著名人達に自分が影響を与えている気分を楽しむのじゃ。

彼は自分自身が玉座に就こうとは一度も望まなかった。後ろの席を好むのじゃ。

――展示スペースをもっと広げたがる、わかるじゃろう。

彼は、学校で、これと見込んだ生徒を選び出しておった。

ある時は野望や優れた頭脳を持つ者を選び、ある時は魅力や才能のある者を選んでおった。

彼は、さまざまな分野で傑出する者を選ぶことに抜群の才覚をもっておったのじゃ。

自らを中心としてお気に入りの生徒のクラブのようなものを作り、見込んだ者同士を引きあわせては、為になる交際をさせ、いつも何かしら見返りを得ておった。

見返りは、好物のパイナップルの砂糖漬けだったり、ゴブリン局の新メンバーを推薦する機会だったりというわけじゃ。

わしが君にこんな話をするのは、ホレイスに――スラグホーン教授に、反感を持たせるためでなく、用心させるためじゃ。

彼は間違いなく君をとりこもうとするぞ、ハリー。君は彼のコレクションの宝石になるじゃろう。

生き残った男の子 …あるいは、この頃人々が呼んでいるところの、選ばれし者じゃからな」


先ほど通り過ぎた教会と同じところまで来ると校長は止まった。


「ここでいいじゃろ、ハリー。わしの腕につかまるのじゃ」


ふたりは再びアパレイションした。


                                             つ づ く