前回の記事で
乳酸→ピルビン酸の反応を扱いました。
CH₃−CH(OH)−COO⁻ + NAD⁺
→ CH₃−CO−COO⁻ + NADH + H⁺
実は引っかかっていたことがあります。
NAD⁺ はプラスに荷電している。
そこに水素イオン H⁺(プラス)がくっついたら
プラス+プラスで +2 になるはず。
なのに NADH は電荷0。
これがどうしても分からない。
答えを先に書きます。
NAD⁺ にくっつく水素は
H⁺ ではありませんでした。
水素には3つの姿があるのだそうです。
名前 記号 陽子 電子 電荷
プロトン H⁺ 1個 0個 +1
水素原子 H 1個 1個 0
ヒドリド H⁻ 1個 2個 −1
水素原子はもともと 陽子1個+電子1個。
電子を失うと H⁺(プロトン)。
これは知っています。
電子をもう1個もらうと H⁻。
これをヒドリドと言うそうです。
こんな言葉、初めて聞きました。
いや、習ったのかもしれませんが
完全に消えています。
ヒドリドが分かると計算が合います。
NAD⁺ (+1) + H⁻ (−1) → NADH (0)
なるほど。
電荷0のNADHになります。
すっきりしました。
ついでに、化学式の最後に出てくる
「+ H⁺」について。
もう一度先程と同じ化学式を書きます。
CH₃−CH(OH)−COO⁻ + NAD⁺
→ CH₃−CO−COO⁻ + NADH + H⁺
乳酸から外れる水素は2個分です。
その行き先が違っていたのです。
1個目 → ヒドリド H⁻ として NAD⁺ へ
→ NADH になる
2個目 → プロトン H⁺ として溶液へ
→ これが式の「+ H⁺」
勝手なイメージで
化合物から水素が外れると
自動的に H⁺イオン みたいな
気がしてしまうのですが、
CH₃−CH(OH)−COO⁻
と
CH₃−CO−COO⁻
の荷電はともに-1ですので
2つのHの荷電の総和は0なのです。
だから上のような話になると
言うことですね。
ここで前回の話とつなげます。
乳酸のC2は 0 → +2 でした。
電子2個を失ったわけです。
その電子2個はどこへ行ったか。
ヒドリド H⁻ の中に
電子が2個入っています。
これが NAD⁺ に渡された。
つまり 電子2個は、
水素に乗って運ばれた。
裸の電子が水の中を飛んでいくことは
できません。
だから陽子1個に電子2個を乗せて
H⁻ という形にして運ぶ。
残った陽子1個は用済みなので
溶液に捨てる。
それが「+ H⁺」。
乳酸が酸化されて、
NAD⁺ が還元される。
その電子の受け渡しの現場が
ヒドリドだったわけです。
結果として、この反応において
NAD⁺ は
「電子2個+陽子1個」を受け取ります。
• 電子2個で電荷が2つ下がる(+1 → −1)
• 陽子1個で電荷が1つ上がる(−1 → 0)
• 差し引き 0
NADHの「H」は、
この受け取った陽子1個のことです。
これまで何度もこの化学式を見てきました。
CH₃−CH(OH)−COO⁻ + NAD⁺
→ CH₃−CO−COO⁻ + NADH + H⁺
あまり中身のことを
深く考えた事はありませんでした。
でも、分かってみると
式の意味が変わって見える・・
気もする。