大阪肛門科診療所 院長 佐々木いわおブログ──『過ぎたるは及ばざるにしかずだよ、佐々木君』

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「切りすぎた肛門は元には戻せないんだよ・・」故隅越幸男先生の言葉をいつも心の真ん中に置いて「切りすぎない手術」「切らない肛門診療」を追求する肛門科専門医が、手術のこと、治療のこと、日常のことを、綴ります。

前回の記事で
乳酸→ピルビン酸の反応を扱いました。

CH₃−CH(OH)−COO⁻ + NAD⁺
  → CH₃−CO−COO⁻ + NADH + H⁺

実は引っかかっていたことがあります。

NAD⁺ はプラスに荷電している。
そこに水素イオン H⁺(プラス)がくっついたら
プラス+プラスで +2 になるはず。

なのに NADH は電荷0。
これがどうしても分からない。


答えを先に書きます。

NAD⁺ にくっつく水素は
H⁺ ではありませんでした。

水素には3つの姿があるのだそうです。

名前    記号    陽子    電子    電荷
プロトン    H⁺    1個    0個    +1
水素原子    H    1個    1個    0
ヒドリド    H⁻    1個    2個    −1

水素原子はもともと 陽子1個+電子1個。

電子を失うと H⁺(プロトン)。
これは知っています。

電子をもう1個もらうと H⁻。
これをヒドリドと言うそうです。

こんな言葉、初めて聞きました。
いや、習ったのかもしれませんが
完全に消えています。


ヒドリドが分かると計算が合います。

NAD⁺ (+1) + H⁻ (−1) → NADH (0)

なるほど。
電荷0のNADHになります。
すっきりしました。


ついでに、化学式の最後に出てくる
「+ H⁺」について。

もう一度先程と同じ化学式を書きます。

CH₃−CH(OH)−COO⁻ + NAD⁺
  → CH₃−CO−COO⁻ + NADH + H⁺

乳酸から外れる水素は2個分です。
その行き先が違っていたのです。

1個目 → ヒドリド H⁻ として NAD⁺ へ
 → NADH になる
2個目 → プロトン H⁺ として溶液へ
 → これが式の「+ H⁺」
 
勝手なイメージで
化合物から水素が外れると
自動的に H⁺イオン みたいな
気がしてしまうのですが、
CH₃−CH(OH)−COO⁻

CH₃−CO−COO⁻
の荷電はともに-1ですので
2つのHの荷電の総和は0なのです。

だから上のような話になると
言うことですね。


ここで前回の話とつなげます。
乳酸のC2は 0 → +2 でした。
電子2個を失ったわけです。

その電子2個はどこへ行ったか。
ヒドリド H⁻ の中に
電子が2個入っています。
これが NAD⁺ に渡された。

つまり 電子2個は、
水素に乗って運ばれた。

裸の電子が水の中を飛んでいくことは
できません。

だから陽子1個に電子2個を乗せて
H⁻ という形にして運ぶ。

残った陽子1個は用済みなので
溶液に捨てる。
それが「+ H⁺」。

乳酸が酸化されて、
NAD⁺ が還元される。
その電子の受け渡しの現場が
ヒドリドだったわけです。

結果として、この反応において
NAD⁺ は
「電子2個+陽子1個」を受け取ります。
•    電子2個で電荷が2つ下がる(+1 → −1)
•    陽子1個で電荷が1つ上がる(−1 → 0)
•    差し引き 0
NADHの「H」は、
この受け取った陽子1個のことです。


これまで何度もこの化学式を見てきました。

CH₃−CH(OH)−COO⁻ + NAD⁺
  → CH₃−CO−COO⁻ + NADH + H⁺

あまり中身のことを
深く考えた事はありませんでした。

でも、分かってみると
式の意味が変わって見える・・
気もする。