百鬼夜行大戦に向けて周りが慌ただしく準備している一方、瑚々は一人残って煙草を指に挟んだまま壊れた窓ガラスのそばに佇み、遥か下にいる人間たちを蔑むように見下ろしていた。
「怖いのか、瑚々」
振り返ると、玉章が口元に笑みを浮かべながら瑚々を見つめていた。
彼女は小さく微笑んだ。「私に怖いものなんてないわ」
そう言ってまた窓の外に視線を戻す。
「信じられる?」
玉章がそばにくると、彼女は小さな声で囁いた。「今、この瞬間でもどこかで生命が誕生し、消えていく。女と男が出会い、そして別れていく。何の混沌もない世界」
煙を吐き出しながら、すっと目を細める。「昔から、あの世界は嫌いだった。誰もが変化のない世界に満足して、ありきたりな人生を望み、物事を世間の価値観で推し量って、‘普通ではないこと’を恐れ、憎んでいるあの世界が」
瑚々は目を閉じた。微かに声が震えていた。「私もその中で生きていた。息を潜め、自分が特別であることを隠し続けていた。でも―――」
瑚々は目をあげて、玉章を見つめた。「あなたが私の世界を変えてくれたのよ、玉章。あなたは押しつぶされそうだった私を、あの世界から救い出してくれた」
手を玉章の頬にあてながら、彼女は微笑んだ。「あなたは私の希望の光・・・今も、これからも、それは一生変わらない。私は・・・・未来永劫、あなたのものよ」
何かを期待したことなんてない。
利用されてもいい。愛してくれなくてもいい。ただ、そばにいてくれればいい。
玉章が、瑚々の全てだから。
玉章は彼女を抱き寄せ、その額に唇を落とした。
「お前を離さないよ、瑚々。君はこれからもこの玉章の武器であり、盾でありつづける。お前は、そばにいてくれればいい」
彼女の美しい髪に唇を当てながら、玉章は微笑んだ。「お前は、ずっとボクのものだよ―――――――――――――――――玉鬘」
私の全てはあなた
あとがき:ようやーく、瑚々の本名出しました^^
玉鬘(たまかずら)です。源氏物語からとりました♪
意味は「運命」。「瑚々」という名は運命に翻弄された彼女が、これ以上振りまわされないように、と「玉章」と「玉鬘」の「玉」を王という意味に変えたものです。