「・・・・離れてろ、といった筈だが?」


立ち上がりながら玉章が苛立しげに言った。目が不満げに光を放っている。


だが瑚々に臆した様子はない。「ええ。でも、手伝うなとは言ってない筈よ」


そう微笑んで、立ち尽くしている奴良リクオに手を伸ばし、指先でその頬に触れた。


「どう?夜雀の幻夜行は。彼女の作りだす闇の世界はとても素敵でしょ?」


「・・・・・・・」


何も見えない。だが、彼女が笑っているのが分かる。


でも、それはいつも――――・・・。


「・・・・・哀しいくせに、笑ってんじゃねぇよ」


リクオのその言葉に、彼女は目を大きく見開いた。「なに・・・」


リクオは彼女を見た。何も見えなくても、彼女を感じることはできる。


リクオは動揺に震える瑚々の手首を掴んだ。「いつも自分を偽って、押し殺して・・・それで、お前は満足なのか?」


彼女は首を振った。「やめて」


‘お前が、哀しそうだったから――――’


犬神とリクオの姿が重なる。聞きたくない。


リクオは構わずに続ける。「みじめなものだな。人としても、妖怪としても道化の仮面をかぶり続けているお前は―――」


その瞬間、初めて彼女の紫色の瞳が憎しみに満ちる。


「貴様・・・・ッ」


だがその時、リクオは息を詰まらせた。視線を落とすと玉章の刀が、リクオの腹部を貫いていた。


「言っただろう――――ボクの嫁に、手を出すなと」


刀を引き抜きながら、玉章が言った。


瑚々を見ると、目を大きく見開いたまま、立ち尽くしていた。


ここまで感情をむきだした彼女を見るのは、玉章でも初めてだった。


倒れているリクオに目をやる。もしかしたらこの男は彼女の隠された面を引き出すことができるかもしれないな。


「瑚々」


名前を呼ぶと、彼女は顔を上げた。


10年前に出会った少女の姿がそこにあり、思わず笑みが浮かぶ。


憎しみと悲しみを目にいっぱいためていた、あの頃の彼女が。


玉章は、フッと笑い、魔王の小槌の柄を瑚々に差し出した。彼女は怪訝そうに玉章を見上げた。「お前がこの男の首をとれ。お前には、その権限がある」


仮面の中の目を見つめ、それが玉章の願いなのだと分かる。


瑚々は頷き、魔王の小槌を手に取った。


倒れているリクオを見下ろすその目は、驚くほど静かだった。


「―――あんたの果敢に相手に挑みかかるところは嫌いじゃなかった」


顔を上げて、瑚々を睨みつけるリクオに彼女は囁いた。


紫色の瞳がギラリと輝く。


「でも、お前は私たちを怒らせた――――その罪は、重い」


すっと魔王の小槌をかかげる。「今ここで――――散れ」


瑚々が刀を振り下ろした―――その時。


「動かないで」


ひんやりとした槍が瑚々の首筋に当てられた。「動いたら、ケガをしますよ、血塗られた花嫁」


雪女は振り返り、リクオの姿を見て嬉しそうに顔を輝かせた。


「リクオ様!・・・やっと見ぃつけた!」





氷。









あとがき:雑ーーーーーーーーーーーー。


なんかいつも策略ばっかしてるから、バトル向きではない我らが夢主。うーん。

「へぇ」


リクオは、彼女をまじまじと見つめ、ニヤッと笑った。「いい服だな。お前の目の色によく映える」


「あら、ありがとう」瑚々は微笑んだが、その紫色の瞳は氷のように冷たい。「でも、これは喪服よ。あなたに対しての、だけどね」


「離れてろ、瑚々」


リクオの刀を振り払いながら、玉章が唸った。「お前を巻き込みたくない」


瑚々はにこりと微笑んだ。「仰せのままに」


そう言って、流れるような動きで玉章とリクオから離れる。


それを見届けると、玉章はリクオに向き合った。「悪いが、ボクの嫁に手を出さないでもらえるか?どうもあれは君にご執心のようだ」


「・・・・・だろうな」


フッと笑って、リクオは身構えた。「だが驚いたぜ。お前みたいな奴でも、あの女だけは大切にするんだな」


玉章は馬鹿にするように鼻でせせら笑った。「どうやらきみは勘違いしてるようだね、リクオ君。あの娘は最後の盾。今死なれては困る」


「・・・・・・・そうかい。なら」


盃を玉章に向かって振り下ろす。


「奥義・明鏡止水"桜"」


その瞬間、炎が巻き起こり、玉章に襲いかかった。


だが、瞬時に機転を利かせた玉章は、犬鳳凰を盾にして、難なく炎の牙から逃れた。


「オイオイ・・・・・・部下を身代わりにして逃げるのか」


炎に包まれ、灰となった犬鳳凰に目をやりながら、リクオは呆れたように言った。



「どうも・・・いつまでたっても小物にしか見えねえ奴だ。このまま消してしまってかまわねえ気がしてきたぜ」



「それは」


凛とした声が後ろから聞こえ、はっと振り返ると、いつの間にか瑚々が笑みを浮かべながらリクオの肩に顎を乗せていた。


「あんたの方よ」


その瞬間翼の羽ばたく音が聞こえ、とっさに顔を上げると、目の前に狐文字が書かれた布を顔に巻いた女の鳥妖怪の顔が目の前に迫っていた。


瑚々がすっと身を引く。「やれ、夜雀」


夜雀、と呼ばれた妖怪がくるりと体を回転させると、その漆黒の翼が広がった。


羽が舞い、宙に浮かぶ――――気付いた時には、リクオの視界は暗闇に包まれていた。



「形勢逆転、ってとこかしら」




瑚々の笑い声が、闇の世界に木霊した。





闇の世界





あとがき:さすがに冒頭だけでは「主人公ちゃうやん!」みたいになってしまうので、慌ててつけたし。






奴良組本家に向かって四国八十八鬼夜行を従えていると、奴良リクオ率いる百鬼夜行がこちらに向かってくるのが見えた。


その姿を見て、玉章と瑚々についてきた四国妖怪たちが騒ぎだす。


「!?玉章?」


「奴良組の奴らだぞ・・・どういうことだ!?」


お互いに身を寄せ合っている二人を振り返るが、彼らはただ口元に不敵な笑みを浮かべていた。


「キミもやはり百鬼を率いる器。あの程度では脅しにもならないか・・・リクオくん・・・やはりボクらは似ているね。お互いの‘おそれ’をぶつけようじゃないか」


そう言って、玉章は仮面を顔に翳した。


「百鬼夜行大戦の始まりだ」



――――――――――――――――――――――



「やっぱり、彼っておもしろい」


一番先に出てきた奴良リクオを見て、瑚々は笑みを浮かべた。


いつもの制服姿とは違い、黒衣に黒のヴェールという喪服姿だ。


「奴に惚れたか?」


玉章がおもしろそうに尋ねると、彼女はクスクスと笑った。「愚か者は嫌いじゃないわ」


気がつくと奴良リクオの姿は消えていた。


瑚々は目を細めた。「犬鳳凰・・・彼はどこ?」


隣にいた犬鳳凰は肩をすくめた。「さぁて・・・見当たりませんな・・・しかしこの百鬼の乱戦。死なずとも進めますまい・・・」


玉章と瑚々は意味深に視線を交わした。


その時、ふと見えた人影に、二人ははっとした。


驚いている大将たちに、犬鳳凰は首をかしげた。「!?どうしました・・・・・?玉章様、瑚々様・・・」


玉章と瑚々は、周りをかわしながらやってくる奴良リクオから目を離さない。


「お前たち!!何してる周りをよく見ろ!!」


近づいてくる奴良リクオに気付かない部下たちに、玉章が怒鳴った。


「何故誰も気づかぬ。リクオはそこにいるぞ」


「玉章!」


瑚々が叫んだと同時に、奴良リクオが玉章の目の前に現れた。


「よう」


驚く暇もなく、刀が振り下ろされ、玉章は慌てて魔王の小槌で応戦したが、その仮面にはヒビが走った。


玉章が小さく舌打ちする。「・・・成程・・・・これが‘ぬらりひょんの力’か・・・・」


奴良リクオは、唖然としている瑚々を見て、不敵に笑った。


「会えて嬉しいぜ、血塗られた花嫁」






百鬼夜行大戦







あとがき:よーやく百鬼夜行大戦!


思えばCocoが唖然としているのははじめてかも。