百鬼夜行大戦の3時間前―――・・・
「本気か?」
玉章が尋ねると、瑚々は微笑んだ。「ええ。だってアナタのためですもの」
不満そうに顔をしかめる玉章に、瑚々は笑って額を彼の額につけた。「大丈夫。私は普通とは違うから。それにこの力はこのためにあると思うの。だから玉章・・・」
彼女はその美しい瞳をあげて、玉章を見つめた。
「ワタシを、魔王の小槌で刺して」
崩れ落ちるその身体を、玉章が腕で支えた。
瑚々は血の気が引き、息も絶え絶えで、震えていた。
だがうっすらと目を上げて、
「ね・・・・?・・・だいじょうぶでしょ・・・?」
と微笑んでみせた。
玉章は、瑚々の血に流れる果てしない妖力を魔王の小槌が吸い取ったのを感じた。
その溢れんばかりの力に玉章は満足げにニヤリと笑みを浮かべ、腕の中にいる彼女を見下ろした。
いつだって、玉章の味方で、誰よりも忠誠心が強い、瑚々。
‘あなたのためよ’とその鮮やかな紫色の瞳がいっている。‘私は、いつだってあなたの味方’
「―――きみは僕のものだよ、瑚々」玉章は小さく囁いた。指で仮面を上げ、素顔をさらす。
「きみはボクのあらゆる土台であり、あらゆる希望であり、これまで抱いた全ての夢だ。隠神刑部狸の名にかけて誓おう。きみは永遠に、ボクのものだと」
そして瑚々の唇に激しく唇を重ねた。
玉章の意図を察して、瑚々も夢中でキスを返す。
獣のようにお互いをむさぼりあう二人に、周囲は唖然と立ち尽くしていた。
これで―――・・・。意識が薄れ行く中、瑚々はぼんやりと思った。これで・・・私の中の全ての妖力が、玉章の中に入っていった。
ようやく唇を離し、息を荒げながら玉章は笑みを浮かべ、彼女のこめかみのあたりで丸まっている髪を後ろへ撫であげた。
「・・・少し、眠ったほうがいいな」
そう言って、玉章は二本の指の先で憔悴しきっている瑚々の瞼に触れる。「おやすみ、瑚々」
瑚々はうっすら笑みを浮かべた。
きっと、次に目を開けた時には世界が変わっているだろう。
私の力を手にした玉章が、奴良リクオを倒し、四国八十八鬼夜行が勝利を収めて・・・。
そして、私は――――――・・・・。
瑚々は玉章の手の下でやすらぎ、ゆっくりと闇の中に落ちて行った。
花嫁の犠牲