「ほれ、着いたぞ」
そう言ってぬらりひょんが手を差し出すと、瑚々は笑みを浮かべながらその手を取った。
ここは四国のとある山地。
突然、「帰る」と言い出した瑚々を、ぬらりひょんが友人の鳥妖怪に頼んで送ってもらったのだ。
ぬらりひょんはぐるりとあたりを見回した。「あんたが四国に戻ったとなると・・・隠神刑部は怒るんじゃないのか?」
「大丈夫。本人は気付いてないだろうけど、彼、私には弱いから」
と笑う。
その笑みを見て、ぬらりひょんは懐かしそうに目を細めた。「やっぱりあんた・・・あの時の・・・」
彼女は微笑んだが、何も答えない。
だがぬらりひょんには十分だった。
すっと彼女の頬に手を伸ばす。「この年月ずっとあんたを探していたが・・・まさか、今頃になって、再会できるとはな・・・」
心地よさそうにその手に頬をすりよせる彼女を見て、ふっと笑みを浮かべる。
「・・・・少し、顔形が変わったが・・・・それもあんたの力なんだろう?」
彼女はこくりと頷いた。
ぬらりひょんは笑った。若かりし時の姿が蘇る。「相変わらず、無茶苦茶な妖力じゃ。変わってないのう――――・・・・。四国にいるとは以外だったが」
「まぁね」
瑚々はクスクス笑いながら、肩をすくめた。「でも私は、ここの生まれよ」
ぬらりひょんは笑みを浮かべたが、すぐに真面目な表情になった。「本当は・・・・玉章が負けることを分かってたんだろう?だからムチという奴をけしかけ、四国の匂いを色濃く残し、わざと隠神刑部狸に再会させた・・・玉章を、とめるために」
彼女は顔を上げた。鷲が大きく翼を広げ、雲ひとつない青い空を横切っていた。「・・・・さぁ、どうかしらね」
次の瞬間、風が舞い、玉章(たまずさ)の葉が彼女の周りに弧を描き始めた。
瑚々は微笑んだ。
「また、会いましょう」
「・・・・・・、今度は、待たせるなよ」
二人は顔を見合わせて、頬笑み合った。
風が止んだ時、そこに彼女の姿はなかった。
赤い糸
「お前いい加減にしろよ」
彼女の新たに出来た傷口に薬を塗ってやりながら、鴆は苛立しげに声を荒げた。
「せっかく治りかけたっつーのに……自害なんて、何考えてんだ」
「………」
彼女はなにも言わない。 顔をそむけ、じっと窓の外を見つめている。
その横顔は驚くほど幼く、そして大人びていもいた。
そんな彼女を見て、鴆はため息をついた。
「まっ……三ツ目八面のやつが応急手当てをしてくれたからよかったものの…」
三ツ目八面の名が出ると、ぴくっと彼女の指が反応した。
急に彼女がこちらを振り向いたので、思わず面喰ったがその表情をみて、鴆は眉をよせた。「………何がおかしいんだ?」
「別に」
彼女は薄ら笑いを浮かべた。
「……いるんでしょう、山ン本」
鴆が出て行った後、彼女は体を起こしながら口元に笑みを広げた。
途端に、部屋の奥から三ツ目八面―――もとい山ン本が姿を現す。
笑っている彼女をみて、眉を潜める。
「…………いつから気づいてた」
「あんたが部屋に入ってきた時」
「……わしをおびき寄せるために自分の腹を切ったのか…」
「そういうこと。 傷ならいくらでも治せるし」
そう言って、躊躇なく着物を開く。すでに傷は消えていて、雪のような白い肌には傷一つない。
三ッ目は眉を寄せた。「確かお前の妖力は…」
「ええ、底をつきたわ。表面的には」
「……つまり全てお計画通りだったと?」
彼女は肩をすくめた。「まぁ、陰神行部狸ではなく玉章が私を捨てたのは想定外だったけど。でも、おかげで最大の難関だった奴良組本家の侵入が成功し、あなたに接触することができた…」
玉章に妖力を全て引き渡したふりをして。
捨てられた哀れな女を演じ。
わざと若頭の前で自殺未遂をして。
奴良組本家に紛れ込んでいる鼠をあぶり出すことができたのだ。
「分かっていると思うが」
脅すように彼女に向かって体を傾ける。「もしこのことを、誰かに話したら……」
「なに?どうするの」
彼女は笑みをたえさなかったが、その瞳は氷のように冷たい。「私を殺す?でも、私に死なれて一番困るのは山ン本、お前の方じゃないの?」
三ツ目は眉を寄せた。「なにを・・・・」
「私が腹を切った時に一番にすっ飛んできたのは、お前だった。あんたには、私が必要だから。私の力がなければ、あんたの魂は永遠に地獄を彷徨い続けることになる・・・・。」
彼女は唖然としている三ツ目の襟首を引っ張り、顔を引き寄せた。
「勘違いしないで。あなたが私をものにしたんじゃない――――私があなたをモノにしたのよ」
既にその顔からは表情が抜け落ちていた。
だが襟首を離すと、彼女は妖艶な笑みを浮かべた。
「安心して。まだ死ぬつもりなんてないから。これからおもしろくなりそうだし。それに―――」
一瞬、笑みが浮かんだその口元に悲しみが過る。
「―――――もう一度、彼に、会いたいから」
三ツ目は驚いたように眉を上げた。「・・・・・本気だったのか」
「本気じゃない理由なんて、ある?」
彼女は少し笑って、窓の外を見上げた。空は青く、澄み渡っている。
「――――あなたにとっては、彼は駒だったのかもしれないけど、私にとって、あの人は全てだった。何よりも大事な人・・・」
彼女は三ツ目八面に視線を向けた。鮮やかな紫が、瞳に広がる。「私には、あの人しかいないの」
弱いかもしれない。
卑怯かもしれない。
最悪かもしれない。
それでも、何より大事なのはいつだって―――――玉章だった。
「信頼感」
彼女は微笑んだ。「私がいつも彼から離れなかった理由は、それなのよ」
「・・・・・皮肉なものだな」
黙って彼女の話を聞いていた三ツ目は溜息をついた。「あの田舎の若狸にとって、お前は親の仇だろう」
「・・・・・そうね」
彼女は苦笑した。「でも、それは私たちの問題じゃない」
「・・・・・・・そうだろうな」
三ツ目は懐から煙管をとりだし、口につけてからゆっくり吐き出した。「これからどうするつもりだ?」
「そうね」
彼女は目を閉じ、窓からはいってきた風を肌で感じた。「とりあえず、今を生きるわ」
全ての黒幕と、新しい闇
あとがき:えー最近全く更新してませんでした。理由、勉強勉強勉強。
今回英語できなくてほんとショック。死にたいくらい笑
えーっと、実は魔王の小槌を昔隠神刑部狸と敵対していた人間たちに渡したのは、Cocoです。
まぁ、この話は後日、、、

