「三ツ目八面っていう妖怪、まだここにいる?」

部屋に入るなり、くるりと振り返って、唐突に瑚々が尋ねた。

玉章は会議が行われる部屋にいるため、今はリクオと瑚々、二人っきりだった。

リクオが首を振ると彼女は舌打ちした。「・・・やっぱり遅かったか」

「瑚々・・・一体何があったんだ?」

悔しそうに爪を噛む彼女に今度はリクオが尋ねる。

彼女は深い溜息をついて、近くにあった椅子に腰を下ろし、長い足を組んだ。

「…実は、昨夜圓潮という男に襲われたの」

圓潮、という名前を聞いて、リクオの目が大きく見開かれた。「なんだって…⁉」

「その様子じゃ、予想通り彼はあなたと接触してるようね」

瑚々は皮肉めいた笑みを浮かべた。

だが次の瞬間には笑みが消え、瞳がギラリと光った。

「彼は私の妖力を奪った。私の力にも限度っていうものがある。だけど奴はそれを無視した。その結果がこれ」

憂鬱そうに炎のような赤毛をいじる。「これは禁断症状。こうなると本来の半分しか力を発揮できないし、妖力を玉章に与えることができない。対処法は妖力が戻るのを待つか、他の妖怪の妖力を奪うかの二つに一つ」

だから、と足を組み替える。「腹いせにもう一人の山ン本の一部を痛めづけようと思って…」

「ちょっと待って」

手をあげてリクオは瑚々の話を遮った。信じられない気持ちで瑚々を見る。

「じゃあ君は…前から三ツ目八面が山ン本の一部だと…気付いてたの?」

瑚々が何も言わないので、本当なのだと分かった。

理解すると共に怒りが沸々と湧き上がってくる。

「君の身に起こったことは関東に来てから知った」

リクオの怒りを察して、瑚々は静かな声で言った。「でも仕方がなかったの」

「仕方がなかった?」

リクオは瑚々を睨んだ。「もし君が一年前に奴の正体を教えてくれてたら、こんなに被害は出なかった!」

バンッと、拳で壁を殴る。

だが瑚々は動じた様子もなく、しょうがないわ、と言うように肩をすくめた。

「私でも山ン本と清明が地獄で手を組んでたなんて、考えもしなかったんだもの」

「それでも、言ってくれてたら、清浄の時に備えて準備ができてたかもしれない!!」リクオは怒鳴った。「きみは、玉章が殺されてもいいのか!!」

すると突然瑚々は立ち上がり、真っ正面からリクオを見据えた。

その怒りに燃える瞳をみて、リクオは身動きが出来なくなった。

「お前と戦う前、あいつと私は契約を結んだ」

静かな、それでも凄みのある口調だった。

「奴良組に正体を黙っているかわりに、玉章に協力するという契約をね。だから奴は玉章に覇者の証を与えた。あの時、あなたに真実を伝えてもよかったけど、もしそうすれば、今頃目の前にあなたはいなかった」

リクオは眉を寄せた。「どういう意味だ?」

瑚々は自嘲気味に笑った。

「もし私が秘密を暴露したら、奴は玉章を殺して私を力づくで奪い、私の妖力を使ってもっと早く復活していた。あいつの狙いは昔から私の妖力だったから。それは鵺も同じらしいけど」

リクオも話の行方が見えて来たようだ。その目が段々と驚愕に見開かれていく。

「じゃあ奴らの狙いは…」

瑚々は薄笑いを浮かべた。

「何のために圓潮が私の力を奪ったと思うの?それはあなたに宣戦布告するためよ。この女を守らないと、お前たちは終わりだとね」








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奴良リクオははっと顔を上げた。

この妖気は・・・。

「リクオくん・・・?」

家に訪れていた家長カナと清次が不思議そうにリクオを見る。

と、その時襖が開き、鴆が入ってきた。「よお、リクオ。来たぜ」

その隣にいるカナと清次を見て目を丸くするが、何も言わず畳の上に腰を下ろす。「今日は・・・初代のじいさんは?」

「またどっかに行っちゃったらしい・・・」

そう言うと鴆は呆れたように宙を仰いだ。「で・・・今日の"会議"は"誰"がやるんだい」

「今日は"ボク"が号令を出した。・・・・・集まるといいけど」

「会議?」
横で聞いていたカナと清次は訳が分からず首をかしげた。

その時、表が騒ぎ出す。

「こ、この畏れは・・・」

廊下の外で待機していた青田坊と黒田坊がばっと立ち上がる。

「待ちな」

飛び出そうとする二人をリクオが手で制した。「こいつらは今回は・・・客人だぜ」

表に出ると、騒ぎの中心に、"彼"がいた。

身構える奴良組の妖怪たちをみて、ふん、と鼻を鳴らす。


「こんな扱いなら来るんじゃなかったかな」

「やぁ、玉章」

リクオをみて、玉章は軽く会釈をした。

「また君に会うとはね。今回はお呼びいただき・・・光栄だよ」

玉章の名前を聞いて、周りの妖怪たちが騒ぎ出す。「玉章・・・?」

「四国八十八夜鬼夜行だ・・・」

「い、一体何が始まろうとしてるんだ」

「ではこちらへ・・・」

玉章を誘おうとするとその横にいる彼女に気がついた。

最初は、黒のフード付きパーカーを目深に被っているため、顔が分からなかったが、一瞬目に入った紫色の瞳を見てはっとする。

「瑚々?」

リクオが声をかけると少女は無言で手を上げ、フードを外した。

雪のように白い肌。ふっくらとした桃色の唇。そして、人を惹きつける鮮やかな紫色の澄んだ瞳。

最後に会って一年くらい経つが、相変わらず、彼女はぞっとするほど美しい。

だが、その髪を見て、リクオは目を丸くした。

「瑚々・・・その髪・・・」

瑚々は面倒くさそうに髪をかき上げた。夕陽を浴びて、炎でできた馬が彼女の背中を疾駆しているように見える。

一年前のあの艶やかなブルネットの髪とは正反対である。


瑚々は玉章を見上げた。彼が頷くと、もう一度リクオと向き合う。

「実は・・・このことで話があるの」



あとがき
よーやく書き終えました[みんな:01]
何回失敗したことか(泣)
次回、瑚々と山ン本との関係が明らかに。


photo:01










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関東へ向かう道中、瑚々は玉章の隣で歩きながら何度も奴良リクオからの手紙を読み返していた。


''至急関東奴良組本部へ来られたし。
鵺が蘇り、清浄の時が来た"

"清浄''、ねぇ・・・。

昨夜、自分の力を奪ったあの男も同じことを言っていた。

清浄の時が来たのだと。自分と共に来いと。

そしてそれから一時間も経たない内にこの手紙。

瑚々は笑みを浮かべた。思った通り、奴良組とあの男の間には何かがあったのだ。

フードから覗く鮮やかな紫色の瞳が妖しく光る。

復讐の計画は既に立てている。

あとはいつ、どう実行するかだ。

瑚々は手に持っていた林檎を宙に上げたりしながら、その点をじっくりと考えた。

いつなら効果的で、どうすればより面白い結果になるのか・・・。

林檎が再び手に落ちた瞬間、瑚々は突然ぴたりと立ち止まった。

後ろにいた八十八鬼夜行が戸惑った様子で瑚々を見た。「瑚々殿・・・?」

それに気づき、玉章が振り返った。

瑚々の表情を見て、口角を上げる。

「何か思いついたようだね」

瑚々は応えるように不敵な笑みを浮かべ、林檎に唇を当てた。








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