「サラ!」

学校につき、バッシュを片手にキョロキョロしていると、体育館の入口で涼太がぶんぶん手を振っているのが見えた。

私を見てなのか、それとも手にあるバッシュを見てなのか、とても嬉しそうだ。

「いやーまじ助かったッスわ」

バッシュを手渡すと涼太は私の頭をぽんぽんと撫でた。「サンキュー、サラ」

「お、黄瀬、バッシュ来たのか?」

突然入口から浅黒い肌の男の子がひょいと顔を出した。

「青峰っち!そうなんスよ!サラが届けてきてくれて…あ、サラ。この人は青峰っち」

「青峰 大輝だ。よろしくな」

爽やかな笑顔を浮かべながらその男の子は一歩前に出た。

その迫力にぎょっとして私は思わず後ずさりした。

私も165センチでそれなりの高さだけど、なんていうか彼は…でかい。

本当に中学生かと思うほど体格がガッチリとしていて…まさにバスケ選手って感じ。

「あれ。サラが人見知りするなんて珍しいッスね」

身構える私を見て、涼太は不思議そうに首を傾げた。「青峰っちの目つきが悪いから?」

「んなわけあるか!」

「ちょっ、痛い…ッ痛いッすよ、青峰っち!」

「…ぷっ」

青峰君に頭をぐりぐりされる涼太を見て、私は思わず吹き出した。

見た目と裏腹に優しくて面白そうな人だ。

「如月 サラです」

一気に警戒心が溶けて、私はまだ涼太を羽交い締めにしている青峰君に向かってにっこり笑った。「よろしくね、青峰君」

青峰君は一瞬目をパチクリさせたが、すぐにその白い歯を見せてニカッと笑った。「おぅ、よろしく!」

「じゃあ、そろそろ私行くね」

ようやく開放されて、咳き込んでいる涼太に声をかけると彼は了解の合図に手を上げた。

私はまた笑いをこらえながら、二人に手を振って、その場を後にした。




「へぇーあれが同居してる幼馴染か」

サラの後ろ姿を見ながら青峰っちがヒューと口笛を吹いた。「可愛いじゃん」

「そうッスか?」

「…なんかその言い方ムカつくんだけど」

まぁ、確かに、サラは可愛いと思う。

面倒見も良くて、優しいし、頭もいい。

だけど…。

俺は肩をすくめた。「妹みたいなもんなんで、可愛いとかわかんないッス」

「ふーん」

つまんねぇの、と青峰っちは残念そうに言って、俺にボールを投げた。

「よし。さっさと練習はじめっぞ」



















朝。

いつものように6時30分に起床し、涼太を起こすため、部屋に入るとそこはもぬけの殻だった。

机の上を見ると、「朝練いってくる」とだけ書かれた置き手紙があった。

涼太が朝練、ねぇ…

「案外頑張ってるじゃん」

一人笑みを浮かべながら、私は朝食をとるためキッチンへ向かった。


七時。

コーンフレークで軽く朝を済ませ、歯を磨いていると携帯が鳴った。

表示を見ると、涼太だった。

歯ブラシをくわえたまま電話にでる。

「もしもし」

「「もしもし、サラ?」」

「どうしたの?」

電話越しでも、涼太が焦っているのが手にとるようにわかった。

「「オレ、バッシュを部屋に忘れてきたみたいで…」」

「ば、ばっしゅ…?」

「「バスケ用のシューズッスよ」」

聞き覚えのない言葉を聞き返すと涼太は呆れたように説明した。「多分部屋にあると思うんスけど…」

「ちょっと待って」

携帯を持って涼太の部屋へ行くと、ベットの上に新品のシューズが無造作に置いてあった。


「「あった?」」電話越しに涼太が急かすように聞いてくる。

「多分」一見ただの体育館用シューズに見えるそれをまじまじと見ながら答えると、涼太は安堵したように、はぁーとため息をついた。

「「じゃあ、悪いけど学校の体育館まで持ってきてくれねぇ?」」

「いいけど…」

「「まじサンキュー!サラ!」」

「でも、今日の夕飯当番涼太ね」

そう言うと、ゲッという声が聞こえてきて、私は思わずクスクス笑った。

「じゃあ、後でね」

「「サラ」」

「なに?」

「「ありがとう」」

私は口元を綻ばせた。

「どういたしまして」





iPhoneからの投稿
「オレ、これからバスケするわ」

中2の春。

いつものように一緒に夕飯を食べていると突然涼太がそう言った。

あまりに急な話で、私はお箸を口にくわえたまま目をパチクリさせた。

「まじ?」

「まじ」

涼太はニヤリと笑った。「意外?」

「意外も何も、突然すぎでしょ」

バスケとか全く興味なかったじゃん、と言うと彼は肩をすくめた。「なかったけど、今日凄い奴見つけたんスよ」

それから熱心に身振り手振りでその‘凄い奴’のことを語りだす彼を私はぽかんと見つめた。

なんだかよく分からないけど、こんなに生き生きしている涼太を見るのはかなり久しぶりな気がする。

でも嬉しい反面、少し不安。

いつもみたいに、飽きちゃうかもしれないし…。

また冷たい涼太を見るのは、幼馴染の自分としてはもう嫌だった。

「サラ、ちゃんと聞いてるんスか?」

あれこれ考えていると涼太が顔を覗きこんできて、私ははっと我にかえった。

「…ごめん、考え事してた」

「ったくもー」涼太は怒ったように唇を尖らせた。「せっかく人が話してんのに」

「ごめんごめん…。でもさ」

私は視線を落とした。「…また、飽きちゃうんじゃない?」

いつもみたいに、と心配そうに言うと、涼太はゲラゲラ笑い出した。

「いや、それは絶対にねぇっスよ!」

びっくりしている私に向かって笑いながらキッパリ断言する。

「…そうなんだ」

そこまではっきりと言われちゃうと、ちょっと安心する。

「頑張ってね」

そう言うと、涼太は満面の笑みで「おう!」と応えた。

彼のこんな笑顔を見るのは久しぶりで、思わず口元がほころんだ。


やっぱり、涼太には笑顔でいてほしい。