車はオレのアパートに到着した


オレ
…ヨウコさ…ヨウコ…ありがとう…

ヨウコ
ワタシの方こそ…レイジ…ありがとう…


オレは車から降りて走り去るヨウコの車のテールランプを見ていた



アパートのドアを開けリビングに入ると電話機の留守番電話の録音済ランプが点滅していた

再生ボタンを押しかけて止めた

ユミへの言い訳をどうしようか考えを巡らせていたら電話機の呼び出し音が鳴った

体がビクっと反応したが深呼吸を2回して7度目のコールで受話器を取った


オレ
モシモシ、イシヅカですが…

受話器
…………


受話器からは何も声が聞こえなかった…


オレ
モシモシ、イシヅカですが…あの…ユミ?…ユミなの?…モシモシ…


次第に息遣いが聞こえてきた…

やがて息遣いは嗚咽に変わっていった…

そして電話が切れた…


心臓の鼓動が激しくなった…

目の前が暗くなり頭が重くなった…

落ち着け…落ち着け…

分かるわけない…バレてるわけない…

深呼吸を繰り返して気持ちを落ち着けようとした…

いつもどおり…普通に…気持ちのトーンを少し揚げて…真っ先に電話にでなかった理由を言う…まずはそこからだ…携帯電話の電源はとぼけよう…

手に汗が滲み受話器を落としそうになったが電話機のリダイヤルボタンを押した


10コール目に受話器の向こうから小さな返事があった


ユミ
…ハイ…

オレ
ユミ、ゴメン。夕方、ノザワから連絡きてマージャンのメンツが足らないからって…それで今帰ってきたんだよ。連絡しなくてゴメンね。

ユミ
…ノザワさん?…


ユミの感情のスイッチが切り替わったみたいだ…


オレ
会社の同期だよ。ほら、結婚式の次の月に会社のBBQにユミを連れて行った時に紹介したでしょ。

ユミ
…それで…今までその人達とマージャンしてたの?

オレ
ゴメン、ゴメン、夢中になってたから連絡するの忘れてたんだ。

ユミ
何度も電話したんだよ!携帯電話は電源入ってないか電波の届かないところにあるってアナウンスになっちゃうし!アパートにかけても全然電話に出ないし!私…私…心配で…グッ…ウウ…


またユミの感情のスイッチが切り替わってしまった…


オレ
ゴメン、ゴメン。携帯電話の電源が少ないのは分かってたけど、夢中になってたから途中で電源が落ちちゃってたの気がつかなかったんだよ。

ユミ
………

オレ
ユミ、本当にゴメン!ノザワ達とマージャンするの久しぶりだし、最初はオレが勝ってたからムキになっちゃって。

ユミ
…ホントにノザワさん達とマージャンしてたの?どこで?


ユミは少し落ち着いてきたようだ…


オレ
ノザワの家の近くの雀荘だよ!結局、今日はノザワの一人勝ちだったよ。あ〜あ〜。

ユミ
明日は仕事でしょ!あんまり遅くまで遊んでちゃダメじゃない。

オレ
ゴメン。そーなんだよなぁ〜。ノザワは勝ってたからまだやりたそうにしてたけど、オレも他の奴らも0時までには家に帰りたかったから、23時過ぎたところで区切りになってたんで解散したんだよ。

ユミ
携帯電話の電源はいつも確認するように言ってたじゃない。

オレ
ゴメン。やっぱりオレはユミがいないとダメだよなぁ。

ユミ
なんか、とってつけたような言い方してない?

オレ
そんなことないよ!だってホントのコトだから。ユミだってオレがいなきゃダメでしょ?

ユミ
分かってるなら、ちゃんと連絡してよ!心配してるんだから!れいじは私のコト心配じゃないの?

オレ
心配に決まってるでしょ!今日はたまたまだよ。ゴメンね、ユミ。

ユミ
なんか誤魔化されてるような気がするけど、いいよ、今日はもう遅いからこのまま誤魔化されてるよ。

オレ
まだ疑ってるの?本当だってば!

ユミ
…れいじ…離れてるから…私とれいじは今別々に暮らしてるから…電話だけでもちゃんと繋がってほしいよ…

オレ
ゴメンね、ユミ…

ユミ
…れいじ…私のこと愛してるよね?…愛してるの私だけだよね?…

オレ
もちろんだよ!愛してるよ。

ユミ
もっとちゃんと言って!私だけを愛してるって!ちゃんと言ってよ!

オレ
オレはユミだけを愛してるよ!あっ!違う!もう一人いた?

ユミ
エッ!もう一人⁈…誰⁉︎

オレ
ユミのお腹にいる赤ちゃんだよ!赤ちゃんも愛してるよ!

ユミ
なあんだ!私だけじゃないんだ!なんか、悔しいけど嬉しい!ありがとう、れいじ!私もれいじと赤ちゃんを愛してるよ!

オレ
ありがとう。ユミ、心配かけてゴメンね。

ユミ
ウン、じゃあもう遅いから…お休みなさい。明日の朝はちゃんと連絡してね!

オレ
おやすみ!それじゃ明日ね。


受話器を置いたらタメ息が出た…

安堵と…後悔のタメ息だ…


オレは一体なにをやっているんだ…


ソファーに座り込んでテレビのリモコンスイッチを押した

暗い部屋がテレビの青白い光に包まれた


携帯電話の電源を入れたらヨウコからメールが来ていた


"今家についたよ。レイジ今日はありがとう!これからもよろしくね。"



ヨウコの短いメールを何度も読んだ…

ついさっきのユミとの会話を思い出してみた…


オレは誰なんだ…

ヨウコのレイジなのか…

ユミの夫のれいじなのか…


眠気が訪れ、またオレは海の底に沈んでいった…