目が覚めて時計を見ると6時少し前だった

近くの公園のセミの合唱はまだ始まっていなかった

昨夜はエアコンとテレビを付けたままソファーで寝てしまったようだ

よろよろと立ち上がりバスルームに入ってシャワーを浴びた

シャワーを浴びていたら頭の中がハッキリとしてきた

同時にヨウコとの昨日の出来事を思い出した


ヨウコと始まってしまった…


ユミには嘘を突き通さなければならない…


モヤモヤとする気持ちはシャワーだけでは洗い流せなかった

買い置きしてあったヨーグルトを食べた後ユミにメールした

"ユミおはよう!今日は少し早起きしたよ。今日も暑くなりそうだけど、そっちはどう?体調に気をつけてね。"


朝にユミへメールを打つのはこれからルーティンにしなければと思った

すぐに携帯からメール着信音が鳴った

ユミからだと思ったメールはヨウコからだった


"レイジおはよう。昨日はありがとう。ところで大学生のコからのメールがしつこくて。どうしよう?"


そうか…そっちの方もカタをつけなきゃ…

オレはヨウコにメールを返した


"大学生の履歴書をなんとか入手してみて。なにか方法を考えるよ。メールは適当に返信しておいた方がいいかも。履歴書入手できたら連絡して。"


すぐにヨウコからメールの返信があった


"わかった!また連絡するね。"


どうしようか…

でも、今日は月曜日、のんびり考えてる時間はない


会社の駐車場に車を入れたところでユミからメールが来た

"れいじおはよう!ちゃんと朝ゴハン食べた?忘れ物ない?携帯の電源確認してね。今日もお仕事がんばってね!ハート"


ユミのメールに載っていたハートマークに少し胸がチクっとした



やはり月曜日は忙しくあっと言う間に時間が過ぎていった


帰宅しようと車に乗り込んで携帯電話を確認したらヨウコからメールが来ていた

"レイジまだ仕事中カナ?履歴書の件だけど総務の仲いいコにコッソリお願いしたら水曜日に用意できるみたい。水曜日の夜は時間ある?"


水曜日か…なんとかなるかな…

オレはヨウコに返信した

"了解。水曜日だね。仕事終わるのは19時ぐらいだよ。仕事終わったら連絡するよ。"


すぐにヨウコから返信が来た

"ありがとう!連絡待ってるね!ハート"


ヨウコのメールのハートマークにドキっとしながらも嬉しい気持ちになっていることに気がついた


ユミのメールのハートマークには痛みを感じているのに…

ヨウコのメールのハートマークには喜びを感じている…

オレの気持ちは一体どこに向かっているのだろう…



水曜日の昼休みにヨウコからメールが来た

"履歴書のコピー貰えたよ。今夜会えるよね?"


オレはすぐにメールを返した

"了解!19時30分に○○市○○町のファミレスでどう?"


ヨウコからすぐに返信があった

"わかった!先に行って待ってるね。"



待ち合わせのファミレスはオレとヨウコの住んでる市の隣の市にあった

ここならそうそう見知った人間に会うことはない



待ち合わせの時間より少し早くファミレスに着いた

ファミレスに入ると若い女の店員が声をかけてきた

店員
いらっしゃらいませお客様!○○○○○へようこそ!お一人様でいらっしゃいますか?


オレはヨウコの座っている席を探していると一番奥の外から見えにくいテーブルにヨウコが座っていた


オレ
いや、先に友達が一人でお店来ているので入らせてください。

店員
承知いたしました。どうぞお入りくださいませ。お連れ様のいらっしゃるお席はお分かりになりますか?

オレ
ハイ、大丈夫です。


と答えると店員は厨房に戻っていった

オレはヨウコのいるテーブルへ移動して席に座った

ヨウコはオレの姿を見てキラキラとした笑顔を向けてきた

ヨウコの笑顔にオレの気持ちが和らいだ


オレ
お待たせ。ゴハンはもう食べた?

ヨウコ
まだなの。ココで食べる?

オレ
そうだね。ここで食べよう。で、ヨウコさん…アッ

ヨウコ
ウフフ、まだヨウコって言い方に慣れてないね。れ・い・じ・クン!

オレ
からかわないでくださいよ。

ヨウコ
ほら〜、また敬語になってるよ。

オレ
なかなか慣れないものですね。

ヨウコ
また敬語だよ。れいじクン!

オレ
ゴホン…それじゃ最初からいくね。ヨウコはもう履歴書見たの?

ヨウコ
チラッとね。アノ子の両親がお堅い仕事してたなんてチョットビックリしたの!

オレ
お堅い仕事?どんな?

ヨウコ
ハイ、これがアノ子の履歴書のコピー!


オレはヨウコから履歴書のコピーを受け取りサッと目を通した

大学生の名前はハヤカワタクマ

オレとヨウコの住む市内にある私立大の法学部の四年生だった

父親はハヤカワフミノリ、○○市役所勤務

母親はハヤカワエミコ、○○市立○○中学校教諭

兄弟はいないようだ

これはもしかして…


ヨウコ
これが役に立つの?レイジ…

オレ
う〜ん…まだわからないけど…親が堅い仕事してるってのがひょっとしたら…カナ

ヨウコ
親が堅い仕事してるとなにかあるの?

オレ
子どもが悪い事してたとわかれば堅い仕事してる親って自分の立場を考えるかもしれないね

ヨウコ
そうか!公務員と学校の先生ならそうかも。

オレ
取りあえずコレ預からせてくれる。ちょっと考えてみるよ。

ヨウコ
お願いします。

オレ
アレ!今度はヨウコが敬語使ってるよ。

ヨウコ
アッ!ワタシったら。


オレとヨウコはお互いクスクスと笑いあった

ヨウコの笑顔を見ると少し胸がときめいた…

同時にオレがヨウコを守らなければ、と思った…


オレ
お腹空いたから、なんかオーダーしようか?なにがいいカナ?

ヨウコ
ワタシは包み焼きハンバーグにする。レイジは?

オレ
じゃあ、オレもそれにしよう!



程なくアルミホイルに包まれたハンバーグがテーブルの上に置かれた

アルミホイルの中からはデミグラスソースがたっぷりかかったハンバーグが現れた


ヨウコ
久しぶりに食べたけどやっぱり美味しい!

オレ
うん、美味しいね。


それからヨウコとオレは他愛もない会話をしながら食事をした


アイスコーヒーが運ばれて来た時、意を決してヨウコに問いかけた


オレ
ヨウコ…言いづらいかもしれないし、オレも聞くことが少しキツいけど…ハヤカワくんのこと少し教えてほしいんだけど…


ヨウコはハッと目を見開いたが顔を俯けた


オレ
ハヤカワくんのこと何も知らないとカレとは対峙するのは難しいと思うんだ…


ヨウコはゆっくり顔を上げてオレの目を上目使いで見た


ヨウコ
何を聞きたいの…

オレ
ハヤカワくんの人となりとか考え方とか…覚えていることだけで構わないよ…


ヨウコはオレから視線をはずした

視線をはずしたヨウコはポツリポツリと喋りだした


ヨウコ
アノ子って自分の親のことを嫌ってたみたい…
自分の親は世間体ばかり気にしてるって…
アノ子は私立の大学しか行けなかったから、親はアノ子の進学先を親戚には隠してるんだって…
でも大学生の割には良い部屋に住んでるんだよね…それにアルバイトもあんまりやらないみたいだし…お金は親からある程度貰っていたのかな?
一人息子ってコトだから甘やかされてるのかな…
でも法学部なんだ…道理で口が達者なわけだよね…

オレ
口が達者?カレは弁が立つほうなんだ?

ヨウコ
う〜ん…どっちかと言うと理屈っぽくて、人の粗探しが上手みたい。弱味を見つけるとそこをつけ込んでくるの。ファミレスとかショップへ行って店員の態度が気に入らないと、ネチネチと責め立ててたことが時々あったの。…今回もそう…
そう言えばたまに民法なら〜とか、刑法だと〜とか言いだす時があったっけ…


オレは腕を組んで考えた…

今回はオレの経験と知識だけでは足らないかもしれない…

オレもある程度は法律の知識が必要だ…

どうすれば…


ヨウコ
今夜は結論出ないよね…

オレ
そうだね…まずは、よく考えてみるよ。ヨウコは大変だけどカレからメールきたら上手くかわしてよ。

ヨウコ
ウン…頑張ってみる…ねえ…レイジ…

オレ
どうしたの?

ヨウコ
今日はもうこれで家に帰っちゃうの?


ファミレスの壁時計は20時45分を示していた


ヨウコ
…ねえ…レイジ…いつもワタシからじゃ…


そうか…

オレはお決まりの言葉を口にした…


オレ
じゃあ…今から○○峠まで夜景見に行く?


○○峠は今いるファミレスのある市の有名な夜景スポットだ

オレとヨウコの住む市のほとんどの人も知っているところだ

でも、○○峠に入る道路にはラブホテルが数軒並んでいる

つまり、"○○峠まで夜景見に行く?"ってコトは今からラブホテルへ行こうと言う意味だ


ヨウコはニッコリ笑い…

ヨウコ
もちろん!早く行こう!


オレとヨウコは素早く席を立った…