殿下を連れてよく行く公園に、大人たち(高校生〜)がしばしばたむろしている。

先日は派手な髪色の専門学校生と思しき男女のグループが、遊びたそうな子どもたちをよそにパンダと馬の揺れるやつ(上に乗っかってその場で揺れるだけのつまらな…シンプルな遊具)を占領し砂場前を陣取っていたため、こういうのをスルー出来ないわたしはつい、殿下を使って彼らに退陣してもらうことに。


ジワジワと一団に近づき、まずは「公園には本気で遊具で遊びたがっている小さな子どもがいますよ」アピール。

女たらしの殿下は早速可愛いお姉さんたちに愛想を振りまき、「可愛い〜ラブ」と言ってもらうことに成功。

すかさずわたし、

「可愛いお姉さんに会えて良かったね〜!」

とお姉さんたちの気持ちを高める方向で援護射撃をし、殿下お気に入りのパンダの揺れるやつに接近する。


すると、パンダに乗っていたお兄さんが殿下の存在を認識し、さりげなく降りてくれる。

「竜もパンダちゃん、乗る?」

と言いながら公園全体を見渡すと、遊びたいけど大人たちの雰囲気に気圧されて砂場や遊具に近づけない数名の保育園児以下を発見。

殿下一人が今遊ぶなら目的は既に達成されているが、わたしの使命は


公園を本気で使いたい人々で共有すること


である。ここで止めるわけにはいかない。


続いて馬の遊具に跨がって、仲間とくっちゃべり惰性で漕いでいるお兄さんを見ながら、


「お兄ちゃん漕ぐの上手だねぇ、真似してごらん。ほら、おててでしっかりここを持つんだよ。お兄ちゃん見てごらん」


と、やんわり、これはダベるための椅子ではなく漕いで揺られて子どもが楽しむための遊具であることを青い髪のお兄ちゃんに思い出してもらう。


おぼつかない手でパンダを掴み、自分をガン見する殿下に気付いたお兄ちゃんは、話すのをやめ、見本になるように上手に漕いでみせてくれる。


するとさっきのお姉さんたちが、
「○○、もう降りてあげなよー。」
などと言いながらようやく周りの子どもたちの存在に気付き始め、グループ全体に


俺らひょっとして場違いなとこにいるんじゃね?
ここ、ちびっこたちの楽園じゃね?


的な空気が広がる。


馬のお兄さんも素直に降り、若者たちはなんとなく全員立ち上がって、「行くかー」となり、殿下に手を振りながら出て行ってくれた。

そして公園の遊具は子どもたちの手に戻った。



めでたし。



うん。



そして今日は、高校生男子が10人前後、ブランコから揺れるパンダ馬から見事に大半の遊具を占領し、青春トークに花を咲かせていた。

公園内には、肩身が狭そうに滑り台界隈でママと遊ぶ、幼稚園児の女の子が一人。

ぶっちゃけ殿下は遊具よりハトに夢中でどうでも良さそうだったが、


公園を、あるべき人々の手に取り戻す


という使命感に駆られ、またも掃除屋の血が騒ぐわたし。(掃除って)


一団の中に女の子がいないため、母性に訴えかける作戦は不可能と判断し、

集団で強気になりがちな青少年の中でも素敵な感覚を持っている誰か一人の善意に訴えかける作戦に出る。


まずは恒例のパンダに乗せるべく、掃除屋の顔をひた隠しにしながら青少年たちに近づく。

すると意外なことに、パンダに乗っていた子がスッと降りてくれる。

わざとらしくならない程度の大きな声で、

「よかったねぇ、竜もパンダ乗せてもらおうか」

とパンダ兄さんに遠回しな謝礼を放ちつつ、殿下をパンダに乗せる。


一人一人は良い子でも、集団になると強気になり、思いやりやら優しさやら道徳観念を失いがちなのがこの年頃の特徴でもある。(仲間の手前、調子に乗りやすいというか)


子どもが集まる時間帯に、遊具を占領して大声で話す高校生の存在は、ハッキリ言って迷惑だ。目的は、出て行ってもらうこと。

さて、どうしたものか…と思い、殿下に言われるまま何度か滑り台を滑っていると、公園の外から戻ってきた男の子が、ブランコに乗っていた二人に、

「お前らもうどいてやれよ。小さい子が乗りたがってんぞ」

と声をかけてくれた。


その時の殿下は滑り台に夢中ではあったが、近くにいてたまたまブランコを見ていたからか、見かねて伝えてくれたようだった。



カッコよすぎるやろ自分。



思わず声を潜めるのを忘れ、

「あのお兄ちゃんカッコいいね。竜もあんな風にカッコよくなるんだよ」

と彼の背中越しに殿下に言い聞かせ、ふとブランコの方を見たら、別の男の子が足を乗せて上ろうとしているところと目が合った。

決して批判的な目線は飛ばしていないと断言するが、その瞬間、男の子はバツが悪そうに足を下ろし、自分が靴を乗せたブランコの座面部分をサッと手で払い、仲間のところへ戻って行った。



お前もえらいカッコええやないか。



そして最初の男の子の「行くぞー」の声に従い、高校生たちはそれぞれに荷物を持って公園の外へ出て行き、敷地の外でまだしばらく楽しそうに談笑していた。




めでたし。


うん。


誤解のないように言っておくと、わたしは子持ちの母親ではあるが、何もかも子ども中心で!と叫びたいわけではない。


ただ、広場ではなく遊具のある公園というのは、どう考えても第一にちびっ子たちの為に作られた場所であり、日中に大人たちがたむろして、カフェ代わりに使用して良いところではない。

夜とか、誰もいない時であれば、当然誰が使っても構わないだろうが、大人が集って話をするために、遊具で遊びたい子どもたちを我慢させるのは違うと思うのだ。


だからわたしは掃除屋になる。

ただし、

喧嘩を売ったり、上から目線で注意したりするやり方ではなく、相手の中にある「善意」「優しさ」に、さりげなく訴えかけるやり方で。


どけ!帰れ!ここは子どもたちの場所だぞ!


と言われても、わたしが若者だったら「うるせぇなババア」としか思わない。

そうではなく、彼らが持つデフォルト的な思いやり、仲間や家族や友人に日頃優しくしているであろう、フラットな「善意」をツンと突いて思い出してもらうのだ。


ああ、そうだ。目の前の見知らぬちびっこたちに、この場所を譲って楽しませてあげたいな


と思える本能を呼び覚ますように。


中にはそれが難しい人もいるかもしれないが、その時はその時。

わたしは目の前の人が誰であれ、とりあえず優しさを持っている人だと信じてアプローチを打つと決めている。


そして、譲ってくれたりわかってくれたら素直に感謝を伝える。


楽しむ為の公園の奪い合いで争いを生んでいては何の意味もないが、知らない人を信じられたら、案外幸せな結末が待っている。


これからも掃除屋として、愛と平和のホウキで場違いな大人たちにはご退陣頂くことにする。


それにしても今日の高校生、カッコよかったなラブ