大江健三郎「個人的な体験」(1964年)という文庫本を読み終えた。
今回、ノーベル文学賞作家・大江健三郎氏の初読み作品となったのが、このだいぶ古い「個人的な体験」。
大江氏の長男・光氏は生まれつきの障害者だが、その実体験をもとにして書かれた物語である。(この物語には出てこない、関係のない事柄だが、光氏には、クラシック音楽の突出した才能がある。)
まるで頭が二つあるかのように見える、脳瘤というとても大きな腫瘍が頭からはみ出して生まれてくるという、やけに奇っ怪で異常なその赤ん坊の生死をどのようにしたらいいのか、考えたらいいのか。人間心理の複雑で様々な葛藤を見事に描いた作品になる。
最後の最後の場面での主人公・鳥(バード)の強い意志には、胸を打たれた。
この作品のような人間普遍の、深くて重たいテーマを上手に描けるなんて、やはり凄い作家だと思った。
このような普遍的な実力ある若手作家は、まだ多くは世の中に出てきていないように感じている。
今、売れている作家ですら、こじんまりとまとまった優等生的な作品が多い気がする。
こじんまりは時にはいいが、そればかりであっては不満になる。
今後は是非とも、面白い作家の登場に期待。
全258ページ。
今日は短いが以上。