本屋に行ったら、発売されたばかりの絵本が平積みにされていました。湯本香樹実さんの『橋の上で』(絵 : 酒井駒子)という絵本でした。


夕方、ランドセルを背負って橋の上で川を見ているぼく。「いまここから川にとびこんだら、どうなるんだろう」。そんなことに思いを巡らせていると、いつの間にか、見知らぬおじさんがぼくのとなりに。橋の上でぽつりぽつりと交わすおじさんとの会話から、ぼくは気づいていく。自分という存在、人とのつながりが、どれほどかけがえのないものかに。「ぼくは、ぼくだからいいのかもしれない」。自分であることを肯定できない日々に、落ち込んだり、思い悩む気持ちに、静かで確かな、一筋の光が照らしてくれる作品。


湯本香樹実さんは、少年と老人の交流を描いた作品が多いようですが、その原点はこのラジオドラマだと思います。


『ラビリンス』

NHK-FMシアター 1988年7月16日

 作:湯本香樹実 音楽:上田光生 演出:松本順

 出演: 高橋友之 殿山泰司 原泉 南果歩 他


おすすめ度 100点


孤独な老人にとって、記憶や思い出からの解放は、良いことなのか。還暦を迎えたばかりの私には、まだわかりません。


一方、孤独な少年は「どうして、みんなボクを、一人にするんだ!」と叫びます。多くの子どもの自殺の原因は、これなのでしょう。


人はそれぞれの砂漠の迷路を持っている、と老人は言い、少年は、誰かと一緒に迷路を探検したかったが、かなわなかった。少年は鳥になって、自分が住んでいた町を、自分のもの(自分の描く迷路)にした。


原泉さんの声は、寺山修司のラジオドラマや、映画「田園に死す」で何度も聴いたので、すぐにわかりますが、このドラマの翌年亡くなりました。


残念ながら、ネットには上がっていないようです。


 (東京の鳥瞰図は正にラビリンス)