「寺山修司はヘルメスの人であった。アポロンの秩序とディオニソスの混沌とのせめぎあいから生まれる演劇は、彼には無縁である。常にそれらの<間>にあって、「なる」ことの運動、トリックと驚きに満ちた運動を解き放つヘルメス。その鮮やかなマジックこそ寺山修司に最も近しいものと言えるであろう。よく知られているように、ヘルメスは現実の世界と死者の世界を行き来するメッセンジャーでもある。しかし、そこには重たく粘りつく暗さはなく、不思議な軽さ、明るさがあるー何とはなしにヒョイと扉をくぐるだけのことだ、とでもいうように。寺山修司の世界に触れていると、彼がそんな風にしてヒョイと現れ、しばらく佇んだあと、またヒョイと消え去ってしまうような気がする。人が寺山修司の世界を読み続けるのは、そんな気配を感じとるためであるような気がする。」(第1回寺山修司祭記念「五月の伝言」より)
上記は、私が知る限り、浅田彰による唯一の寺山評です(寺山が死んだ翌年。当時京大助手)。
