アマチュア作家狛江大和の事件簿
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桜色のインタルード11

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タチバナの死体が発見されたのは、よりにもよってさくらが入院している病院の屋上だった

偶然とは思えないタイミングとシチュエーションで、タチバナは殺害されたんだ

発見したのは女性の看護士
夕方、洗濯したものを取り込む為に屋上に上がり、そこで死体を見つけてしまったらしい

いつもならカギをかけないはずの屋上のドアが施錠されていたために、訝しく感じながらも開けてみたところ、すぐそこにタチバナがうつ伏せになって倒れていたのだと言う

死因は出血多量による失血死
鋭利な刃物で、背中と胸と腹部を数回にわたって刺されていたそうだ

ドア付近には血溜まりが出来ていたと言うから、その出血量が尋常ではなかった事が窺える

殺害された場所もさる事ながら、この事件はある種の特異性を帯びていたため、翌日のニュースでも新聞でも、大々的に取り上げられる事となった

それは、被害者であるタチバナが現場に残したと思われる、あるメッセージのせいだった

ミステリ小説や、テレビの2時間枠のサスペンスドラマではお馴染みのアレ
死に際の伝言
俗に言うダイイングメッセージと言うやつだ

その内容を知らされた時、僕の、いや、僕たちの胸にどれほどの衝撃がはしった事だろう

意識を回復してからさくら自身に起きた、あるショッキングな出来事と相まって、僕はただただ困惑するばかりだったんだ

それは事件の発覚する数時間前ーー

すでに深夜になろうと言う時間
僕たちはさくらの眠る病室に集まっていた
お母さんの希望により、さくらには個室があてがわれていた

2度目の自殺未遂
1度目は名前こそ出ていないものの、世間に知られてしまっているわけだし、さくらの心情を考えれば、賢明な判断だと思えた

消灯時間はとっくに過ぎていた
病室は闇に包まれているが、清潔そうなクリーム色のカーテンを開けた為、やわらかな月の光が窓から差し込み、室内をぼんやりと照らし出していた

見上げれば満月

しかしその下に佇む僕たちには、ロマンティックなカケラなどどこにも見当たりはしない
それでもレモン色の月光が、悲壮感漂う空気をある程度浄化してくれていたのは間違いない

さくらのお母さんと、つい先ほど駆けつけた妹のもみじは、ソファに並んで腰掛け、その向かい側では、泣きつかれたんだろう、ハルナがかえでの肩に寄りかかりながら静かな寝息をたてていた
僕はさくらの眠るベッドの横で、ぼんやり窓の外を眺めている

さくらの出血量は思っていたよりも少なく、彼女が意識を失ったのは、自分の血を見てショックを受けたためではないかと医者は説明していた

通常なら女性は月経があるため、男よりも血に慣れているものだと聞いたけど、やはり自分の腕からとめどなく溢れ出す血は、受ける衝撃が大きすぎたのかもしれない

しかし…と僕はさくらへと視線を移した

血の気の失せた青白い顔は、安堵などと言ったものとはまるで無縁であるかのような険しい表情を浮かべている

そんな彼女をみる度に胸が痛み、タチバナを憎む感情が増していった

彼女はこれからどうなってしまうんだろう
このままずっと暗闇の中から抜け出せずに、何度も何度もこうして自殺を繰り返すんだろうか

今までは運良く死神の手から逃れる事が出来た
でも、そんな幸運がこの先もずっと続くとは限らない
手のひらに汲んだ水のように、さくらの命もいつかこぼれ落ちる日がやってくるはずだ

ダメだ
僕は内心かぶりを振った

そんな事は絶対にダメだ

悲しむ人間がいる以上、そしてさくら自身のためにも、こんな事は繰り返させちゃダメなんだ

そんな事を考えているうちに、ついにかえでまでが船をこぎ始めた

大学のレッスンだけじゃなく、かえでもハルナも、そして僕だって、自宅に帰ってから数時間の練習は怠らない
ほぼ毎日が睡眠と練習を天秤にかけているような状態で、疲れないわけがないんだ

最近はさくらの事で精神的にも疲弊しているわけだから、この時間に眠くなるのは当然の事かもしれなかった

「かえで」

と、彼女の肩を軽く揺すってやる
かえでは一瞬だけはっと身を堅くしたものの、僕に気づいてすぐに表情を緩めた

「ごめんなさい、寝てたみたい」
「謝らなくていいよ。それより、かえではハルナ連れて一旦家に戻った方がいいと思うな」

かえではチラッとさくらを一瞥してから、

「そんな事出来るわけないでしょ。親友の一大事なのよ」
「わかってる。でも、君やハルナがもし体を壊してしまったら、さくらは喜ばないと思うんだ」
「そう君が体壊しても喜ばないと思うけど。まさか男だから大丈夫、なんて事は言わないわよね」

僕は苦笑しながら首を振ってみせた

「かえではそう言うの嫌いだからね。分かってるよ」
「それならーー」
「違うんだ。やっぱり友達として、僕もしばらくはさくらのそばにいてあげたい。かえでだって、きっと同じ想いだと思う。だからさ、交代でさくらのそばにいてあげればいいのかなって。それなら彼女が目覚めた時、僕たちの中の誰かが必ずそばにいるわけだから、さくらも安心するんじゃないかな」

かえでは少し考えたようだった
それからさくらとハルナ、そして僕とを順に見やってから、諦めたように小さく息を吐いた

「いいわ、そうしましょ。明日のーーああ、もう今日なのねーー昼までには戻るようにするから。それでいい?」

かえでが寝ぼけまなこのハルナを連れて病室から出ていった後、さくらのお母さんがすまなそうに頭を下げてきた

「ごめんね、そういちろう君。さくらの事で迷惑をかけて。わたしたちがそばについているから、あなたも帰っていいのよ」
「やめて下さいおばさん。迷惑だなんて考えた事もないです。さくらとは長い付き合いですからね」

さくらのお母さんは涙をこぼしながら、無言のままもう一度小さく頭を下げた

結局さくらが目を覚ましたのは、明け方だった

その時は僕もいつの間にかソファでうとうとしていたようで、窓から差し込んでくる朝焼けのオレンジで目が覚めたんだ

見ると、どうやらさくらのお母さんも妹のもみじも、疲れきって眠ってしまったらしく、ソファの中で窮屈そうに目を閉じていた

さくらが起きている事に気がついたのは、もう一度窓の外に目を向けた時だった

思わずあっと声をあげていた

上半身を起こしたさくらが、不思議そうにこちらを見ていたからだ

「あ、おはよう」

間抜けにも、最初に出た言葉がそれだった

ところがさくらはクスッと笑い、おはようと言ってから首を斜めに傾けてみせたんだ

「ねえそういち、ここどこ? なんでみんないるわけ?」

さくらが記憶の一部を失っている事に気づいたのは、この少し後の事だった

桜色のインタルード10

070313_1754~0001.jpg
さくらの家に駆けつけた時、彼女のお母さんは涙を流しながらお風呂場の前に崩れ落ちていた

「おばさん、さくらは!?」
「ああ…そういちろう君」

さくらのお母さんは、不安と困惑を貼り付けた顔をこちらに向け、おずおずとお風呂場の奥を指差してみせた

残念ながら脱衣場の入り口に立っている僕の位置からでは、中がどんな状態になっているのかは、まるで分からない

さくらは無事なんだろうか?

「中にさくらがいるんですね!?」

返事も待たず、力なく頷くお母さんの横を、僕は一足飛びに飛び越えた
そしてそのままお風呂場へと入る

途端にもわっとした、鉄を溶かしたような匂いの湯気が鼻を刺激した
と同時に、浴槽の隣で横向に倒れている全裸のさくらが目に飛び込んできた

白い肌
胸から腰までの、なめらかな曲線を描くシルエット

こんな時でなければ見とれていたであろうその肢体に、僕は脱いだ上着をそっとかけた

浴槽にたっぷり張られたお湯は、おそらくさくらの血が流れ出た為だろう、薄い赤で染まっている

さっきから鼻についている鉄のような匂いは、どうやらさくらの血の匂いのようだ

落ちていたカミソリが目について、拾い上げた
しっとりと血に濡れたカミソリの刃
多分これで手首を切ったのだろう
眺めているとさくらの心の悲鳴が聞こえてきそうだった
僕はたまらずそれを洗面台に置くと、再び視線をさくらへと戻した

彼女の左手首からは、今も一定のリズムを刻みながら少しずつ血が流れ出ていた

と言う事は…まだ心臓は動いているって事じゃないか?
つまり、さくらは生きている!

「さくら!」

肩を揺すってみたものの反応はなかった
意識を失っているようだ

「おばさん、救急車は!?」

振り返って訊く
さくらのお母さんは手に持ったコードレス電話を掲げてみせ、さっき呼んだんだけどと心細そうに答えた

気が動転していたんだろう、どうやらずっと電話機を握ったままだったらしい

そんなさくらのお母さんを励ましながら、僕はさくらの腕に応急処置を施し、救急車の到着を待った

後で知った事だけど、さくらの父親は仕事の出張で、妹は友人と出かけていて留守にしていたらしい

だからこそ、僕に電話してきたんだろうけど

救急車に揺られて病院に着いた時には、すでに連絡をいれておいたかえでとハルナが待っていた

2人とも顔が青ざめていた
ハルナの目元は涙でうっすら濡れてさえいる

「さくらはどうなの、ヒイラギ君!」

ハルナにそう問われたものの、こちらが逆に訊きたい気分だった
僕が見た時には確かにさくらは生きていた
でもだからと言って、それがイコール彼女の現状とはならないだろう

僕はわからないよとかぶりを振ってみせた

ハルナは泣きながらかえでの肩にもたれかかる
それを受け止めながら、かえではハルナの頭を優しく撫でた

「大丈夫よ。さくらは死んだりしない。ね、ハルナ、絶対に大丈夫だから」

自分自身に言い聞かせるようにハルナをいたわるかえで

まるでデジャヴを見ているようだった
またあの時と同じじゃないか…

2度目の自殺未遂

やはりさくらの心は、僕たちが窺いしれないほど深い漆黒の闇に閉ざされていたんだ

どうすればいい?
僕は、僕たちは、さくらに対して一体何が出来るんだろうか…

結果を言ってしまえば、さくらはまたしても一命を取り留めた

手首の傷が思ったよりも深くなかったのが幸いしたそうだ
発見が早かったのも要因の1つらしい

僕たちはとりあえずほっとしたものの、今度こそ安心は出来なかった
2度目があった事で、さくらが次も自殺をしないと言う確信が持てなくなったからだ

でもだからと言って、僕たちに何が出来るんだろう?
心配すればするほど、具体的に何もしてあげられない自分に苛立った

家に帰ってから、僕は再び例のホームページーー『桜色』にアクセスしてみた
特に考えがあったわけじゃない
ただなんとなくだったんだけど…でも、そのおかげで僕はそれに気がつけたんだ
メニューの中に新たな項目が1つ増えている事に

ーー『シークレット』

それが新たに加わった項目だった

なんだこれは?
さくらのセックスシーンまで公開しておきながら、これ以上何がシークレットだって言うんだ?

とりあえずクリックしてみる
すぐに真っ白な画面へと移行した
その中央に、黒字で何か表示してあった

0から始まるたった11個の数字ーー

指が止まった
なんて事だ…
呼吸をする事さえ忘れそうになった

それは、さくらの携帯電話の番号だった

タチバナ

やはりタチバナか
やつがホームページを更新したのは間違いない

しかし、何故こんな事をする?
僕が殴った腹いせか?
それとも、さくらを徹底的にいたぶるつもりなのか?

いずれにせよ、やつの存在が未だにさくらを苦しめている事は明白だ

ひょっとして、さくらが2度目の自殺をした理由は、これを見てしまったからじゃないのか?

だとしたら…
だとしたら、僕はやはりタチバナを許せない!

さくらの問題を解決するには、最早やつの存在をさくらの視界から隔離してしまう事が一番じゃないだろうか

ならば、どうすればいい?

決まっている
タチバナをこの世界から抹殺してしまうんだ

そうだ、タチバナは許すべきじゃない
生きている価値のない人間なんていないと思っていたけど、それは間違いだった
やつは死ぬべきなんだ

僕はこの時初めて、2度もさくらを自殺へと追い込んだタチバナに対し、本当の殺意を覚えたんだ

そしてこの殺意は、意外な形で昇華される事になる

何故なら次の日、タチバナが死体となって発見されたからだ

桜色のインタルード9

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さくらと顔を合わせるのが辛かった

『桜色』のホームページを訪れたのが一昨日の夜で、喫茶店でタチバナを殴ったのが昨日

昨日はさくらとほとんど会話を交わしていない
普通に会話する自信がなかったからだ

2日経って幾分気持ちが落ち着いてきたけど、それでもさくらが笑顔で言うジョークに、心から笑えていたかどうかも怪しいと自覚している

おそらく、彼女が抱えている問題の重要性とその大きさは、僕が想像しているよりも深刻なレベルにあるはずだ

そう感じていたからこそ、僕はよけいさくらに対して過敏になっていたんだと思う
自分に何が出来るのか、さくらの心を救う為には何をすれば良いのか、そればかり考えていて…

だから以前からかえでと約束していた、次の休みに行くはずたったクラシックのコンサートの事など、すっかり頭から抜け落ちてしまっていたんだ

「あのさ、今度の休み、久しぶりに4人で出かけてみない?」

さくらの気分転換にでもなればと思っての発言だった
大学の食堂では定番のカレーライスを食べながら、僕は3人に同意を求めてみる

ハルナはもろ手をあげて賛成してくれた

「じゃあさヒイラギ君、お花見でも行こうよ。昼間っからお酒飲んでぱぁっとやろう! あ、でも夜桜も捨てがたいよねぇ」

すでに花見に決定したかのように、うっとりとした表情で視線を斜めに滑らせるハルナ
彼女は4人の中で一番お酒が強い
燃え上がりそうなくらい血中アルコール濃度を高めても、平然と早口言葉を言えるほどに

ーー『生麦、生米、生ナマコーー』

早口言葉を間違って覚えていたのがハルナらしいと言えばハルナらしいけれど

そんな彼女だから、今まで酔わせて口説こうとした男たちは、ことごとくアルコールの海に撃沈している

まあそれはともかく、即断で賛成してくれたハルナに対し、かえではちょっとだけ訝しそうに首を傾けていた

「そう君、その日は用事があるとか言ってなかったかしら」

もちろんこの時の僕は、コンサートの事など綺麗さっぱり忘れているわけで、あれ、そうだったかなぁ、なんてのんびりとカレーをパクついていた次第だ

かえではそんな僕とさくらを交互に見てから、わたしは構わないわ、特別用事もないし、と微笑んだ

「さくらも来れるでしょう?」

しかし、かえでの問いかけには答えず、さくらはぼんやりと窓の外を眺めているだけだった

「…さくら?」
「あ、ごめんごめん。うん、いいよあたしは。お花見でしょ?」

さくらは一体何を見ていたんだ?

何気なく彼女の見ていた視線を辿るーーそこには大分小さくなってしまったが、タチバナらしき男の後ろ姿があったんだ

この日の夜、かえでから電話がきた
いつもなら片道切符で事足りる内容だと言うのに、今日は何故か彼女の無駄口が多かった

ーーさくら、早く元気になるといいわね

ーー今度のお花見は、わたしがみんなの分のお弁当作ってきてあげるわ

ーーそう君、ゼリーが好きだったわよね
デザートにゼリー作ってみようかしら

お酒飲むのに?
と僕が苦笑すると、かえでは、それならワインのゼリーを作ってくるわ、と意気込んでいた

「でもさ、なんか珍しいよね、こうして電話で長い時間話すのは。…かえで…何かあった?」

いつもなら30秒以内に終わる電話が、この日は10分弱
丘を越える程度が関の山だった人間が、いきなり富士山に挑戦するようなもんだ
だから自然とそんな言葉がでたのかもしれない

しかしかえでは、ただの気まぐれよと鼻で笑い飛ばしていた

コンサートの事を思い出したのは、電話を切ってからの事だった

ひょっとしてこれのせいだったのか、かえでの様子が普段と違っていたのは…
思わず舌打ちをする

そしてすぐに携帯電話を手に取った
一言謝っておかなければ

いくらなんでもこれはまずい

リダイヤルを表示させ、ボタンを押すーーいや、押すより早く着信があった

かえでか?

とっさにそう思ったけど、携帯のスピーカから聞こえてきたのは、さくらの母親の声だった

「どうしたんです、おばさん」

正直驚いた
何故、さくらの母親が僕に電話をしてくるんだろう?
用事があるなら、さくらが自分で電話をしてくるはずだ

しかし僕のそんな疑問はすぐに解消された
何故なら、彼女がひどく慌てた様子でこう言ったからだ

「そういち君、大変なのよ。さくらが…さくらが…手首を切って…!」

なんだって!?

僕の頭の中から、かえでの存在が一瞬だけ消えた
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