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あれはそう、私が小学三年生のころ。

季節は初夏。

むせ返るような、暑い日だった……。




―恐怖夜話―眠れぬ夜の悪夢語り






時計はもう、夕方の六時を回っていただろうか。

私は居間のテレビで、毎週欠かさず見ているお気に入りのアニメを見ながら、ごろごろしていた。

台所からは、夕飯の煮物の甘じょっぱい良い匂いが漂って来て、食欲中枢を刺激しまくっている。

学校から帰って必ずおやつを食べるのだが、如何せん成長期の小学生。

夕ご飯までは、お腹の虫はペコペコになってしまうのだ。

――今日は、肉じゃがかぁ、早く食べたいなぁ。

美味しそうな匂いに、思わず、お腹の虫が『ぐうぐう』鳴ってしまう。

「ゆう! シロの散歩がまだだよ! 暗くなる前に行っといで!」

不意に台所から飛んできた母の叱咤するような声に、思わず『ギクリ』と体が固まった。

「えぇー、雨降ってるよぉ?」

不平たらたらで、返事をする。

「もう止んだから、行っといで!」

取り付く島もない母の言葉に、私はしぶしぶ体を起こして、窓の外に視線を走らせた。

確かに母親の言う通り、今まで降っていたはずの雷を伴った強い雨は、もうすっかり上がっていた。

窓の向こうの空には、濃紺の夜の闇色の中に、雲の切れ間から差し込む夕日の残照が、妙に紅い縞模様を描き出している。

うわぁ。

何だか、気味の悪い色だなぁ……。

子供ながらに、そう思った。

背筋にゾクリと悪寒が走る。

『逢魔が時』と言うやつだ。

「早く行かないと、遅くなるよ!」

「ふぁーい」

だんだん迫力と音量を増してくる母の声に気のない返事をしつつ、仕方なしにノロノロと動き出す。

『このまま、サボっちゃおう』と言う私の目論見は、木っ端微塵に吹き飛んでしまった。

あーあ。

何だか、気が進まないなぁ。

もう少し、降ってればいいのに、雨。


決して、犬の散歩が嫌だとかではない。


上手く説明はできないが、この時は、『無性に行きたくなかった』のだ。

「行って来まーす」

家の外に出ると思ったよりもう随分薄暗くなっていて、通り雨の名残の水たまりと、むっとするような土の匂いが立ちこめている。

ねっとりと体に絡みつく熱気と湿気が、とても気持ちが悪かった。

「シロー。散歩に行くよー」

庭の端にある犬小屋では、私が近付いてくるのを察知したシロが、尻尾をちぎれんばかりに振りたくって地団駄を踏んでいる。

くぅんくぅん!

と、嬉しそうに鼻を鳴らした。

シロは名前の通り、白い毛並みのメスの秋田犬だ。

既に成犬で、体長も50センチを超える大きさがある。大型犬なので、慣れない人間は恐怖を感じる大きさかもしれない。

でも、扱い慣れた私には、可愛い飼い犬だ。

「ほらシロ、ヒモ付けるよ」

喜びの余り、ぴょんぴょんと跳ね回るシロの首輪の金具に、引き綱を繋ぐ。

ワオン!

シロが、真っ黒な瞳をキラキラと輝かせながら、嬉しそうに一吠えした。






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※実は、実話です。
作者の体験談その1です。(だから、怖くないかもです。笑)


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