安倍首相がロシアを訪問し、プーチン大統領から「前提条件なしの平和条約締結を年内に行ない、その後両国の係争中の事案を解決していこう」との提案をされました。このような駆け引きは、戦後70年間両国の交渉の中では常に存在していたと思われますが、国際会議の場で日本の首相の目の前でロシア大統領が提案したことが重要であると考えます。

 

これまで北方四島返還に向けた先人たちの様々な努力を考えると、この提案を面前でされた安倍首相は毅然とこれに反発し、「北方四島の帰属問題が解決しない限り平和条約締結はありえない」と強く主張すべきであったと考えます。そして「年内の平和条約締結に向けてすぐにでも北方四島を返せ」と切り返すべきであったと考えます。

 

残念ながら言うべきことを日本の首相が言わなかったことで、今後ロシアのペースで平和条約締結の議論が進められる心配が出てきました。

 

これまで、日ソ共同宣言(1956年)で平和条約締結後に歯舞、色丹の二島を日本に引き渡すとされ、東京宣言(1993年)、クラスノヤルスク合意(1997年)で、2000年までに北方四島の帰属問題を解決してから平和条約を結ぶとされました。結果として2000年までに平和条約締結はなりませんでしたが、イルクーツク声明(2001年)で、継続して両国の努力で北方四島の帰属問題を解決してから平和条約締結をすることが確認されています。

 

北方四島返還を実現するため、日本外交は丁寧に決めごとの確認作業を重ね、粘り強い交渉を行ってきました。しかし、今回のプーチン大統領の発言はその土台を崩すものであり、国際会議の場で、意図的にあの発言をし、会場から拍手を浴びることでこれまでの外交の歴史をぶち壊す狙いがあると思います。

 

プーチン大統領との間で、20回以上も首脳会談を重ねてきて、このような仕打ちを受けることは、安倍外交の大失態であり大きく国益を損なうことになるのではと心配します。日本外交の底力が問われる重要な時だと感じます。