炎上「ひらやすみ」で"なつみ"を熱演した森七菜さんに期待して鑑賞。彼女の配役も演技も悪くありませんでした。吃音を毒親に暴力で罰せられコミュ症気味の外面と、親が心酔する新興宗教を小馬鹿にする内面の対比も悪くないし、少女にしか見えない七菜さんのルックスもピッタリ。
 ただ、本作を手放しに評価できないのは、作品自体に新鮮味が無かった点。自分は東京出身で、新宿に塾通いしていた時期もありましたが、トー横に長居した事はなく、トー横キッズも目撃した事はありません。それでも、トー横の諸問題は度々特集される報道で耳にしました。とは言えそれも昔なので、本作に新たなトー横事情を期待してました。しかし残念ながら、本作初出の情報はありませんでした。敢えて言うなら、想定していたほど眠剤等の過剰摂取や、違法薬物の濫用が頻繁そうでなかった事くらい。ただそれは、「Trainspotting」(1996)や「Requiem for a Dream」(2000)のドロドロさに麻痺しているからかもしれません。


1. 善悪で語れないトー横事情

🖱️ネタバレ 実の親や義理の親に、身体的/性的に虐待された児童が逃げ込む場所としてトー横やグリ下が機能する限り、場所や構成員は変わっても同様の場所は自然発生しそう。「一時保護所」が代わりになれればいいのでしょうが、規律を求められると居心地悪く、脱走する児童もいる模様。本作の三ツ葉葉子(アオイヤマダ)のようにホスト依存なら、厚生労働省が売春地獄から助け出したつもりでも、自分をホストから引き離した敵として認識されかねません。
 本作のヒロインじゅじゅ(小林樹里恵)も、三ツ葉に唆されたのは事実でも、売春で稼ぐ事は自ら決断。三ツ葉が飛んだ後も、独りで続けてました。彼女が毒親の下に生まれたのも、相談相手として頼れない程、大人に不信感を募らせたのも不幸ではありますが、一時保護所に戻らなかったのも、楽して稼ぎ続けたのも彼女自身。彼女は終盤でトー横を地獄と称すが、それも自身で選んだ岐路の行先。

2. 無知と迂闊さが招く危機

🖱️ネタバレ 稼いだ金を誰からも覗ける位置のコインロッカー、しかも時々場所を変える事もせず同じ場所に預け続けていたのなら、迂闊にも程がある。ネット銀行に預けるとか、暗号資産にするとか、より安全な方法は複数あった筈。ホームレスなその場暮らしでは、タンス預金も不可能。コストをある程度負担しなければ、安全を手にできない実例。
 放火の仕方も無防備すぎる。目覚めた時に天国かと尋ねたことから、自死覚悟の犯行だったのかも知れない。ただ、ポスターに映る顔のラメ(溶けたバイブ?)部分にケロイドが残るやり方では、生き延びてしまった後の人生が更なる地獄になりかねません。

3. 逃れ切れない暴力の連鎖

🖱️ネタバレ 学術的にも研究されている虐待の連鎖。本作でも、父に虐待されていた母が、父の死後に子供を虐待し始めたように、虐待の被害者が成長して自身の子を虐待してしまう実例はたくさんあります。
 最も哀しかったシーンは、一千万を失ったじゅじゅが嘲笑った三ツ葉に彼女が向けた暴力。殴られ続けた相手の姿は目に入っている筈なのに、じゅじゅの暴力は止まらない。内なる怒りが覚めるまで、相手が絶命した後も殴り続けずにはいられない。そこに重なる父の映像。虐待されてきたじゅじゅの中にも、制御できない怒りを暴力とした吐き出す素養が育っていた。内なる怒りが醒めるまで殴り続けずにはいられない。
 暴力性が両親から遺伝したのか、虐待を受け続ける過程で、他者に暴力を向けたい欲求が募ったのか、どちらか不明ですが、じゅじゅが「親友」に父以上の暴力を爆発させたクライマックス。

 プロットに新しさはありませんが、実験的映像やキャストの好演は印象に残りました。特に、アオイヤマダさんの演技に不自然さは皆無で、真の意味で三ツ葉葉子を生きていました。