理屈なしに心情を伝える演技 + 心地良く幕切れる仕掛け
そこはかとない純文学的な香りが、鑑賞を躊躇わせていましたが、アカデミー国際長編映画賞受賞を後押しされ鑑賞できて良かったです。何より、キャストの演技に引き込まれました。3人の女性が体現する苦しみは、痛いほど伝わりました。
🖱️ここから先はネタバレ気味です
共感しやすかったのが、Elle Fanningが演じる女優Rachel。何故なら、自分もRachel同様、長女Noraがどうしてあそこまで混乱し苦しむのか、理解しきれなかったからです。子供が両親の喧嘩に、泣きながら耳を塞ぐ気持ちは分かります。正直、そうする時間が長かった分、相手に想いが通じても、その瞬間から終わりが来ることも悟ってしまい、結婚に夢を抱けなくなった気はします。
ただ、長女が妹Agnesに問う「あの環境で、どうして貴方は曲がらなかったの?」の「あの」が母子家庭を指すなら、母子家庭で育った自分は全力で反駁します。仕事しながら子を育てた母は大変だったでしょうが、鍵っ子の自分はアニメが再放送される時間帯にTVを独占できて天国でした。父が自死した直後こそちと不安定でしたが、1, 2年も経ってしまえば、父の不在が障害になった事は自覚できませんでした。しかし、本作の父は巨匠の映画監督。時折メディア等で健在なのを確認できてしまえるからこそ、自分の傍に居てくれない、自分を大事にしてくれていないという想いが募ったのかもしれません。幼少期に子役として父の映画に出た末娘Agnesが、「あのまま続けていれば」と言った父に、アンタは私の傍に居てなかったじゃんと反発したのは象徴的でした。流石に著名人の子供に生まれた経験がないので、Rachel同様、姉妹の気持ちは計り知れない部分があり、長女が鬱に陥る原因は理解しきれませんでした。
にも関わらず、不在だった父がNoraの苦悩を脚本に起こせてしまえるなんて、もはや魔法ですが、姉妹の反発を瓦解させる威力があったのも、分からなくもありません。終盤の仕掛けも見事。自分はまんまとハマってしまい、Noraが自死してしまはないかハラハラしました。撮影だった種明かしして直ぐの幕切れ。切れ味の鋭いさに痺れました。