楽天血風録 その四 | のだま(野球)カンタービレ

楽天血風録 その四

ひたひたと疾走る者がいた。

ここは仙台へと続く道、利府街道である。

冷たい月明かりが 踊るように疾走る背に二十三の番号をうっすらと浮かび上がらせる。

わき目もふらず、一心に駆けるその姿は何物かに取り憑かれたかの如くであった。


「許さぬ…」


誰に言うともなく絞り出すように呻く。

先の災害に荒れた風景を抜けると町屋がポツリポツリと並び始めた。


「何奴!」

ふと殺気を感じ、路傍の草むらへと脚から滑り込む。

黒装束の町人が ぱっと手を広げる。

「せぃふじゃ」

すると、

三軒ばかり先にゆらりと男の影が浮かんだ。

浮かんだ瞬間、殺気は消えた。

「聖澤殿、儂じゃ」

「こ、これは高須殿… なに故このような時刻に…」

その時である。

すっと高須が聖澤の間合いに入ってきた。

反応が遅れた聖澤はぐっと息を呑んだ。

動けなかった。

真剣勝負なら既に切られていた。

「これは、何じゃ?」

高須が聖澤の懐の書状を見て押し殺した声で言った。

「こ、これは… 高須殿には関係ござらぬ!」

じりっと聖澤の右脚が動いた。

電光石火の走塁の機先を封じつつ高須が呟いた。

「逃げずとも良い。直訴状なぞ持って何をするつもりじゃ」

「高須殿、通してくだされ」

「真人殿の件じゃな」

図星であった。

「通してくだされ。真人…マメ殿と二人にて脱藩する覚悟。我ら二人であれば拾う藩も…」

「笑止!」

高須の眼がぎらりと光り、聖澤を射抜いた。

「聖澤殿、心して聞かれよ」

立ちすくむ聖澤。

月に雲が流れ、端正な高須の顔に影を落とし、凄みが増した。

「儂が猛牛組におった頃…藩を割る騒ぎがあったじゃろ。楽天創成元年じゃ」

「あの時はな、本人の意志と関係なく振り分けられ、泣く泣く 楽天とオリに移ったわけじゃ。まさに晴天の霹靂じゃったの」

「クビになる者もいた。それまで一緒に闘ってきた仲間がな」

雲が切れ、高須と聖澤の影が重なり、また消えた。

「儂と一緒に連れて行き、何とかクビは免れようとな、試みようとしたわけじゃ。きゃつはまだ見どころがあった」

「じゃがな、きゃつの方から断りがあった」

「…何故…」

「ありがたい話じゃが、同じ藩になったら 儂の寝首を掻く。そう言い放った」

「…」

「きゃつは恩を仇で返す事のできぬ男じゃった… マメも、な、」

「し、しかし!」

「マメにもまだ可能性があるのじゃ。他藩より話があるやもしれぬ。お主がどう思おうと詮なき事。他藩で一からのし上がる力は、ある」

「儂らはの、一人一人じゃ。他人の事を考える暇はないのじゃ。死に別れするわけでもない、な。」

「お主も明日から倉敷じゃろう。油断すると思わぬ寝首を掻かかれる事に…」

ふっと気配が消え、顔を上げると 誰も…いない。

からからと枯葉が踊り、つむじ風に乗って舞い上がる。

「まずは自分の足元じゃな、自分刺して名を上げようとする捕手も地獄の練習をしている故…」

直訴状を懐深く押し込め、踵を返した。

その瞬間、濡れた枯葉に脚を取られた。

つるりと尻餅をついた。

黒装束の町人がいつの間にか現れ、

「あうとっ!あうとじゃっ!油断召されるなっ!」

「そこまで言わんでも…」


塀の影からじっと見る高須洋介。

「危なかった。まさか聖澤が現れるとはの。示しがつかんとこじゃった」

引き手のついた桑折からは自慢のパターが覗いていた。

「セキトバJrも最近は三ノ塁を守っていると聞く。ま、きゃつが入団の際は儂はもう、おらんがの」


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