楽天血風録 その三
蝉が鳴き始めた。
外稽古場の芝には ゆらゆらと陽炎が立っている。
黙々と剣を振るのは
藤田一也。
鴎組との三戦目…
松井稼頭央の抹消で転がり込んだ先発出場という僥倖。
「今江殿の一撃、止めるので精いっぱいじゃった。三郎殿を還してしもうたのは不覚… 儂ではなく稼頭央殿なら… 刺せたやも…」
脳裏に浮かぶ光景を振り払うが如く剣を打ち続ける。
ふっと 「気」 を感じた。
「む、高須殿…」
高須洋介であった。
珍しくも強い気を発していた。
「藤田殿、少し力を抜かれよ」
「しかし、田中殿の志願の先発、援護できずは至極残念…」
「志願… か… あれはの 仙一のカシラが田中に申しつけたもの。打たれると分かって志願は…せぬ」
「しかし 瓦版には志願と…」
「瓦版はの、売れぬと困る故… 面白おかしく書くまで」
「…」
「野球道を単なる興業と考えるか、真剣勝負と考えるか の差じゃ」
「それはそうと 星組の噂、ご存じか」
「…」
「星組の石川雄洋殿な、怪我で抹消じゃ」
藤田の頭に衝撃が走った…
一瞬、星組の二ノ塁に石川の代わりに立つ自分が見えた。
「不思議な流れじゃな、後半の星組は直人殿と内村の二遊間か… お主は稼頭央殿の抹消で鷲組遊撃先発… 」
ハっと我に返る藤田…
「それがしは鷲組の一員故、星組の事は関係ござらぬ。稼頭央殿にも遊撃は渡しませぬ。」
「そう、その意気じゃ。自分の事だけに集中されよ。」
藤田の背が粟立った。
と、高須の 「気」 が一瞬強く放たれた。
「それがしも このままでは終わらぬ。三ノ塁は渡さぬ。三遊間を組むのは 稼頭央殿か、お主か、とくと見させてもらう故…」
踵を返す高須の背中…
蝉の声は消え…
剣をぐっと握る藤田…
気が付くと
日は陰り、
ザっと冷たい風が吹いた。
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