楽天血風録その二♪ | のだま(野球)カンタービレ

楽天血風録その二♪

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糸のような細かい雨が肩を濡らしていた。


小柄だが不敵な面構えの男が静かに立っている…


黒の着物、袖には白い二本線。

十九を背負ったその名は…

鷹組、森福允彦。


「さて、仕事じゃの。最初は誰じゃ」


「定岡卓摩、見参っ!」


大柄な男が気合い剥きだしで向かって来た。


「ふむ。鴎組から来た男じゃの。二ノ組で八年も燻っていたという… その前は我らと同じ組じゃったの」



定岡は太刀を上段に振りかざし、気合いもろとも切り込んでくる。


「おぅ、鋭い振りじゃ。しかし…」


がちり、と剣が合い、三回、四回…


五太刀目で定岡の手からするりと刀が落ちた。

がくりと膝を着く定岡…


「気合いの入りすぎじゃ。気持ちは解るが、な」


続いて韋駄天、聖澤 諒。


「こやつを出すと難儀… まずは様子を…」


すっと森福の左手が上がり、懐の刀へと下がる…


半身の姿勢から森福、様子見の一太刀。


と、


聖澤、一閃!


左翼に持っていかれた。


「森福殿との勝負は最初の一太刀。蜘蛛の糸に絡められてからでは、どうにもならぬのだ」


聖澤の脳裏には追い込まれてからの苦い思いが刻まれていた。


と、


森福をぎくりとさせる名が呼ばれた。


代打、高須洋介。


背の番号は四。


「しもうた、この男が残っておったか。こやつだけは解らぬ。気が読めぬ。焦らすしかあるまい」


しつこいまでの聖澤への牽制。

じっくりと時間をかけて高須と対峙。


高須の気を逸らす…

徐々に二人の周囲から音が消えてゆく。


ぐるりと取り囲んだ町人達の囃し立てる声さえ消えた。

雨さえ感じぬ。


一触即発。


高須が剣を振り抜いた瞬間…


芯は外した。


討ち取った筈だった。

しかし高須は振り抜いた。


かろうじて明石が止めに入り、聖澤は二ノ塁へ。


「何故じゃ。聖澤もろとも併殺血祭りの筈…」


「そうか、迂闊じゃった… 今日の先発は釜田…」


そう、


既に引いていた釜田は高須の後輩であった。


「釜田のためにも」



高須のその一念が芯を外されつつも聖澤を二ノ塁に進める一打となった。


どっと町人達の興奮した声が高まり…


猛禽の目を光らせた男が剣を構えた。


松井稼頭央。


背の番号は七。


ぎらりぎらりとその眼力が圧してくる。


「狙い球は何じゃ。そなたには打たせぬ」

四太刀目を放ったその瞬間…


「きたっ!スライダーっ!しかも、甘いっ!」


猛禽の目が球筋を捕らえ、ぐっと腰が入る!

「しまったっ!」


瞬間、森福の顔から血が失せた。


大歓声の町民達に向かい、打球が跳ねた。


韋駄天、聖澤が本塁を駆け抜け、満面の笑みで振り返る。

白風船が飛び交う中、歓喜の中心に松井稼頭央。

しきりに番ーん!が交わされる。


勝ちはつかなかったものの、先輩、高須と抱き合う釜田。



「ガチョーン!」

小山伸一郎…

「イテッ!」

「ガチョンは小山、お前じゃ、同点にされおってっ!」


佐藤投手師範が小山の頭をひっぱたく。



両手を広げ、脱兎の如く駆け寄るのは星組から来た藤田。


やっと初安打を放ち、前日の失策を打ち消した。



小山伸一郎…

「コラッ!藤田っ!お前来たばっかなのに、仲良くしすぎっ!」

「イテっ!」


佐藤師範の手首のスナップはさすが投手出身。

「小山、お前は馴染みすぎじゃ!打たれおって!」



その頃中村真人は雨に滑り、意味も無く転んでビショビショになっていたという…


◇◆◇

さて、次回は首位、鴎組が相手。


塩見の復活を期待しましょう!