楽天血風録 その一 | のだま(野球)カンタービレ

楽天血風録 その一

風が吹いていた。


「のう、高須殿、何故に我らは左利きに弱いのでしょう」

鉄平が首をすくめながら問うた。


梅雨時にしてはからりと晴れた一日、鷹組の山田に苦しめられた一日でもあった。


「さて、のう…」

高須の口数の少なさは相変わらずであった。


「高須殿の後輩の釜田は伸びましたな。怖いもの知らずも才能の一つでござる」


話題を変えた鉄平の言葉に高須の頬が緩む。

「うむ。大阪に遠征の折り、きゃつにいくつか、服を買い求めてやった。かわいいものよ。」


高須と鉄平は並び歩きながらぼそりぼそりと会話を交わした。



と、高須が何かを踏み、足を滑らせた。


「高須殿、大丈夫でこざるか?お、これはゴーヤチャンプル… 何故かようなものがここに…」


鉄平が地面に目を落とした瞬間、



「危ないっ!」


闇の向こうから唸りをあげて飛んできた手裏剣!


高須の剣が閃き、きん!という鋭い音と共に散る火花。



「何者っ!」


すらりと剣を抜いた鉄平に向け、更に唸りを上げる手裏剣…


鉄平が薙ぎ払おうとした瞬間、鋭く横に変化!


「ぬ。スライダー…」


何とか剣先に当てて事無を得る…



「むう…芯を外された…」



と、



闇の向こうから ぬっと現れた男。


背高で真っ黒に日に焼けた顔、袖には黄色の二本線。



高須が呟く。


「おぬしは… 片平…なぎさ…」



一瞬、カックンとその男の膝が折れた…



鉄平が呻く…


「高須殿、ふ、古すぎっ!」



その男…



鷹組の新垣渚であった。



「挨拶代わりの手裏剣じゃ。剣に当てるとはさすが… 本日の先発は私でござる。昨日の山田の仇は私がとる故…」



すっと闇に溶けるように消えた新垣、その袖よりころりと球のようなものが落ちた。



高須の足元に転がってきた球を拾い上げる鉄平、低く呟く。



「サーターアンダギー…」



「ほ、さすが沖縄の出じゃの。 して鉄平殿、ウチの先発は…」


「姫でござる」


「ふむ。早目に新垣を打ち込まねばの… 姫は堪え性が無い…」



一抹の不安を抱えつつ夜風に吹かれる二人であった。