風守~幸せの場所~ 4、選択肢
「お前、ここから出ようとは思わないのか?」
突然そう言い出した彼は、私の出した香草のお茶を飲んでいる。
“香草”というと聞こえはいいが、要はただの草である。
や、もちろん、人体に無害なやつを出してるけどね。
今日はまた一段と冷えるから、身体の温まる草を使って入れてみた。
お城で出されているお茶とは比べ物にならないくらい粗末なものだけど、
どうやら彼は『息抜き』に来ているみたいだからこれくらいは・・・
「おい?」
―――そうだ、質問されてたんだった。
えーっと、なんだっけ。
ここから・・・・出る??
「一応、短剣、を戴いてますけど。」
ちゃんと答えたつもりだったが、目の前の二人は呆然と私を見つめていた。
「・・・死んでここから出る、という意味じゃない」
「どんだけネガティブなんですか」
二人につっこまれて自分が言った言葉がおかしいということに気がつく。
でも、それは自分にとっては当たり前の考えで。
「あれ?」
どこがおかしかったんだろう、と本気で頭を抱えてしまった。
「俺が言いたいのは、・・・・・」
と言ったきり、そのままの状態で彼は動かなくなった。
待てども本当にピクリとも動かない。
―――ん?止まったよ??
それを見越してアベルさんがすかさず口を開く。
「あー、言葉が見つからないみたいですね。」
―――え、そんなことあるの?
「代わりに私が。
その鎖をはずしてこの塔から出たいと、
外に行きたいとは思わないんですか?」
「え」
―――外、に?
でも
でも自分は
あの時、ここに来る前にあの人と交わした約束を思い出す。
「いい、私は。
約束があるから。
この国に居させてもらえるだけ、消されないだけで十分」
「約束・・・ですか?」
―――居場所があるだけ、幸せで
自分で生きる時間を決めさせてもらえるだけ、自由だから。
だから
「じゃあ俺がもらってやろうか」
「もら、う?」
「そう、来るか?一緒に」
冗談を言ってるかと思った。でも
そういってくる彼の顔は、・・・まぁ真剣ではなかったけど、
いつもどおり無表情だった。
「・・・貴方、ウィングスタンの皇子でしょう?」
「そうだが」
「敵国の民である私を入れたら、自国民に反感を買うでしょう?
犬や猫を拾うのとは違うんですよ!」
「フィスさん、犬猫って・・・貴女自身のことを言ってるんですよー」
―――アベルさん!私も自分で思ってましたけど、でも、それよりも
その的確なツッコミは私にじゃなくて皇子にしてください!!
私はじろりとアベルさんを睨む。
でも彼は苦笑しつつ肩をすくめるだけで、何もしなかった。
当の皇子はふぅっとため息を一つつくと、私をまっすぐ見る。
「皇子である前に俺は俺だ」
彼が、ポツリと言った言葉。
それが、びっくりするくらい、私の言葉を静めた。
「・・・それはそうですけど」
「ここにいてもお前は繋がれたままなんだろう?」
「それも、そうなんですけど」
でもそれはプラスに働くことなんて無い。彼の立場に枷を与えてしまう。
いくら自分が皇子ではなく一個人を主張したとしても、周りは違う。
彼のいるところは、そういう場所だ。
自分が、自分として扱われない場所。
偽りを、真実に出来る場所。
私利私欲のままに、権力のある人の世界になっていく場所。
だからこそ、もっと慎重に生きなければならないのに。
皇子らしからぬ性格の彼を、どう説得すれば良いのかわからず、
思わず目線だけで、もう一度、アベルさんに助けを求めた。
が
「僕に助けを求められても無駄です~」
「えぇぇ・・・」
最後の要が一瞬で砕け散る。
「選択肢をやるよ。ここか、ウィングスタンか」
「いや、でも」
「一ヵ月後にまた来る」
「待ってください。来るって、そんな簡単なことじゃないですよ。
貴方にとって敵地だし、危険だし・・・」
もう4回も来ておきながら、この台詞もどうかと思うけど、
でも、
絶対なんてないんだから。
この次はどうなるかなんてわかんないから。
「お前はこの国の人間でありながら繋がれてるけどな」
「まぁ、確かに・・・」
「じゃあ、また一ヵ月後に」
「えぇ?」
そう言って彼は去っていった。
―――私には、約束があるから、
だから、ここにいなければいけない。
でも
でも
1ヵ月後、
私が“否”と答えたら、
あの人はもう来てくれないのだろうか。
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