風守~幸せの場所~ 5、思い当たること
「フィルベス王国がこちらに侵攻を計画しているとの情報が入った。」
ウィングスタンの皇帝、つまりは父に呼び出されて俺とその兄・ベフュートザムカイトは
父の私室を訪れていた。
そこで父から信じられない言葉が出てきたので驚いた。
―――つもりだったのだが、どうやら俺は無表情だったらしい。
「知っていたのか?ファー?」と父が探るような目で此方を見てくる。
「まさか。心の底から驚いてます」
「お前は本当に表情に乏しいな。兄を見習え」
と父がそういうので、隣に居たベヒュートを見ると、“驚愕!!”という顔を浮かべている。
「・・・尊敬するよ」
ポツリと兄に向かって言うと、当の本人は今度は“疑問”の表情で、え?何が?と言って
こちらを見返してきた。なんでもない、と首を振っておく。
「話を戻すが・・・
わが国とフィルベスの武力の差は歴然。もちろん我が国の方が上だ。
あちらも重々承知のはずだが、それでも攻めてくるということは―――」
「・・・“守り人”を手に入れた、ということでしょうか」
この世に数人しかいない、大精霊と契約を交わした人間、“守り人”。
その力は歴然で、いくらウィングスタンが武力や魔術師の数で優れていようとも、
負けることも十分考えられる。
何しろ過去にある大国が、たった2人の守り人によって滅ぼされたという記録が残っている。
「そう考えるのが妥当だろうな」
「だが妙だな・・・」
「なんだ?べヒュート」
「フィルベス王国・現国王のルスティール=コルド=フィルベスは
歴代の野心家な王とは違って・・・
“温和・争いごとが苦手・天然・とっても良い人”と聞いたので」
あと“間抜け”とも言っていたかな、という兄の言葉にファーは拍子抜けする。
「・・・“間抜け”」
深刻な会話の中でのあまりにも場違いな言葉に、
皇帝もなんともいえない顔をして気になったワードをポツリと口ずさむ。
「・・・ランだな。その情報」
「信頼性は太鼓判を押すよ。
なんてったって、直接見て、の情報だからね。」
「疑ってなんていない。
ただもうちょっとまともな言葉で表現して欲しかっただけだ。
確かにそんな人物が他国を・・・ましてやウチの侵攻を計画するとは妙だな」
「表面上だけは彼で、裏で別のヤツが糸を引いてる、ってのが確実・・・。
となると、まぁ、もちろんアイツだろうな」
兄の言うように、思い当たる人物が一人だけいる。ただ、フィルベスの国王と違って、あまり公の場所に出てこないため、その人物についての情報が全くと言っていいほど無かった。
「ランはなんて?」
「“厳つい・卑怯者・偉そう・あぁ!思い出しただけでもムカつく~!!!”」
その言葉を発したであろう、婚約者の顔をきちんとマネしながらべヒュートは言った。
「・・・何をされたんだ?」
「さぁ。でも内容によっては、・・・半殺しだね」
いっそ殺された方がたいそう幸せなんじゃないだろうか。
少しも穏やかでない笑顔で彼はサラリと言う。
「・・・それより問題は“守り人”だ。
属性によってはいかにウィングスタンと言えど勝てんぞ。」
「父上。ソレについてですが、
少し思い当たることがあるので・・・あと一週間待ってください。
べヒュート、後でランと少し話がしたいんだが。」
――― 約束の日まで、あと一週間 ―――