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Drawing Man

気ままに書いた小説をあげています。

幸せの価値~1、予期せぬ客~






「おお、なんかいるぞ。アベル」
「えぇ?!アレですか!?お化けですか?!帰っていいですか?!!!」
「失礼な!人間ですよ!」




始まりはこんな会話だった気がする。



あの日は天気が良かったから、窓辺に鉢植えを出しておこうと思って。
ここは塔の最上階。何にもないところだけど、見晴らしと日当たりだけは抜群だった。
だから、唯一の友達である“ルティーナ”に日の光をと思って、

足に絡みついた重たい鎖を引きずってベットから降りた、そんな時だった。



長く開いたことのない扉が、ものすごい音を立てて外れたのは。


そして、始まりの言葉。



「よかったな、アベル。人間らしいぞ。」
「え、人間??」
「えーっと?とりあえず寒いんで、ドア、はめて貰ってもいいですか」



この際直せとは言わない。
今は冬で寒いから、とりあえず外からの空気が遮断されればそれでいいし。
夏じゃなくて良かった。
締めっぱなしだと暑いし。温かい空気は上に溜まるからココはなおのこと暑い。




―――って今はそれど頃じゃなかった。



「えーっと・・・」
「名は?」
「え?」


名前、を聞かれたようだけど、答えていいものかどうか迷う。
自分は今、鎖に繋がれてこんなところにいるけど、
それには理由があるからで・・・

と、そんなことを考えていたら、目の前の人物が左腕をまくって掲げるのが見えた。
そこには、この世界で知らないものはいないだろう、ある紋章があった。



「俺は、ウィングスタン帝国第2王子
アインファール=リューゲルト=ウィングスタン」




聞こえてきた名前に絶句する。
いや、名前、というよりも問題は、その紋章からもわかる肩書きだ。



だってココは――――



「聞こえなかったか?俺の名は、アインファ―――」

「いえ、ばっちり聞こえましたケド、
ここ・・・どこだかわかってますよね」

「俺が方向音痴でなければ、ここはフィルベス王国だな。
しかもウィングスタンと仲があんまりよくない」



―――あんまりって・・・
いや、現状がどうなってるかなんてわかんないけど、



この世界でウィングスタン帝国は一番大きな国で、ここフィルベス王国は大きさ的に言えば5番目。

でもフィルベスには豊かな油田があって、それを糧に他国と対等に張り合っている。

でもその値段の交渉とかでウイングスタンとは大きくもめちゃって・・・。
自分がここに来る前までは、確実に両国は冷戦状態だったはずだ。



自分がここに鎖で繋がれて8年という月日が流れた。


その年月は自分にとっては長いけれど、
国際関係を回復するまでにははるかに短い期間だ。

おそらくウイングスタンとの国境には厳重な警備がされているだろうし、
過去の記憶によれば、そちら側からのギルド(商人)の行き来も禁止していたはずだ。
ということは


「確実に不法侵入??でも、そんな簡単に・・・ええ?」
「名は?」
「いやいや、暢気に名前聞いてる場合じゃないでしょう?
ここ、敵地ですよ?何でそんなに簡単に身分バラしちゃうんですか」
「ですよねー。この人いつも思いつきで生きてますから」
「うるさいぞ、アベル」
「・・・思いつき」

そんなことを言われてしまえば、深く考えることも無駄なようで。
ただ納得するしかなかった。


「で、名は?」
「・・・」
「偽名でいい」
「え」

偽名って、じゃあ何のために聞くのか、と聞こうとしたら、


「呼べればそれでいい」

と帰ってきた。思いつきで生きてるのは嘘じゃないようだ。
本人もそのことについて否定はしなかったし。


「・・・じゃあ、フィス、と」


「フィス」

「あ、僕アベルです~。よろしく~」



―――いやいや、よろしくするつもりないんですけど!




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