リーガルハイ2 その⑨ 巨大に膨れ上がった民意とは?

 

 いよいよ安藤貴和(小雪)の上告審が始まり、古美門と黛は安藤貴和のポジティブ・キャンペーンをネットを使って開始しますが、やればやるほど世論の反発を招き、古美門と黛は悪女を無罪にしようとしている極悪弁護士としてメディアに取り上げられ、世間から嫌われていきます。

 

 

 しかも、醍醐検事(松平健)によって、古美門は裁判中に初の敗訴を経験した時のPTSDを発症してしまい、その場で倒れてしまいます。

 

 

 黛は元検察庁にいた羽生達が、貴和の裁判に必要な証拠を握っていると考え、なんとか羽生晴樹を説得し、徳永家の元家政婦の江上順子(犬山イヌコ)に辿り着きます。

 

 

 当初、江上順子は貴和の弁護をする黛を嫌い話をしようとしませんが、黛が何度も通い信頼関係を作ったうえで、

 「間違った証拠で貴和を死刑台に送ったら、あなたは一生十字架を背負いますよ」

 と江上順子に証言するよう説得し、裁判での証言を約束させます。

 

 

 ところが、その帰り道、運悪く安藤貴和のアンチグループとすれ違ってしまい、悪徳弁護士と罵られ、黛は集団暴行を受け意識不明に陥ってしまいます。

 

 

 驚いた古美門達は急いで病院に駆けつけ、ショックを受けた古美門はPTSDを克服して江上順子の証人尋問を行うことになります。

 

 

 

 

 ちょっとドラマの都合良すぎ感はありますが、この回が本当に伝えたいのはこれから先になります。

 

 

 江上順子の証言、調味料っぽい瓶が台所に落ちていたが、それを資源ごみとして捨ててしまった………を得た古美門は、検察がその証拠品の保全に失敗した事を追求し、安藤貴和の自宅から発見された調味料の瓶は事件に関係ない可能性が高いと断言します。

 

 

 それに対して醍醐検事は、目撃証言が多数ある事を根拠に、やはり安藤貴和がこの事件の犯人であると主張するのです。

 

 

 それに対し古美門は、目撃者の数が不自然に多く、証人たちの証言が恣意的に作られた可能性が高い事を一つ一つ証明していきます。(角度的に見えない場所から、貴和を見たとの隣人証言の矛盾等を指摘)そして、

 

 

 「人は見たいように見、聞きたいように聞き、信じたいように信じるのです」

 

と人間には認知の歪みがある事を断言するのです。

 

 心理学に興味があり、心療内科でカウンセリングを受けた後だったので、そのセリフは神がかり的に私を驚かせました。

 無料で観る事のできる創作物のテレビドラマが、人間の普遍的な愚かさをこんな分かりやすい形で表現できる事に感動したのです。

 

 

 

 しかし不完全で無味乾燥な法を補うのは人の心だと醍醐検事が主張し、裁判員裁判が採用されたのは民意が法を補うためだと、日本国民の民意の素晴らしさを訴えます。

 

 対して、古美門は裁判に民主主義を導入したら司法は終わりだ、と下記のように切り返し、民意の体現者である醍醐検事をぶった切ります。

 

 

 「民意なら正しい? 皆が賛成している事なら全て正しい? ならみんなで暴力を振るった事も正しい訳だ。

 私のパートナー弁護士を寄って集って袋叩きにした事も、民意だから正しい訳だ……」

 

 「冗談じゃない……冗談じゃあ、ない!」

 

 と黛が未だに意識を取り戻さない事に怒りを訴え、おそらくこのドラマの最大の問題提起を行うのです。

 

 

 

 

 「本当の悪魔とは、巨大に膨れ上がった時の民意だよ」と。

 

 

 

 今起こっている戦争も、昔世界のあちこちで起こってしまった数々の悲劇も、独裁者1人が起こした事じゃない。

 集団心理の中で形成された歪んだ民意こそが、歴史の悲劇の原因なのだ、と古美門に言わせた古沢さんに畏敬の念を感じずにはいられません…。

 

 

 古美門は、最高裁判所の裁判官を見つめながら、

 「判決を下すのは、断じて国民アンケートなんかじゃない。 我が国の碩学で在られるたった5人のあなた方です。 

 どうか、司法の頂点に立つ者の矜持を持ってご決断下さい。 お願いします…

 

 

 と弁論を締めくくるのですが、古美門が裁判官に対して深々とこんなに長いお辞儀をしたのは、シーズン1、2を通して後にも先にもこの回だけです。

 

 

 

 その後黛はしっかり意識を回復し、無事最高裁で1審判決を破棄し、地方裁判所への差し戻しを勝ち取ります。

 

 

 ところが、醍醐検事に嫌みを言ってやろうと思った古美門に、醍醐検事は思いもよらない一言を告げます。

 

 

 「私はあなたに勝った事は一度もありません。あなたに勝った人間がいるとすれば、それは私ではない…。」

 

 「本当の敵は、敵の様な顔をしていないものです…」

 

 

 

 

 最近ニュースになっている、ママ友からの洗脳で子どもを餓死させた等の裁判などは、正にこれに相当する犯罪だと思います…。

 

 本当に第9話は、二転三転、凄いセリフが多すぎて、言葉の神様が降りて来た神回と言っても差し支えないと思います。 

 (先日電話で、9年前の当時小6だったうちの子とこの回の話をした時、私よりもセリフや状況を全て覚えていたので、驚きました。)

 

 

 人生を変えたドラマ⑯ に続く