僕も貴方も見やしない…
けれど木の葉を振るわせて、風は通り抜けて行く
風よ翼を振るわせて
貴方の元へ届きませ…
『風たちぬ』より
最近、俺達の通うジムに新しい女の子が入った!
パッと観(み)
蒼井優 な感じの若く可愛いトレーナーである
壁に貼られたプロフィールには…
年齢… 20歳
特技… スキー
趣味… 映画鑑賞!( ̄▽+ ̄*)にやり♡
居るじゃないか…
この娘に紹介したい男が…
映画マニアで…
俺の作成する映画の助監督…
いでよ………………
大きな子供っっっ!!!!!!
俺は、およそ2週間を費やし彼らの初デートを
セッティングする事に成功した!!!
デート当日
デートまでおよそ………13時間
AM7:00
Ring…… Ring…… Ring…… Ring…… ♪
Ring…… Ring…… Ring…… Ring…… ♪
けたたましく成り続ける電話
俺『っっったく。。。 朝っぱらから…誰だよ。。。』
B・B『ヤベッチです! 緊張で一睡もできませんでした。
今すぐ来て下さい!!!』
夢現(ゆめうつ)つのまま呼び出された俺は
B・Bの不安に何となく相づちを繰り返しながら過ごす
デートまでおよそ………5時間
PM3:00
寄せては返す波の如く…
同じ様な質問に答えつつシュミレーションは十分だ!
俺『なぁ、腹減らね?』
B・B『そう言えば…今日、何も食べてませんね』
デートまでおよそ………2時間
PM6:00
近所の激辛ラーメン屋
俺『やっぱココ来たら辛さMAXだべ?』
B・B『コレ食べないと男じゃないっすよ!』
デート開始……… PM8:00
彼女が観たいと言っていたジブリの最新作『風たちぬ』
待ち合わせ時間10分前に来た彼女の笑顔が眩しい…
うらはらに、緊張の為か顔色の冴えないB・Bの様子が気になる
上映間際にB・Bは俺にこうつぶやいた…
B・B『さっきのラーメンで腹壊しました。。。』
俺『お前………』
上映開始から頭を抱え、激しく貧乏揺すりを繰り返すB・B
1時間ほど経った頃だろうか?
おもむろに席を立ち上がり劇場を後にしたB・B
彼が消えてどれくらい時間が経ったろう?
映画の世界観に魅了され時間の概念が打ち消され
B・Bが居なくなった事すら忘れてしまうほど………
ヴゥ~~~ッ! ヴゥ~~~ッ! ヴゥ~~~ッ!
マナーモードに設定された携帯のバイブレーターが
メールの着信を知らせる
差出人:BBヤベ
件名:すみません
本文:間に合いませんでした(T_T)
件名:すみません
本文:間に合いませんでした(T_T)
手にしたポップコーンがこぼれ落ち
俺は全力で走り出す
全てが、スローモーションだった…
便所に着いた俺は個室の扉越しに感じる臭気に惨事を理解した
B・B『Tさん、俺。。。。。』
どうやら泣いているようだ
俺は、自分の履いていたズボンをドア越しに投げ込み
劇場へ戻った………
映画はクライマックスを迎えエンディングテーマが流れていた
あの子の命はぁ…♪
ひこうき雲ぉ………♪
若い死をテーマにしたユーミンの歌が
儚く散るであろう恋を物語っているようだ
感動的なラストだったのであろう
彼女は泣き顔のまま
姿を消したBBの事も、下着姿の俺の事も全てを理解した様子で
今日は誘ってもらって… ありがとうございました
礼儀正しく一礼し、何も尋ねず帰って行った
俺達に明日はない… しかし…
生きねば。
映画のメッセージが強く心を打った
