レオンくんに<今まではどういう断られ方をしていたんですか?>

っていう直球の質問をされて、さすがに五十嵐智美も

固まっちゃったんだ。そりゃ、そうだよね。そんなにどストレートな

質問する人って、そうそういないだろうから(苦笑)

 

 

でも、これまで彼女がどういう恋愛をしてきたのか、それが、彼女に

どんな影響を与えたのかは、とっても重要なこと。そこを知らずして、

問題の解決は望めないから、レオンくんに拍手を送りたい。

 

 

だって、レオンくんは、涼しい顔してるけど、実際、勇気が要ることだと

思うからね。本当は、私が聞いた方が良かったのかもしれないけど、

私は聞けなかったわ(汗)

 

しばらく、室内が沈黙に包まれて、重苦しい空気に、五十嵐智美よりも

他のメンバーの方が、苦しそうにしてたけど、意を決してって感じで、

五十嵐智美がスッと顔を上げて話し出したの。

 

「私は、今まで両思いになったことがありません。それは、子供の頃から

ずっとです。私は、クラスの中でも目立たない方で、明るくもないし、

友達も少ないっていうか、あんまりいないような子供でした。それは、

今も変わりませんけど(苦笑)

 

 

顔だって可愛いわけじゃないし、『仕方ないよね』って、ずっと諦めて

ました。だから、心を開くとかって聞いても、よく分かんないし、

そもそも『他人に心を開く必要なんてあるワケ!?』って思ってたりも

します。

 

高校の時だったかな?学級委員みたいな感じだったと思うけど、

すっごくお節介な子が居たんですよ。それで、休み時間とか、

いっつも独りでいる私のことが気になったらしくて、なんだかんだと

話しかけてくるんですよ(苦笑)

 

それがめちゃくちゃ鬱陶しくて、<もう、いい加減ほっといてくれる!?>

って、人前で初めて大きな声を出しちゃったことがあるんです。そしたら、

その子、泣き出しちゃって・・・。途端に私は悪者ですよ(苦笑)

ま、良くある話ですよね。

 

結局、その子は私に同情してっていうより、クラス全員が仲良しじゃないと

いけないみたいな考えを持ってたらしいんですよ。自分は、学級委員だから、

クラスの雰囲気を良くしなきゃいけないみたいな?その中で、私みたいに

いつも独りでいる人間は、目障りだったんじゃないんですかね。

 

それで、無理矢理にでも、クラスの中に溶け込ませようとしたんですよ。

こっちとしては、迷惑以外の何物でもないんですけどね(苦笑)

 

 

だから、こんな私が誰かのことを好きになっちゃいけないって思うんです。

それでも、気持ちって、自分の意思に反して動いちゃったりすること、

あるじゃないですか?だから、中学の時も高校の時も大学でも、好きに

なった人はいたんです。ただ、自分からは告白しなかったし、態度にも

出さないようにしてました。だって、フラれるの、分かってるし・・・。

 

でも、人って面白いなって思ったのが、いつもは私のことなんか、

誰も気にしてないのに、そういう恋愛ごとっていうか、そういうのには、

やたら敏感で、陰で私が〇〇のことが好きらしいみたいな噂を立てる人が

必ず居るんですよ。ホント、暇だなって思いますけどね(苦笑)

 

その噂が当たってることもあれば、ハズレの時もある。でも周りは、それが

合ってるかどうかなんてことは関係なくて、私みたいな暗い女が誰かを好きに

なるってことが面白かったんでしょうね。

 

 

ああでもない、こうでもないって、作り話が広がって行くんです。私が

告白して、こっぴどくフラれたとか、相手の後をつけ回してるとか、

まるで、見てきたみたいに話すんですよ。それも私に聞こえるように(苦笑)

 

それで、たまに私が好きになった相手ってことにされた人が私のところに

苦情を言いに来たりするんです。事の真偽も確かめもせずに、一方的に、

怒鳴り散らすんです。って、こんな話、誰も聞きたくないですよね(苦笑)」

 

「そんなことない。智ちゃんの中にある思い、この機会に全部吐き出してくれる?

そうしないと、先に進めないから。智ちゃんの気が済むまで、話してくれて良い。

誰も口を挟まないよ。だから、続けてくれる?」

 

 

「分かりました。でも、時間、大丈夫ですか?」

 

「私が一緒にいますから、皆さんの戻りが遅くても問題ないでしょう。

でも、藤崎さんは、大丈夫ですか?」

 

「ええ。先程、芳村にメールしておきましたので、大丈夫です。

お気遣いなく」

 

「ありがとうございます。他所の会社のトラブルに巻き込んでしまって

申し訳ありません」

 

「いいえ、僕も全く無関係ということでもありませんから、キチンと

この問題が着地するまで、見守らせてください」

 

 

「部長、藤崎さん、ありがとうございます。そういうワケだから、

智ちゃん、遠慮なく続けて」

 

「ありがとうございます。いや、ここで、ありがとうございますって

いうのも変ですよね(苦笑)

 

 

じゃ、続けますね。周りが面白がって、私が誰それのことを好きだって

噂を流す暇な連中がいて、その私が好きになったってことにされた人が、

苦情を言いに来るってところからでしたね。

 

私は、ひと言も好きだなんて言ってないし、そんな素振りも見せたことが

ないはずなのに、そういう噂を鵜呑みにする人って、結構いるんですよ。

 

もしかしたら、そういう人たちにとっては、それが真実かどうかなんて

関係なくて、ただ、そういう噂話をするのが楽しいだけなのかもしれない

けど・・・。みんなして、寄ってたかって、人のことバカにして

楽しんでたんでしょうね(苦笑)」

 

 

「智ちゃん、どうして、周りは智ちゃんのそんな噂を流したんだろう?

智ちゃんが、本当に目立たない子だったら、そんな噂は流され

なかったんじゃないかなって思うんだけど・・・」

 

 

「チーフは何が言いたいんですか?」

 

「智ちゃんさ、さっき自分のこと、<顔だって可愛いわけじゃないし>

って言ってたけど、本当にそうなのかな?私は、可愛いと思うんだよね。

お世辞とか、智ちゃんを慰めるために言ってるとかじゃなくてね。

 

あと、勉強も出来たんじゃない?確かに明るくて、みんなとワイワイする

タイプではなかったのかもしれないけど、だからこそ余計に鼻につくって

思われちゃったのかもしれないよね?

 

智ちゃんにそのつもりがなかったとしても、周りは、智ちゃんにバカに

されてるって思ってたのかもしれないよ。それで、嫌がらせをして

きたんじゃないのかなって、話を聞いてて思ったの」

 

 

「えっ、意味分かんないんですけど(苦笑)私がバカにしてたんじゃなくて、

私がバカにされてたって言いませんでしたっけ?ちゃんと聞いてました?」

 

「おいっ!お前のそういう態度が周りをイラつかせるんだよ!だから、

嫌われるんだろ!」

 

「潤也くん!そういうこと言わないっ!智ちゃん、ちゃんと智ちゃんの話は

聞いてたよ。でもね、私が言いたいことは、ちょっと違うの。聞いてくれる?」

 

「はい。っていうか、私が聞かなくてもチーフは話すんでしょ?(苦笑)」

 

 

「うん、そうだね。智ちゃんが聞かないって言っても私は話すね。

よく分かってるじゃない(笑)じゃ、話すね。人って不思議なんだけど、

思ってることが言わなくても伝わっていくんだよね。

 

今の話を聞いてる限りだと、智ちゃんって、子供の頃から自分の評価が

低いじゃない?自分に無いものばかりを並べ立てて、『だから、私はダメなんだ』

とか、『だから、私は愛されないんだ』って、勝手に自分で決めつけてる

でしょ?

 

 

でも、本当にそうなのかな?智ちゃんが自分のことをそう思っているうちは、

周りの智ちゃんに対する態度も変わらないよ。だって、智ちゃんが言わない

までも、<私なんかと関わらない方が良いですよ!>って宣言している

ようなものだから。

 

それと、さっきの話。バカにされてたって言ってたけど、実際、智ちゃんは

周りの子たちのことをバカにしてたんじゃないの?もちろん、そんな態度は

とってないだろうし、言ってもいないかもしれないけど、心の中は

どうだったんだろう?思い出してみてくれる?」

 

「思い出す必要なんてないです。チーフの言う通り、心の中では、こんな

くだらないことしか出来ないなんて、愚かだなって思ってましたよ。だって、

心の中で何を思ったって、それは、私の自由じゃないですか!」

 

 

「そうだね。智ちゃんの言う通り、何を思っても、それはその人の自由。

だから、智ちゃんがそう思ってたことを責めるつもりはないよ。

 

ただ、最初に言ったように、口出さなくても思ってることって、相手に

伝わっちゃうんだよ。だから、智ちゃんが周りにいる子たちのことをバカに

してたら、それも伝わっちゃう。あと、智ちゃんが自分のことを否定的に

捉えてるってことも伝わっちゃうんだよ。

 

そうすると、何が起こるかっていうと、智ちゃんが思った通りになるって

こと。智ちゃんは、ありもしないことを噂されたり、嫌がらせみたいな

ことをされるのはイヤだったと思うけど、結果的にそれも智ちゃん自身が

原因で起こったことなんだよね」

 

 

「えっ、どういうことですか?」

 

「智ちゃんが思ったことが、実際に智ちゃんに起こるってこと。

それがたとえ、智ちゃんが望んでいないことだったとしても。でも、それは、

これから幾らでも変えることが出来るんだよ。智ちゃんが変えたいと

思えばだけどね。どう?変えていきたい?」

 

「・・・変えるっていったって、そんなの変わるワケないじゃないですか。

ふざけたこと言わないでくださいよ(苦笑)」

 

 

「智ちゃんがそう思ってる限り、現実は、ずっとこのまま。変わらないよね。

でも、智ちゃんが変えたい、変わりたいって本気で思うんだったら、現実なんて、

あっという間に変わるんだよ。それは、私が実証済みだから、自信を持って

言える。

 

どう?変えてみない?今だったら、私が近くに居るから、協力することが

出来るよ。もし、智ちゃんがこれからの現実を変えたいって本気で

思うんだったら、私は幾らでも協力するけど」

 

 

智ちゃんは、私の話を聞いて、黙り込んでしまった。今日までの人生が、

辛く苦しいものであればあるほど、<現実なんて、あっという間に変わるんだよ>

って言われても、俄には信じ難いよね(汗)それは分かる。それでも、ずっと

不幸のど真ん中に居続けるなんてナンセンスだと思うんだ。決めるのは、

彼女だから、これ以上はどうすることも出来ないけど、『変わる!』って、

心を決めて欲しいよね。

 

でも、その前に自分の過去と向き合うって大事だなって思った。

その過去が苦しければ苦しいほど、見て見ぬフリとか、フタしちゃって、

忘れたフリとかしちゃうでしょ?

 

 

でも、いくら忘れたフリをしても、潜在意識の中には残っちゃって、

足枷になっちゃうからね。恨みや憎しみ満載であったとしても覚えて

いれば、それを書き換えるっていうか、自分にとって都合の良いように

変えていくことが出来るから、その分、良いと思うんだよね。たぶん(汗)

 

 

 

<次回へ続く>