元々、駅から会社まで、そんなに離れていないんだけど、

楽しくお喋りしながらだと、尚更で、あっという間に会社に到着。

さっきまでは何ともなかったんだけど、いざ会社に入るってなると、

やっぱり、ちょっと緊張してきちゃった(汗)

 

 

「ミウさん、少し緊張している?」

 

「えっ、分かる?さっきまでは、全然平気だったんだけど、いざって

なると、やっぱり、ちょっと緊張しちゃうもんだね(苦笑)」

 

「大丈夫。僕が隣にいるから、安心して。って、僕じゃ少し頼りない

かな(笑)」

 

 

「そんなことないよ!弦ちゃん、頼りにしてるよ」

 

「ありがとう、ミウさん。それより、さっきミウさんが言っていたこと、

思い出してみて」

 

「さっき私が言ってたこと?」

 

「そう、ビクビクしていたら隙が出来て、付け入られてしまうから

堂々と胸を張るんだって言っていたでしょ?あと、出たとこ勝負とも

言っていたよね?(笑)」

 

 

「そうだった(汗)緊張してくると、色んなことがこぼれ落ちちゃうんだね。

これもまた、新たな発見っていうか・・・。弦ちゃん、思い出させてくれて

ありがとう。私は、デキるチーフ。今週末のイベントに向けて、会社に

来てくれた藤崎さんと偶然、会社の前で会ったの。うん、私は大丈夫・・・」

 

 

「自己暗示?でも、そういうの、大事だよね」

 

「ありがとう。弦ちゃんも顔、引き締めてね。仕事の時の藤崎弦夜は、

もっと凛々しいよ」

 

 

「えっ、そうなの?」

 

「うん、少なくとも、ウチのチームの人間は、弦ちゃんのこと、デキる人って

いう認識を持ってるよ」

 

「え〜、それは嬉しいな。じゃ、僕もミウさんに倣って、自己暗示かけよう

かな。僕はデキる男で、凛々しくてカッコイイ。こんな感じで良いかな?(笑)」

 

 

「カッコイイっていうのを付け足したね(笑)」

 

「うん。ダメだった?」

 

「ううん。全然、ダメじゃない!むしろ、良いと思うよ」

 

「良かった。じゃ、デキる二人で、いざ進めってことで!」

 

「うん、デキる二人で行こう!」

 

 

何気なく自己暗示をかけたけど、これって意外と良いかもしれない。

これもまた新たな発見になったかな。今回は、弦ちゃんが一緒だったから、

声に出して自己暗示をかけたけど、一人の時は、心の中で自分に言い聞かせて

みても効果ありそうだよ。

 

 

これからは、不安が顔を出してきた時は、この手を使おうと思った。

だって、さっきより、ずいぶん心が落ち着いてきたし、足がしっかり地に

ついてるような感じがするもん。

 

しっかりと地に足をつけて、胸を張って堂々としていれば、大概のことは、

クリア出来るような気がする。

 

 

エレベーターに乗って、自分の部署がある5階で降りた。もう一度、念のために

自己暗示をかけよう。『私は、デキるチーフ。今週末のイベントに向けて、

会社に来てくれた藤崎さんと偶然、会社の前で会ったの。うん、私は大丈夫』

 

「じゃ、弦ちゃん、一緒に入るよ」

 

「うん!」

 

「おはようございま〜す!」

 

「おはようございます、久遠さん!おや?今日は一人じゃないんだね?」

 

「そうなんですよ!こちら、ブルータイガーの藤崎さん。今週末に

イベントがあるんですけど、その最終確認で、朝一に来てくださったんです。

ちょうど入り口でお会いして、ビックリしちゃいました(笑)」

 

 

「そうだったんですか!ウチの部署では、初の大型案件ですからね。

私は、チームが違いますけど、湊と申します。よろしくお願いします」

 

「ご丁寧にありがとうございます。ブルータイガーの藤崎です。

今後とも、よろしくお願いします」

 

「久遠さん、なかなかのイケメンさんじゃないですか。このまま恋に

発展するかもしれないね」

 

湊さんが、コソッと耳打ちしてきた。実はもう、すでに恋仲なんですよ

なんて言えるワケもなく・・・。

 

 

「さあ、どうなんでしょうね(苦笑)」

 

って答えるのが精一杯だったんだ。私の声が大きかったのか、湊さんの声が

大きかったのか、チームメンバーもこちらを見て、みんな驚いてた。

よし、ビクビクしないよ、私。胸張って、堂々とするんだよ!

 

 

「おはよう!話が聞こえたかもしれないけど、ちょうど1階でお会いしたの。

今週金曜日、遂にイベントじゃない?だから、その最終確認で、来て

くださったんだって」

 

「おはようございます、藤崎さん!いや、ビックリしました。

でも、ブルータイガーさんも力を入れてくださってるんだなって思うと

僕らも嬉しいです。ありがとうございます」

 

 

「もちろん、弊社も手抜きなんてしませんよ(笑)お互いにとって、

大切なイベントですから、ぜひ、成功させましょう!ところで、何か

困っていることとか、新しい提案、と言っても、もう時間もあまり

ありませんから、大掛かりなことは難しいですけど、何かありますか?」

 

「いえ、もう、ほとんどの準備は終わっていて、あとは、チーフからお聞きに

なってるかもしれませんけど、今週は、準備の最終段階で、当日まで、

起こりそうなことを想定して、その準備を詰めて行こうっていうことに

なってます」

 

「さすが、シネムンドさんですね。そういう丁寧な対応、頭が下がります。

今のお話を受けて、僕らも当日に向けて、更に詰めて行きますね」

 

「ありがとうございます!なんか、ブルータイガーさんみたいな大きな

会社さんと一緒に仕事が出来るなんて、今後あるかどうか分からないこと

なので、悔いが残らないように、私たちも全力で臨もうと思ってるので、

来場されるお客様に楽しんで頂くのはもちろんですけど、私たちも楽しもうと

思っています」

 

 

「久遠さんのチームらしいお言葉ですね。作り手が楽しめないイベントは、

お客様も楽しめないと思うので、自らが楽しもうというスタンス、

素晴らしいと思います。僕らも楽しみながら、当日に臨んで、当日も

お客様以上に楽しもうと思います」

 

「ブルータイガーさんも僕たちにとっては、来場されるお客様と同じように、

お客様なので、全力で楽しませますよ(笑)」

 

 

「おっ、これは楽しみですね(笑)会社に帰ったら、早速、

みんなに伝えます」

 

「チーフ、会議室、取った方が良いですか?」

 

「そうだね・・・。どこか、今から取れる会議室はあるかな?」

 

「え〜っと、大きくなくても良いですよね?A会議室なら取れます!」

 

「じゃ、抑えてくれる?」

 

「はい、分かりました」

 

「いや、僕はもう、これで失礼しますよ」

 

「せっかく来てくださったんだから、現状を見て行ってください。

あと、部長も気になってるみたいなので(笑)」

 

「あっ、そうですか・・・。では、お忙しいところ恐縮ですが、

少しお時間を頂きますね」

 

「はい、そうしてください。じゃ、理沙ちゃん、藤崎さんを会議室に

ご案内してくれる?私は、部長に声を掛けてくるから。あっ、智ちゃん、

お茶の準備をお願いしても良いかな?」」

 

「はい、分かりました。では、藤崎さん、こちらに」

 

 

「あっ、ありがとうございます」

 

「分かりました。お茶の準備をしてから、会議室に向かいます」

 

「二人共、ありがとう!じゃ、よろしくね」

 

スムーズな流れ。完璧じゃない?五十嵐智美にも自然に仕事を振れたし。

弦ちゃんもブルータイガーの藤崎さんになってるし。こうして見ると、

弦ちゃんって、プライベートと仕事では、全然違うんだね。

 

って、もしかしたら、私もそうなのかな?でも、どちらにせよ、

自分に無理させてなければ、良いのかもね。それにしても、

自己暗示の効果、絶大だね!自分でビックリしちゃった(笑)

 

 

それより、部長に声掛けなくちゃ!だって、さっきから部長、

ちょっとソワソワしてるんだよね。なんか、声を掛けてもらうの、

待ってるみたいなんだもん。ちょっと可愛いよね(笑)

 

 

<次回へ続く>