今回はこういうお題でいきますが、この記事はけっして国立がんセンター
などを批判するためのものではありません。そこは誤解のないように
お願いします。これ、がんセンターだけではなく、全国どこにでも
あるような普遍的な問題なんです。

もしみなさんが、ステージⅣの末期的ながんになったとします。
例えば腹膜に転移していて、もう抗がん剤による延命治療しか手段が
ない。ここでもし、わずかではあるが(数%)助かる可能性がある治療法が
存在したとします。それはたいへん危険な、一か八かの方法で、かなり高い確率で
寿命が短くなってしまう・・・みなさんはこの治療法をやってほしいですか。

まあ確率から考えたら、常識的にはやらないほうがいいという答えに
なると思いますが、そうはいっても、たった一つしかない命です。
黙っていれば、遠からず死が迎えにくるのは間違いありません。
あるいは、手かざし、金の延べ棒で体をなでるなどの民間療法、
免疫療法などの自由診療、そういうものにすがるでしょうか?

この選択が難しいのはおわかりですよね。人間には射幸心というものが
あります。「いくら確率が低いといっても、自分だけは成功するに違いない、
きっとすべてが上手くいく」「何もしないでただ死を待つだけなんて嫌だ」
こういうふうに思ってしまいがちなものなんです。

 



ある複数の選択肢があったとして、もし一方を選んでその結果がよくなかった
とき、ああ、失敗したなあ、もう一つの方法を選んでおけばよかった、
こう思いがちなんですね。しかし、もう一方を選んでも、結果が今よりも
よかったという保証はどこにもないんです。それなのに、人間の思考法は
どうしてもそうなりがちです。

では、みなさんがもしがんになったとして、都内や近隣県の方ならば
国立がんセンターを選びますか? これはなかなか難しい面があります。
国立がんセンターなどは、日本のがん研究および治療法研究の拠点であり、
その役割はひじょうに大きいものがあります。

それに検査機器や、治療機器も最新鋭のものがそろっていますし、内科治療や
外科手術の技術も日本一であるのは間違いありません。
ですから、ここで治療や検査を受ければ間違いがないように思われますが、
はたして本当にそうでしょうか?

まあ、がんと一口に言っても、ステージという病状の段階があるのはご存知
だと思います。治療が可能で、全快も望める段階。そして遠隔転移が
出てしまって、きわめて治療が難しい段階(絶対に治癒できないというわけでは
ありませんが)があります。そしてがんセンターというのは治療をするための
病院なんです。

 



ですから、治癒が望める段階なら、がんセンターは申し分ないでしょう。
ところが、がんが末期になっていて、このままでは遠からずお迎えが来る。
こういう状態になったときに一か八かの治療を望んだとしても、
がんセンターではやってくれません。最新の、効果があるかもしれないが、
危険な治療というのはやってくれないんですね。患者の年齢が高ければ、

抗がん剤治療もできないときもあります。

これはしょうがないことです。がんセンターは治療機関というより
治療法を研究する機関であり、そのことが重要な使命なんです

その個人にしか通用しない危険な治療ではなく、普遍的な治療法の研究。

そこに入院することは、研究の対象になること。
ですから、もはや治療法がないと判断されたときには、みなさんは
ホスピスへの転院・転科をすすめられることになります。

ですが、それでは納得できない。まだやれることがあるはずだと考える
人は多いんですね。がん末期といっても、まだ歩けるし話せる、
痛みもそれほど大きくはないという人はたくさんいます。
ですから、そのような人たちは、標準治療以外の治療法。上記したような
自由診療や民間療法を求めてさまようことになります。これが、

がんセンターががん難民を生んでいると批判されるゆえんなんですね。

 



それにがんセンターの医師は、たくさんの症例を見ていますので、
その患者がどのくらいの期間でどうなるかということを熟知しています。
それにほとんど外れはありません。まず、言うとおりになると考えた
ほうがいいでしょう。

ですから、がんセンターの言うことはまず間違いはないんですが、上で
書いたように、それに納得できない患者も大勢いるんです。人間の
心情として無理がないとも思います。

がんセンターで検査や手術をするのはいいと思うんですが、
もし手術後に転移が見つかった場合や最初から遠隔転移があって
手術できない場合、がんセンターでは流れ作業のようにガイドライン
どおりの治療法しか勧められません。

さてさて、みなさんは仕事上でピンチになったとき、全能力を使って
なんとかしてそれを乗り切った経験がおありだと思います。
ですから、がんであってもなんとかなる方法がまだあるだろうと
思ってしまうんですね。ですが、現実は冷徹です。

 



それと、がん患者はどうしても、このがんさえ治れば人生はバラ色と
思ってしまいがちですが、実際はそうではないケースが多いんです。
がん治療で体に無理を重ねているのは間違いないですし、
がんが治っても次の病気がやってくるかもしれない。
働けなくなったりで、経済的に困窮するかもしれない。
もしがんが治ったとしても、人生の困難はまだまだ続くんです。

これまで述べてきたことから、検査・診断・手術などを行うには
がんセンターは理想的な病院です。しかしもし、再発が確認されたとき、

あるいは手術不能と判断された時点で、もっと融通が利き、患者のことを

親身になって考えてくれる病院に転院するのはありなのかもしれません。

ただし治癒する可能性は高くはないですけれども。

みなさんはどう思われますでしょうか?