ああ、俺は三島と言って、〇〇大学の2年なんだよ。で、これは去年の夏の

ことだ。北海道の十勝山脈のある山系を縦走したんだよ。詳しい場所は

言わないほうがいいだろうな。行く人がいても困るし。

まあ、有名な林道から奥へ入った場所と言えば、わかる人はわかるだろう。

で、行ったのは夏休み。夏山で、しかもそんなに標高のある場所じゃない。

だから気楽な遠征だった。それに十勝山脈には、それまでにも何度か

行っているので、土地勘もあった。遭難するような山行じゃなかったんだよ。

気をつけるのは雨に打たれての低体温症くらいだが、その山行の間は

晴れという予報だった。俺が3年生でリーダー、あとは2年の野村と、

同じく2年の女子学生、北村。それと1年の吉田の総勢4人。ここまでは

いい山行だったよ。予定もだいたい合ってたし、女子に合わせてたから

 

オーバーペースになるやつもいなかった。1日目はテント泊で、1年に

テントの張り方も教えられたし、炊事は飯盒で飯を炊いて、レトルトの

カレーだったが、これもまあまあよくできた。だから、あの2日目の午後

までは順調に行程が進んでたんだよ。それが・・・3泊の予定で、午後1時

頃にはそこの尾根の縦走を終えた。目的達成、山地の真ん中なんであまり

見晴らしはよくなかったが、達成感はあった。さあ、戻ろうとしたとき、

2年の野村が、頂上から尾根の続きを見下ろして、「あれ、あすこに道がある」

と言った。「どれどれ」と見ると、たしかに下っていく尾根の途中、

樹林の中に続く細い道があった。獣道のような感じでだった。

「あんな道、以前はなかったよなあ」  「どこに続くんだろ。湧き水でも

あるんだろうか」  「予定より少し進んでるから、ちょっと行ってみないか。

 

どこまでも続くんなら、途中で引き返せばいい」こんな会話になって、

みなで行ってみることにした。これが最初の間違いだった。予定にないことは

するべきじゃなかったんだ。今となってはリーダーとしての責任を感じるよ。

で、道はそのあたりの低木が踏み固められたような感じで、獣道よりは

少しマシな程度。細い道なんで一列になって進んでいったが、10分ほど

過ぎても続いている。「こりゃきりがない。下まで降りるのかもしれない。

もう戻ろう」そう言ったとき、女子の北村が「あ、何かあります」と

道の横を指さした。たしかに何かがあって、それだけが高くなって草から

顔を出していた。「何だあれ?」  「木の枝みたいですね」

たしかに木の枝だった。枝を払った2mほどの木の枝が「人」の字の形に

組んであった。それが三方向に組み合わされている。わかるかなあ。

 

つまり6本の枝で、3ヶ所出入りできるようになってたんだ。・・・三角鳥居

って知ってるかなあ。3つの鳥居を組み合わせた形だが、⛩️の形ではなく、

あくまでも人型が3つ。誰かがイタズラでつくったようなもので、それほど

時間もかかってないだろう。「地元の人がやったのかもしれんな。もう戻ろう」

そういったとき、ふっと、1年の吉田がそれをくぐって、反対側から

出たんだよ。「やめろや」そう叫んでたしなめたとき、人型から出てきた

吉田は目を強くしばたき、「あれ、なんか変だ」そう言ったんだよ。

「何が変だ?」  「なんだか・・・まわりの景色の色が薄くなった気が・・・

でも、自分の目が変なのかもしれません」  「えー、そこだけ光の

当たり方が弱いとかじゃないか」で、俺も続けてくぐってみたんだ。

これが第2の間違い。あすこで吉田を連れて帰ればよかったんだ。

 

で、くぐったみたら、たしかに吉田の言う通り。なんというかなあ・・・

フィルターでもかかったように、視界の色が薄くなったんだよ。それまで

濃い緑だった山の木が、なんだか淡いグリーンに見えた。「どうしたんですか?」

そう言って、北村と野村も枝をくぐってきた。そして驚いたような顔で

目をこすったり、しばたいたりしていた。吉田が「なんかあります」と

前方の草の向こうを指差し、藪をかき分けて入った。そして「うわああ!」と

大きな悲鳴をあげた。「おい、何だよ?」俺も藪を越えて・・・そして思わず

叫びそうになった。太い樫の木があって、幹が洞になっていた。それは

いいんだが、その木の前に、栗やキノコがたくさん山のように積み上げられていた。

そして、地面スレスレで切った切り株には・・・立派な角のある

雄鹿の首が乗ってたんだよ。体はなく、首だけ。目をかっと見開いていた。

 

「なんだ、作り物ですよ」後から藪を越えてきた野村の声。そして野村は、

その鹿の首に近づくと、ぽんと軽く蹴った。鹿の首はゴロリと転がり、

首の切り口がこちらを向いたが、そこから白い骨と、血管らしいものが

ちぎれたのが見えたんだ。うわ、これは本物の首だ。そしてよく見ると

そのあたりの地面の草はどす黒い感じで汚れていた。これは、そこで

鹿の首を切った血の跡じゃないかと思った。「わあ!」全員が叫び声を

上げて逃げ出し、われさきにと尾根道まで逃げた。・・・このとき、誰も

あの鳥居のようなものをくぐったやつはいなかったんだよ。今考えれば、

これもよくなかったんじゃないかと思う。「おい、あの鹿の首、本物だったぞ」

「あれ・・・生贄だよな。俺、昔、諏訪大社の写真で、鹿の首を捧げているのを

見たことがある」  「あの樫の木の祠に捧げたんだろうか」  「わからん。

 

そうかもしれん」  「なあ、野村、お前、戻ってあの鹿の首をもとのように

戻して謝ったほうがいいんじゃないか」これを聞いて野村はふるふると

首を振った。そんなの嫌に決まっている。だから俺も、それ以上は強くは

言わなかった。これが3つ目の間違いで、このときに強く言えばよかったと、

今では後悔しているよ。しかしそのときは気味の悪さが先に立って、みな

小走りになって尾根を戻って行ったんだよ。とにかく早く林道まで

出たかった。そこまで行けば人家も、プレハブの工事の建物もあった。

ただ・・・人家までは一泊しなくちゃならない。それでその夜のことだ。

夜の10時ころかな。一人で女子用のテントに寝ていた北村が。俺たち男の

テントに入ってきた。なんだかテントのまわりを歩き回っているような

音がすると言った。しかし、外はもう真っ暗で、その夜は月もなく、

 

真の闇に近かった。耳を澄ましてみると、たしかに歩き回っているような音が

聞こえた。それもテントのまわりを。ただ、そこまで近くではなかった。

様子をうかがっているような感じ。そのとき、俺らの他の登山者は見かけてない

ので、歩いているものが何なのかはわからなかった。

結局、北村は自分から寝袋を俺ら男のテントに持ってきて、せまくなったが

そこで寝た。特にその夜は何事も起きなかった。で、翌日には山を降りて

人里に出た。そして電車で大学のある街まで戻った。これで逃げ切ったと

思ったが、そうじゃなかったんだな。その翌日、部室に集まっていると、

野村がこんなことを言った。「昨日の夜、自分は家にいたんですが、夜の

11時ころ、何気なく部屋から窓の外を見たんです。そしたら、庭に何かが

いたんですよ。街灯の光があったのでなんとなく見えたんですが、

 

髪の毛がボサボサで逆だっているような人がいました。それと・・・

体には毛皮のようなものを着ているように見えたんです」と。

これを聞いて、みなはあの山の中の鹿の首と関係があるんじゃないかと

すぐに思ったが、誰も口に出さなかった。ただ、ひじょうに嫌な予感はした。

予感はすぐに現実になった。その翌日、野村が失踪したからだ。

家からいなくなってしまって、1昼夜たっても見つからない。

大学にも来ていない。家族が捜索願いを出したようだった。

そしてこれは、聞いた話だが、警察の捜査で、野村の家の庭から大量の

血痕が見つかったんだ。芝生がびちゃびちゃに濡れていたらしい。

調べた結果、野村と同じ血液型でDNAも同じ。しかし野村の姿はない。

それと、その芝生の血の上に、あの山で見たのと同じ、三角形の人型鳥居の

 

ミニチュアが立っていたと言うんだよ。15cmくらいの木の枝で組んだ。

現在、警察は捜索中だが、あの北海道の山までは行っていないし、

俺たちも山で見たもののことは話をしていない。ただ・・・

あそこに行けば、まだ生贄は残ってるんじゃないかという気がするんだよ。

鹿の首の代わりに、切られた野村の首があるんじゃないかって・・・

目を見開いて、切り株の上に建っているんじゃないかって・・・

まだ、残り3人のメンバーは無事で、おかしなものを見たなんてことを

言っているやつはいないが・・・どうすればいいんだろう??