今となっては昔のこと。明法博士で、大学寮の助教授を務めている、清原義澄という

ものがいました。明法道(今でいう法学)の大家であり、たいへんに頭のよい

人でありました。齢は70歳を越え、広く世間の尊敬を集めていました。

 

ただし、学者なので、金銭的には恵まれず、貧乏暮らしを続けていました。

この義澄が住んでいた家に、あるとき強盗が入りました。

義澄は機転をきかせ、床の下に逃げ込みました。強盗たちはそれに気づかず、

無人の家と思って、さんざんに荒らし回りました。しかし、家にはろくなものが

なかったので、さんざんに悪態をつきながら逃げてきました。

 

義澄はのこのこと床下から這い出てきて、強盗がいなくなったと見ると、

家の門まで走っていき、「やあ、強盗ども、わしはこのとおり無事だ。お前らの

顔はすべて見届けたから、検非違使に言いつけて、ぜんぶ召し捕ってもらうぞ」。

 

 

強盗たちはこれを聞き、「おい、あんなことを言っているぞ。捕まっては

たいへんだし、あいつのことも憎らしい。戻っていって、打ち殺してやろう」

そう相談して、義澄の家に引き返してきました。

 

これは大変だと義澄は、また床下に潜ろうとしましたが、あわてたために

物の角に頭をぶつけてぼうっとなってしまいました。そうしたところに

強盗が戻ってきて、義澄を引き回し、太刀で頭をさんざんに殴って、

とうとう殺してしまいました。そして結局、この強盗たちは捕まることは

なかったのです。

 

この話を聞いた人々は、この博士は頭はよかったのだろうが、せっかく助かった

命を、軽はずみなことをして失ってしまったのは、なんとも浅はかなことだ、

と言って笑いあったということです。(現代語訳 bigbossman)

 

まあ、強盗はともかく、こういった人は現代でもいますよね。頭が良く、

出世していったとしても、世間知らずで、やらなくてもいいようなことを

しでかしてしまう人物です。

 

この話などは、実際にあった出来事と思われます。「今昔物語」には、不可思議な

出来事もたくさん載っていますが、このように、世間で実際にあったような

話もたくさん出ているのです。そして、昔の人も、現代の人も、あまり

人間としては変わりないことがよくわかります。