これは昭和50年代前半の話だよ。当時、俺は中2で、野球部に入ってたが、
イジメにあってやめたんだよ。それで、あんまりよくない仲間と付き合っていた。
集団万引きみたいなこともやったんだ。タバコも吸っていたな。
でな、俺らの中学校の学区の外れあたりに、西原布団店ってのがあった。
で、そこの家、4年前に事件があったんだよ。そこの家に小学校の
男の子がいたんだ。たしか3年生だったと思う。まあ俺とは小学校が
違っていたんで顔はまったく知らなかった。それがちょうど台風の
日だったんで、川なんかに流されたんじゃないかと言われてたな。
身代金の電話なんかもなかったから、警察も誘拐は疑ってなかったと思う。
海のほうまで捜索したらしいが、結局は行方不明のままで、それからずっと
見つかってはいない、でな、このことがあって2年後、

そこの布団店を経営していた夫婦が離婚したんだよ。子どもの行方不明が
原因だったのかもしれない。そして店には親父が一人で暮らしてたんだが、
急な病気でぽっくりいっちまった。まだ若かったはずだが、原因は
俺は知らない。で、店は空家になったんだよ。それから誰も住んでなくて
今にいたる。で、俺ら仲間はそこの空家をねらってたんだ。たまり場に
ならないかと考えてた。中でタバコを吸ったりエロ本を見たりする場所だ。
そう相談がまとまって、一度下見に行くことにした。その日はたしか
木曜で、放課後の5時ころだったと思う。でな、表のガラスには黒い紙が
はられていて、厳重に鍵がかかっていたんだ。ガラスを割らないと
入れそうもない。それで、家の周囲、塀の内側をぐるっと回ってみたんだよ。
そしたら、1か所、鍵がかかっていそうにない窓を見つけたんだ。

スリガラスの向こう、たしかに鍵がかかってない。それを開けてみたら
開いた。どうやらそこは台所らしかった。それで窓は小さく、高い場所に
あったが、みなで入ってみたんだよ。ああ、仲間は3人だった。そこは
ふつうの台所で、流しになってた。薄暗い。電灯はつかなかった。
電気が通ってなかったんだろう。床にはうっすら埃が積もってた。
食器がいくつか流しに出てたが、散らかっているというほどではなかった。
ためしに蛇口をひねったが水は出ないし、ガスもつかなかった。
まあそれは当然だろう。家人がいなくなって2年もたつ。そこから先は
居間と寝室、、あとは風呂とトイレ。広い家ではない。「どうだ、ここ
隠れ家になりそうか?」  「うーん、どうだろうな。電気が来てないから
暗いし、明るい時間しか来れないだろう」  「土日とかか」  「ああ」

こんなことを言いながら階段から2階にも上ってみた。部屋は2つで
一つは物置になってる四畳半、そしてもう一つはいなくなった子どもの部屋。
学習机の横にランドセルがかかってた。もちろんここも電気はつかない。
「どうする?」  「うーん、たまにタバコを吸いに来るのにはいいかも
しれないが、学校からも遠いし使い勝手はよくないな」で、俺たちは
店のほうに出た。売り物の布団はすでに運び出されていたが、隅のほうに
何組か残ってた。俺らは中から表度の鍵を開けて外に出た。すっかり
暗くなっていた。それから仲間の一人の家に行ったんだよ。そのときに一人が
なんか口の中でぶつぶつと言っていたが、俺は気に留めなかった。
仲間の家についた。そこの両親は夜の仕事で、もうすでに出かけていた。
俺らは仲間の部屋に入って、寝転んで漫画を読み始めたが、さっき

口の中で何か言ってたやつが「紙と鉛筆貸してくれ」と言い始めた。
「どうするんだよ?」そしてメモ用紙に何か数字を書き出した。
「何だよそれ」  「さっきの家、表に看板が残ってただろ、西原布団店って
やつ」  「ああ」  「で、その下に電話番号がついてて、俺、それを
覚えてきたんだよ」  「それがこの数字か? どうすんだ」  「さっき
居間に電話があっただろ。あの番号じゃないかと思うんだ」  「んで?」
「みなでかけてみないか」  「電話線も切れてるだろ」  「そう思うけど、
もし出たら怖いだろ」  「出るわけねえよ。誰もいないんだし」
「そうだけど・・・まあ、遊びだ」  「通じねえよ」  「やってみようぜ」
ということで、みなで階段下まで行って、電話機を囲んでかけてみた。
しかし、当然ながら何の音もしない。 「出ねえな」  「当たり前だよ」

と、馬鹿らしくなって切ろうとしたとき、受話器をとってたやつの顔色が変わった。 「あ、誰か出た」  「嘘つくなよ」  「ほんとだよ、ああ、なにか言ってる
「んな馬鹿な」  「子どもの声のような・・・くぐもっててよく聞こえない」
「なんて言ってるんだ」  「待ってくれよ。え? え?  ふえあれでい?」
「なんだそれ」  「知らんよ。あ、切れた」  「・・・お前、俺らを怖がらせようと
してるんだろ」  「いや、ホントだよ。俺も怖い」嘘を言っているような顔では

なかった。で、その後みなで相談したが、ふえあれでいという意味がわからない。
それにどう考えても電話が通じるはずはない。「なあ、明後日は日曜で休みだろ。
日中にもう一度行ってみないか。電話が通じるのか確かめてみよう。そんときに
隠れ家にするかどうかも決めよう」  「俺は嫌だな。あの家なんか不気味だ」
で、日曜日、俺たちは仲間の家に集合してから、また西原布団店に行ってみた。

表度は前回来たときに鍵を開けていたが、用心してまた台所から入った。
すぐに居間に行って電話機を見たが、線は壁につながっているものの、
時報にかけてもまったく反応なし。「当たり前だな」  「でもこの前。たしかに
子どもが出たんだぜ」  「それより何か売れるようなものがないか探そう」」
しかしそういうものはない。それに子どもだから質屋でもとりあってはくれない。
そのうち、店のほうに行っていたなかまが頓狂な声を上げた。「ああっ!」
見に行くと、隅にあった布団が広げられていた。「これ、フェアレデイ・・・」
見ると、当時評判だったフェアレデイZのミニカーが布団の間にはさまっていた。
「あの電話、これのことなのか?」  「・・・たまたまだろ」
「もう帰ろうぜ、ここはやめよう。やっぱ気味が悪いよ」そのとき、居間で
電話の呼出音が響いた。「え、あ?  あの電話切れてるはずだ」

みなで走っていって電話機を囲んだ。たしかに鳴っている。当時の「ジリリリ」
という音だ。「誰か出ろよ」  「嫌だ! 呪われるかも」呼び出し音はもう10回を
越えたが鳴り止まない。そんとき、俺はなんだか、これは出なくちゃいけない、
という気がしたんだ。意を決して電話を取った。ザリザリと雑音が聞こえた。
しばらく耳に当てていると、遠くからのような低い声で、「〇〇神社裏、
笹やぶ」と聞こえた。来どもの声だった。俺が「子どもだ!!」と叫ぶと、
一人が逃げ出した。「おい待てよ!」置いてかれるのが怖くて全員が逃げた。
俺も受話器を放り出してあとを追ったんだよ。みなで店の外に出た。
時間は2時を過ぎたばかりで、太陽はギラギラしていた・・・まあ、こういう
話なんだよ。その後、俺らは何もしなかった。空家に忍び込んだのがわかれば
不味いと思ったんだ。それから・・・さらに一年近くたって、〇〇神社裏の

笹やぶ近くの水路から白骨が見つかった。いなくなっていた子どもだった。