これはうちの市で起きた話なんだよ。うちの市は典型的な地方都市で、
人口は20万をちょっときるくらい。まあ、過疎はもう始まってるけどな。
でな、少し郊外の丘の上に、緑が丘団地ってのがあるんだ。
戸数は200くらい、1軒の家に4人が住んでるとして、人口800くらいの
造成団地だ。でな、そこへ行くにはちょっとした登りになってるんだが、
もちろん車は通れる。俺も毎日その道を通って通勤してるんだ。
でな、ある日、夕方の6時ころかな。団地の入口に近づくと、空き地の
道沿いのところにお堂があった。昨日まではなかったのに。
そうだな、高さは1m半くらいで、真新しい。白木でできてて、
扉は開いており、中に頭の長いじいさんの像が祀ってある。そしてお堂の
隣には縦長の看板のようなものがあった。車を寄せて見てみると、筆字で

「このお堂に夜中の2時から4時までの間にお参りすると、    願いが必ず

かないます。その場合、お礼として神像の足元に100円を喜捨してください」

こう書かれてたんだよ。この「お参りすると」の後は数文字分が

空白になっていた。何だこれは? と思った。
新興宗教か何かなんだろうか。しかしそれらしいことはどこにも出ていない。
教団名のようなものもない。まあ、こんなものを信じてお参りする人も
いないだろうなと思った。それから3日後、たまたま隣の家の主人と
話すことがあったが、あのお堂のことには気づいていた。まあ当然だろう。
なんたって団地の入口なんだから、必ずその前を通る。違法なものじゃないか
という話もしてみたが、そのお堂がたってる空き地は私有地で、
設置するのは自由だろうという話になった。え、俺?

俺はもちろん信じちゃいなかったし、夜中にそんなところに行くほどの
願いがあるわけじゃない。でな、10日ほどたってから、帰り道に
そのお堂をのぞいてみたんだよ。前にあったじいさんの木像はそのままだったが、
なんとなく最初のときとは表情が違って見えた。前は無表情だったが、
そのときにはなんだか少し口の端がゆがんで、微笑んでいるように見えたんだ。
ただし、けっしていい表情とは言えなかった。なんとなく嫌なものを
感じたんだよ。まあでも、でも、それは夕暮れの光のあたり加減のせいだろうと
思った。それから20日ほどして、また早く帰る機会があったんだよ。
そのときもお堂をのぞいてみた。そしたら、前よりも神像の顔がいっそう
底意地が悪いように見えたんだ。そして神像の足元には100円玉が2枚
重ねておかれてあった。ああ、だれか夜中にお参りしてるんだろうか。

それからまた20日ほどたち、すっかり木の葉は落ちた。冬に入ったわけだが、
このあたりは雪はほとんど降らない。ただし、景色は寒々しく、その中で
新しいお堂だけが目立っていた。そしてその後すぐ、隣の主人が亡くなった。
急な病気ということだった。まだ仕事は現役なのに気の毒なことだと思った。
隣の主人は建築会社の専務で、葬式は街中の会館で行われた。俺も喪服を
引っぱり出して参加させてもらったが、会社の人が大勢きていたな。
そのれから3か月がたち、この冬の間、団地では亡くなった人が多かった。
ほとんどが突然の病死だった。俺はそのたびに葬儀に参加し、喪服をしまい込む
ひまがなかった。で、ある日、またあのお堂をのぞいてみたが、
頭の長いじいさんの像は、はっきりと邪悪と言える顔になっていた。まるで
彫り直しをしたかのようだった。そして像の足元にはかなりの数の100円玉が

積み上がっていた。こんなに夜中にお参りする人がいるのか。意外に思ったが、
まあこの団地も、全体が年老いて、子どもは巣立ち、退職した老夫婦が増えて
きている。信心深くなってきているのかもしれない。しかしこの像の顔は・・・
それから1週間ほどでお堂は立札もろともなくなった、きれいさっぱり。
そしてそのかわり、空き地には「売地」という看板がたてられ、それには
不動産屋名が入っていた。ああ、どうしたんだろう、と思った。
その後4月になって、団地の自治会が新組織になり、その会合があった。
簡単な事業報告と会計報告があって、その後に懇親会になった。
これがメインともいえる会で、みなで酒を飲み、ワイワイ話し合った。
ただし、明るい話題ばかりじゃなく、団地の高齢化の話も出て、みなも
先行きはどうなるんだろうと不安がっていた。いつしか話題は入口にあった

お堂の話になった。お堂のことはみんな知っていた。撤去されたことも。
そして撤去の現場を見たという人がいた。その人の話では、祀ってある神像と
そっくりの老人が一人で軽トラでやってきて、トラックから降りると、
ポケットから矢立てを取り出し、立札に何かを書き加えた。見ると、
「このお堂に夜中の2時から4時までの間にお参りすると、相手が死ぬ願いが
必ずかないます。その場合、お礼として神像の足元に100円を喜捨してください」
に変わっていた。老人はテキパキとお堂を解体すると、見ていたその人に
向かって「この団地での予定は終わりました。他の場所に移ります」そう言って
去っていったそうだ。この団地での予定?  あの100円玉のことだろうか?
しかし、いくら積んであっても100円は100円だし、たいした金額には
ならないだろう。他のことだろうか? そう考えたが、口には出さなかった。