これは今から30年ほど前、1990年代のことだよ。実際にあった話で、
これはその雑誌の編集部にいたやつなら誰でも知ってるから、嘘だと
思うなら聞いてみてれよ。そう、その当時、俺はある雑誌の編集部に
いて、編集者をやってた。その雑誌はもうとっくに廃刊だが、雑誌社自体は
まだある。ただ、雑誌名は勘弁してくれ。その雑誌は基本的にエロ記事が
中心だったが、夏場には心霊特集をやる。売れるからな。
まあ、ほとんどがフェイクなんだが。それでな、その夏は、読者から
曰くつきアイテムを募集したんだ。読者が送ってきたやつを、その
雑誌社で契約している霊能者さんに見てもらって、できるなら
浄霊もしてもらうって企画。そして、その一部始終を写真で雑誌にのせる・・・
そういう手はずだった。募集期間は1か月。それから

霊能者さんは、高橋さんっていう50代の男性で、自分では神道系って
言ってた。1回につき5万くらいの謝礼を払ってたよ。で、雑誌で募集の
広告を出して、送られてくるのは写真が多いだろうと思った。当時はもう
デジカメはあったはずだ。あとは、人形、お面なんかだと思ってたんだ。
ところが、いちばん最初に送られてきたのは、かなり意外なものだった。
ぞうきんなんだよ。ビニール袋に入れて、さらに油紙で包装したぞうきん。
これは予想外だった。黒いタオルを4つ折くらいにして、白糸の
刺し子で縫ったぞうきん。新品ではなく、少し汚れた感じがした。
その包には走り書きのようなメモも入っていて、送り人は
田中喜美子という女性、書いてなかったが、どうやら主婦のような感じ。
その人はローンで家を新築したんだが、そのとき、ホテルから

新しい家に入ってみると、階段の手すりにそのぞうきんが掛かっていたと
言うんだ。そのときは何の奇妙な感じもなかった。おおかたその家を
建てた工務店の人の忘れ物だと思ったそうだ。新品ではないがまだ使える。
その工務店に連絡しようと考えたが、あまりに些末なことなので、
かえって迷惑かとも思い、自分の家でバケツに水をくんで手洗い
したんだそうだ。そしたら、そのぞうきん、濡れている感じはないのに、
すぐにバケツの水が真っ赤になったそうだ。え、どういうこと?
最初は赤い絵の具などかと思ったが、鉄さびのような臭いもする。
これ、血じゃないかと考えて怖くなった。ちょうどそのとき、この
編集部で出している雑誌で、曰くつきの品を募集しているのを見て
応募した、ということが書いてあった。これは編集部でも困った。

まさか血ってことはないだろう、やはり塗料かなにかに違いない。でも、
せっかく送られてきたんだし、血だってことにして雑誌に出すことにした。
で、霊能者の人に連絡して、会社に来てもらったんだよ。そして
戸棚にしまっていたそのぞうきんを見せた。そしたら、霊能者さん、
そのぞうきんを見ないうち、戸棚から出しただけで顔色を変えたんだよ。
そして「ああ、それはダメです。私ごときの力では祓うことはできません。
幸い、この県の一宮の宮司は知っています。その方に事情をお話して
お焚き上げをしてもらいます」こう言ったんだよ。そうして、そのぞうきんを
手に取ることもなく、そそくさと帰っていってしまったんだよ。へえ、この
ぞうきん、そんなに大変なものなのかと思い、とりあえずお焚き上げまで
ということで、キャビネットの中に戻しておいたんだよ。

まあでも、神社でのお焚きあげをほんとうにやるのなら、それはそれで
絵になるなとは思った。そのぞうきんのいわれはわからないが、適当に
それらしいことをでっち上げればいい。で、ぞうきんはキャビネットに
入れたまま、俺は夜の9時頃に退社したんだよ。絶対に持ち帰った
なんてことはないんだ。そして自分の部屋に戻り、ビールを飲みながら
遅い夕食をとり、12時すぎには寝た。少し酔ってはいたが、それは
毎日のことだ。で、ベッドに入ってから10分くらいかなあ。まだ、寝ついて
ないとき、部屋がグラグラと揺れたんだよ。地震だ、と思った。実際に
地震で、あとで確かめたら震度4だった。でな、そのときにベッドの枕元に
組んでいたオーディオセットのアンプがズレて、俺の鼻のつけ根にガーンと
あたったんだよ。急に息苦しくなって、胸に何かがボタボタ垂れてる感じがした。

ああ、鼻血だ。そう思って、回りを見るとベッドの枕元あたりにタオルがある。
それで、鼻をおさえながら立ち上がって電灯をつけた。そして愕然とした。
俺が鼻をおさえてたのは、あの黒いぞうきんだったんだよ。ありえねえ、
このぞうきんは会社にあるはずだ。そこでぞうきんは床に投げ捨て、
ティッシュペーパーをごっそりつかんで鼻をおさえ直した。幸い、鼻血は
すぐに止まったが、あのぞうきんはかなり血を吸ってしまった。
でな、俺は気味が悪くて、そのぞうきんは割り箸でつまんで紙袋に入れ、
翌日に会社に持っていったんだよ。そして着いたら、いの一番にあの
キャビネットの中を見たんだ。そしたら、やはり入れてたはずのぞうきんは
無くなってたんだよ。これは説明がつかない。俺が無意識のうちに
あのぞうきんを家に持って帰ってしまったんだろうか?

しかし、何のために??  それにどうして、俺のベッドの枕元にあったんだ?
何もかもわけがわからなかった。そのうちに霊能者さんがやってきて、
神社に連絡がついたと言う。それで、俺と霊能者さん、それとカメラマンの
3人で、あのぞうきんを持って神社に向かったんだよ。どうやら話はついてた
らしく、社務所に顔を出すと宮司さんらしき人が出てきて、「話はうかがって
います、そのぞうきんを見せてください」そう言われたので、俺は
紙袋から机の上にぞうきんを出した。そしたら宮司さんは顔をしかめ、
「それ、ぞうきんのように見えますが、血を吸う生き物のようです。
どうしてあなたの手に渡ったかはわかりませんが、このまま持っていれば、
もっと血を求めるだろうと思います」そうおっしゃって、神社の拝殿で
まずはお清めをすることになったんだよ。ただし、写真撮影は不可だった。

ぞうきんは袋から出されて、白布のかかった台の上に置かれ、装束を
変えた宮司さんが、幣を持ってお清めの祝詞を唱えた。そしたら、
誰も手をふれてないのに、ぞうきんが身をよじり始めたんだよ。
まるで生きもののようだった。右にねじれ、棒状になってまた広がり、
今度は左側によじれる。しかし、祝詞が終わりに近づく頃には、
ぞうきんはだんだんに動かなくなって、ついには静止した。
宮司さんは「これで、大丈夫でしょうが、今日のうちにお焚き上げします」
と言い、そこでこの件は終わったんだよ。結局、その神社には謝礼を
5万ほど包んだ。その帰り道、車の中で霊能者さんに「あれは何なんですか?」
そう聞いたら、「昔からいるものだと思います。血を吸うことを好む
魔物です。ぞうきんに擬態しているのでしょう。

私も噂はきいたことがありますが、実際に見たのは初めてです」と。
まあ、こんなことがあって、そこの編集部では読者から曰くつきのものを
募集するのは中止にしたんだよ。今回はこれで済んだが、どんなものが
これから送られてくるのかわからないからだ。・・・それから2年ほどして、
俺はその編集部を離れて、競馬関係の雑誌に移った。そこでは怖いことは
とくに何もなかったよ。こんな話なんだ。