これ、俺が小6のときのことだよ。当時は公営団地に4人家族で
住んでたんだ。そこの1階、家族は両親と俺と弟。部屋は2間しかなく、
それとは別にダイニングキッチンがあった。両親はテレビのある居間に
布団を敷いて寝て、俺と弟は6畳の寝室に二段ベッドで寝てたんだよ。
で、あれは7月のことだったな。夏休み直前、もうかなり暑くなってたが、
当時はどこの家にもエアコンなんてなかった。で、俺と弟は遅くまで
居間のテレビで心霊特集を見ていて、部屋に寝に行ったのは11時
少し前だった。その心霊特集はかなり怖かったので、寝つけない思ったが、
意外にすぐ眠りにつくことができた。ちなみにベッドは俺が下の段で
小4の弟が上の段。で、眠ってからしばらくして、弟がうなされる声で
目が覚めたんだよ。かなりの大声で、叫んでいる感じだった。
目が覚めてまず、腹がたった。なんだよ、まだ真っ暗じゃないか。
このやろう、鼻でもつまんで起こしてやろう。そう考えて布団をのけ、
ベッドのはしごに取り付いた。そして弟のいる上段に顔を出すと・・・
ありえないと思うかもしれないが、弟が布団から浮いてたんだよ。
高さは10cmくらいだな。呆気にとられた。かけていたタオルケットは
丸めてわきに寄せられていた。まさかと思ったが、たしかに
浮いてる。それで俺はとっさに、弟の体と敷布団の間のすき間に手を
入れてみたんだよ。入った! そしてそこで、手に力のようなものを
感じたんだ。うーん、なんと言えばいいかな、強い水流に手をかざして
いるような感じ。不思議と怖いとは思わなかった。で、弟のシャツを
つかんで下に引き下ろそうとしてみた。その途端、弟の体がふわっと
俺の手の上に落ちてきたんだ。やつは起きたようだったが、落ちたのは
10cmくらいで、柔らかい布団の上だったので、ダメージなどはない
ようだった。俺が、眼をこすっている弟に「お前、今、浮いてたぞ」
と言うと、弟はおぼつかない声で、「兄ちゃん、何するんだよ。嘘つくなよ」
と言った。で、そう言われると俺も自信がなくなった。人の体が浮くとか
あるわけがない。もしかして寝もけたのは俺のほうなのか?
・・・その夜はそれで終わり。あとは特におかしなこともなく朝になった。
このことは朝食のときに両親にも言わなかった。信じてもらえないだろうし、
もしも言ったら、次から心霊番組を見せてもらえなくなるかもしれないと
思ったからだ。で、その次の夜のことだよ。その日は比較的早く寝た。そして
夜中。また、弟の「うわっ!」という声で目が覚めた。やはり真っ暗。
「どうした?」そう言ってはしごをのぼったら。やっぱり弟が浮いてた。
しかも今度は10cmなんてものじゃなく、天井スレスレまで浮遊してたんだ。
高さは40cm以上はあったと思う。しかも、俺が弟の体を引っ張っても
今度は落ちてこなかった。「これはどういうことだ?!」そのうち、
弟の体が頭のほうを高く斜めになって、顔がズブズブと天井板に沈んで
いったんだよ。まるで、天井板がゼリーかなにかのようにめり込んでいく。
それで俺は、今度は両手で、弟の腰を抱えて強く引いた。そしたら、何かが
ぶつんと切れた感触がして、弟の体が天井から落ちた。今回はかなりの距離が
あり、弟も衝撃を感じたのか、すぐに眼を開けた。そして俺に、
「兄ちゃん、上の階で人が死んでる」と言ったんだよ。「何で、そんな
ことがわかるんだよ」 「耳元で、俺は死んだ。ばあさんをたのむ。そう言われた」
翌朝、このことは両親に話した。弟も「本当だよ。天井に吸い込まれた」と
俺の話を裏付けた。実際、弟の頭は、ベッドの手すりにぶつけたところが
コブのようになっていた。俺たち兄弟が口をそろえるもんで、
父親が念のためにと管理会社に連絡した。そしてその結果、管理の人が
上の階の部屋に行ってみたら、ノックしても返答がなく、合鍵を使って
入ると、人がベッドの上で目を開けて死んでいたそうだ。上の階に住んでいるのは
年金生活の老夫婦で、死んでいたのは旦那さんのほう。急な脳出血という医師の
見立だったらしい。死後2日が経過。そしてその布団の隣には生きたばあさんが
いた。ばあさんは以前からボケていた上に寝たきりで、旦那さんの死も
よくわかってなかったらしい。まあ、こういう話なんだよ。俺はこれ、旦那さんが
自分の死を弟に知らせようとして引っ張ったんじゃないかと思ってる。
