今回はこういうお題でいきます。さっそく、葛の葉伝説について
みてみましょう。昔、摂津国阿倍野(現在の大阪府大阪市)に
安倍保名(やすな)という若者がいました。彼は落ちぶれていましたが、
家の再興を願って、毎日、葛葉稲荷に参拝していました。
ちなみに葛は、くず餅などに使われる植物ですね。ある日、保名は
猟師に追われて逃げ込んできた白狐を助けますが、そこで怪我を負って
しまいます。すると、そこに葛の葉という美しい女性が現れ、
保名を介抱すると家まで送り届けた。
この女はもちろん、保名が助けた白狐でした。何度も保名を見舞ううち、
2人は互いに惹かれ合うようになり、2人は恋仲になります。やがて
葛の葉は、保名の子を身ごもり、生まれた子に「童子丸」と名づけます。

こうしてしばらくは幸せな生活が続きましたが、やがて油断したのか、
葛の葉は狐の姿に戻っているところを童子丸に目撃されてしまいます。
このあたり、幼い子どもなら誤魔化せそうな気もしますが、
そうはできなかったんでしょう。
自分の正体を知られた葛の葉は、もう一緒には暮らせないと、障子に
「恋しくば たづね来てみよ 和泉なる 信太の森の うらみ葛の葉」
の歌を残して姿を消してしまいます。
その後、成長した童子丸は晴明と名前を変え、もともと頭が良かったのと、
葛の葉が遺した宝刀のおかげで、数々の苦難を乗り越えて
陰陽師として位を上げていきます。

やがて、晴明は父、保名の命を奪った民間の陰陽師、芦屋道満と対決して
これに勝ち、朝廷にもその力を認められて天文博士の地位につく、
こういった物語なんです。
この伝説は、人形浄瑠璃『芦屋道満大内鑑』など、数々の作品になって、
多くの人に知られていました。しかし、今では、この話を知らない
人も増えてきています。もちろんこれは創作で、
実際の安倍晴明ではありません。晴明の出自はよくわかってはいませんが、
中級貴族の大膳大夫・安倍益材(あべ の ますき)の子と伝わっています。ただ、
朝廷ではそれだと高い地位につくことはできません。また、出自が不確かな
ことで、こういう伝承ができたのだろうと思います。
『芦屋道満大内鑑』

実際、晴明は当時の人としては、異様な長生きと言える84歳まで
生きましたが、最終的な官位は、齢をとってから従4位下についた
くらいで、これは官位としてはたいしたものではありません。
しかし、上級貴族が吉凶の占いなどのために、晴明のもとを訪ねてくる
などのことがあり、朝廷内で一定の勢力を持っていました。
また、天皇の譲位問題にかかわったとも言われます。
こういったことで、後世、藤原道長の庇護を受けていたなどの伝説が
加わり、この葛の葉の話もできていったものと考えられます。
優れた人には、こういったことが多いんですね。

晴明の宿敵、芦屋道満については、まったくわかっていません。
そもそも、そんな人が実際にいたかどうかもわからないんですね。
もしいたとすれば、晴明が官製の陰陽師であったのに対し、民間の
拝み屋であったと考えられます。あるいは仏教関連の法師陰陽師であった。
このように、葛の葉伝説ができていったわけですが、興味深いのは
平安時代の頃から、狐は人に化けて化かすものであるという
認識があったことですね。この他にも
『今昔物語』などには、橋の上に産女が出たが、この正体は狐で
あろうといった話が出てきます。このあたりも、妖怪史的には興味深い
ところです。では、今回はこのへんで。
実際の葛の葉

