ああ、俺は佐藤ってもんだが、ここで話をすれば謝礼がもらえるって
聞いてきたんだ。怖い話をすればいいんだろう。だったらとびっきりのが
あるんだ。それに、わけの分からねえ話なんで、できれば ここの人に
説明もしてもらいたい。あんたら、そういうことに詳しいんだろう?
ただ、俺はあんまり話は上手くねえから、それは了承しておいてくんな。
あれは、俺が小学校6年のときだ。12月のことだったな。
俺はそんときはまだ実家にいて、地方の辺鄙な町だったのよ。
場所は言わなくてもいいよな。で、俺と同じクラスに、竹春って名の
友達がいた。苗字は曽根だ。家も比較的近くで、仲が良かった。
小学校に入る前から、つるんで遊んでたんだよ。体の大きいやつで、
気性は荒かったが、暴力をふるうってことはなかった。

下級生の面倒なんかもよく見てたと思うよ。で、こいつの家のばあさんが
死んだんだよ。父親の母親だな。いっしょに住んでた。元気なばあさんで
毎日畑に出てたんだが、ある日、夕飯の時刻になっても戻ってこない。
それで畑に探しにいったら、あぜの上に倒れて死んでたんだ。
脳卒中らしい。まあ昔はそういう人が多かった。今の人みたいに
ちょっとしたことでは病院に行かなかったんだ。そのばあさんも
体具合が悪くてもがまんしてたんだろうな。で、その3日後に
ばあさんの葬式があった。寺じゃなく、町に一件だけある冠婚葬祭場で
やったんだよ。そのあと場所を変えて酒席があったが、親戚一同や
近所のもんが集まって遅くまで続いた。ああ、そうそう、俺らのとこでは、
葬式の前にます火葬を済ませてしまうんだよ。だから、葬儀の場には

遺体はねえんだ。どうもそういうしきたりは地方地方で違うみたいだな。
ただ、このことは後々関係してくるんで、覚えといてくれ。
で、その葬式の日は、竹春は当然学校を休んだ。俺はそのばあさんに
会ったことはあったが、葬式には出ていないよ。親父が行ったと思った。
で、その翌日も竹春は学校を休んだんだ。なんでも墓に納骨をするって
言ってたな。その晩のことなんだよ。あれが起こったのは?
あれって何かって?  それが、その土地では死穢って呼ばれてることだよ。
子どもの時分には知らなかったけどな。その夜、有飯を食べ終わって、
俺は自分の部屋なんてなかったから、テレビを見た後に、部屋の隅にある
勉強机で宿題をやってたんだよ。このとき、休んだ竹春がうらやましいなと
ちらと考えた。で、11時ころだなあ。そろそろ寝ようとしてたとき、

電話がかかってきたんだよ。昔の黒電話だ。俺が一番近くにいたんで
出てみた。そしたら、俺が住んでる地区の区長だったんだよ。
この区長というのは、正式な役職ではなく、その土地の主だった
家系の長が回り番で務める。まあ名誉職だな。その区長は小学校を
校長で退職した人で、当時70歳は過ぎてたはずだ。かなり
息を弾ませた、慌てた口調で、親父を出せって言う。それで代わったら、
親父が電話に出て、何やらあいさつを述べてたが、急に声が大きくなって、
電話口で「ええっ! 死穢」って叫んだ。「そんな、もう20年も
起きなかったのに」と。それから急に声を落として、長い話になり、
俺は母親から寝るように言われて、寝所に行ったんだが、
何が起きたんだろうと思った。親父はふだんから物に動じるような

性格じゃなかった。「しえ」という言葉は覚えていたが、当時は
どういう字を書くのかはわからなかった。で、翌日だ。親父は工務店で
板材の裁断や鉋がけをやってたんだが、その日は仕事を休んだ。
どうやら竹春の家に行ったようだった。ああ、それから俺は朝飯のとき、
親父に「しえって何だ?」と聞いたんだが、親氏はいきなり顔が曇って、
「子どもは知らんでもええ」と怒鳴ったんだよ。で、学校に行ったら、
竹春はその日も休みだった。担任は体調不良と言っていたな。あんまり
病気とかで休むやつじゃなかったのに。それと、驚いたのは、その日は
急遽、授業が午前中で中止になったんだ。そして全校生徒が体育館に
集められて、地区が同じもの同士、集団下校のグループが組まれたんだ。
これもおかしい。だって田舎だからみな帰り道には田んぼしかないし、

危険な目に合うとは考えられなかった。で、上級生を先頭にして歩いてると、
道々にそこらの住人が出ていて、俺らの下校の見守りをしている
みたいだったんだよ。そんなことは初めてだったし、この臨時の
集団下校はしばらく続いたんだ。それでな、親父は毎日仕事を休んでたし、
授業は4時間で終わり。もう稲刈りも済んでる時期だし、どういうことか
わからなかった。ああ、あと当時の担任は毎日宿題を出してたんだが、
それもなかった。んでな、竹春はその5日後に学校に出てきた。
外見はふつうと言えばふつうだったが、一つだけおかしなことがあった。
着ている服から強い線香のにおいがしたんだよ。すぐにわかるくらいに
強かった。で、俺は朝のうちに竹春に「お前、どうしてたんだよ。
今までこんなに休んだことはねえだろ。具合が悪かったのか?

しえって何だよ?」と聞いたが、竹春は困ったような顔をして、
「聞くなよ。話すのは止められてるんだ」とだけ言って、その後は
がんとして説明しようとしなかったな。で、その日はふつうに6時間目まで
授業があり、集団下校も終わった。俺は竹春に「いっしょに帰ろう」と言い、
道々「なあ教えてくれよ。何があったんだ?   気になってどうしようもない。
ずっと友だちじゃないか。お前がしゃべったとは絶対言わないから」
そしたら竹春は「俺もよくわからないんだ。お前だから言っても
いいけど、他にはもらさないでくれよ」そう言って、俺を田んぼの島に
さそった。田んぼの島というのは、田んぼの途中に数本杉の木が
生えていて、下草もある場所のことだ。遠くから見れば海の島のように
見える。そういうとこには墓石が何個かあったり、石碑があったりする。

そこの中に入り、石碑の土台のコンクリに並んで座った。そして竹春が
ぽつりぽつりとしゃべった内容は・・・「ばあちゃんが死んだだろ。
それが帰ってきたらしいんだよ。葬式の翌日だ」  「ええ、まさか。ありえねえよ。
死んだものが生き返るなんてないし、だいたい死体は火葬済みだろ」
「俺もそう思うんだが・・・俺がばあちゃんを見たわけじゃないんだよ」
「じゃあ、どういうことだ」  「その日、納骨を終えて、夜になり、
親父が一番風呂に入ったんだが、「うわわわっ!」と頓狂な声を上げて、
飛び出してきた。「たいへんだ。ばあさんが、ばあさんが入ってた」
でも、ありえねえだろ。母親が風呂場を見に行ったが、案の定誰もいない」
「それ、お前の親父の勘違いだろ。酔ってたんじゃねえか?」
「俺も母親の跡から風呂場に行ったんだよ。そしたら・・・」

「何だよ?」  「蓋を外した風呂の湯に、虫の死骸がたくさん浮いてたんだよ。
ワラシ虫とか、シデムシとかああい石の裏とかにいるやつ。それだけじゃなく、
すごい嫌なにおいがしてたんだ」  「どんな?」  「腐った肉の臭だよ。
ほら、野良猫の死骸の臭いと同じ」  「うーん」  「それでな、親父が
裸のままどっかに電話をかけて、そしてしばらくしたら区長が
自分の車で迎えに来て、俺ら一家は氏神神社に連れてかれたんだよ」
「氏神神社って夏にお祭りをやって屋台が出るとこか?」  「そうだ。
それで、神職はすでに話を聞いてたらしく、本殿の扉は開いていて、
蝋燭立ていっぱいに蝋燭が灯ってたんだよ。父親、母親、じっちゃんと俺、
それから妹は御神体の前に座らされ、お祓いを受けたんだが、
これが長い。何日も続いたんだよ。本殿で寝て、飯を食ってはお祓いを

受ける。まあ、正座でなくってもいいと言われて助かったけどな。
テレビも見ることができなくてまいった。でな、そのお祓いも4日目になり、
俺もさすがに頭がくらくらしてきた。そしたら、だんだんに御神体の
鏡が輝き出し、中に一瞬だけばあちゃんの目をつむった顔が見え、そしてカッと

音を立てて割れたんだよ。金属の鏡なのに。それと同時に真っ暗になった。
後ろを見ると、蝋燭立ての蝋燭がみんな消えてたよ。で、神職が区長に
ダメでした、みたいなことを言い、区長はそうかしかたないという感じだった」
こういう竹春の話だった。でな、これで終わりじゃないんだ。その後、
俺の住んでた集落で死人が続いた。みな病死か事故だったけども、3日に

1度は忌中の札を見た気がする。死人が出た家の人はみな、道で会っても
目を落とし、大々的な葬式をする家はなかった。で、このときにうちの
じっちゃんも死んだんだ。最終的には数十人死んだと思う。