bigbossmanです。今日も、自分の仕事での面談時にうかがった話です。
お話してくださったのは早田さんというスポーツインストラクターを
されている30代前半の女性です。場所はいつもの自分の仕事場。
「私、子どもの頃から蛾が嫌いだったんです」  「そうですか。
好きな人はあまりいないと思います。これとも何か、嫌いになる特別な
きっかけでもあったんですか?」  「いえ、物ごころついたときから」
「それで?」  「このことがあったのは中2のときなんですけど、
今思い出してみても本当にあったこととは考えられなくて・・・
それほど異常な内容なんです。ですからbigbossmanさんもお信じになられるか
どうか」  「まあ話してみてください」  「はい、私、中学校のときは
バレー部に入ってました。それで、2年生でレギュラーになったんです。

これはバレーが上手かったというより、私が背が高かったから。当時170cm
近くあったから」  「で」  「そのせいで3年生から嫌がらせを受けてたんです。
肉体的な暴力はありませんでしたけど、睨まれたり無視されることはしょっちゅう」
「はい。ありがちなことですね」  「で、その日、夜の7時頃に練習が終わって、
いつも同じ2年生の家が同じ方向にある数人と帰ることにしてたんです。
で、体育館から生徒昇降口へ行って、下足から下履きを出そうとしました。
下足棚はいちおう扉がついていて、パンプスを出して下に置こうとしたとき、
中から大きな蛾が出てきたんです」  「うわ、嫌ですね」  「白と焦げ茶が
入り混じったような10cm近い蛾で、動かなかったので死んでたんじゃないかと
思うんです。で、それ、扉を閉めた靴棚に自然に入るってことはないですよね。
そのとき、3年生の誰かがイタズラでやったんじゃないかと思いました」

「どうしました」  「思わず悲鳴を上げたんです。ただ、何の証拠もないですし、
何気ないふうを装って靴を履きました。でも、他の2年生も、言いませんでしたが

3年生がやったんじゃないかと察してるみたいでした」  「なるほど」
「蛾の死骸は靴先ですのこの下に蹴って入れましたけど、やはり足が気持ち悪くて」
「で?」  「その後、私たちは自転車通学だったので、帰り道にみんなで
コンビニに寄ったんです。買食いは学校から禁じられてましたけど、みな
平気で、誰も守る人はいませんでした」  「ああ、自分のときもそうでした」
「そのときは夏で、コンビニの看板の下にあの、電撃で虫を殺す機械がついて

まして、青白い光を発しながらバチバチ言ってました。さわれば死んじゃうのを
知らずに、たくさんの蛾が群がってたんです。私はそれを見て背中がゾクゾクしたん
ですが、店内に入ってアイスを買い、コンビニの前で食べました」  「で?」

「それから自転車に乗りました。その当時は自転車通学生はヘルメットを被る
ことになってましたが、みな暗くなってからは守る子はいませんでした。
前のかごに入れてましたね。髪型が崩れるのが嫌だったので」  「それで?」
「そのときに友だちが、私の後ろから、頭、頭と言いました。最初は何のことか
わかりませんでしたが、耳がもぞもぞっとしたんです。友だちが蛾がとまってる
と言って、私がイヤーッと言って手で触ると、ぐにゃっとした感触。
ああ、蛾にさわったんだ、と思いながら頭を激しく振りました。そしたら
あ、いなくなったと言われたんですが、そのあたりで蛾がとび回ったという
こともなかったんです。ただ、手を見ると蛍光色の粉がべったりとついてました」
「蛾は見なかったわけですね」  「はい、たしかに感触はあったんですが」
「それで?」  「友だちと別れて家に戻りました。ただいま~と言って中に
入っていくと、キッチンで夕食を作っていた母が、えっ!と言って

リビングに顔を出し、あれお前、さっき帰ってきたんじゃないの?と言ったんです。
そんなことないよ、と答えると、母はとまどったような表情でしたが、
さっき帰ってきて、手も洗わず2階に上がっていったじゃないと言い、
リビングでテレビを見ていた弟も、そうだよと言ったんです」
「気味が悪いですね」  「まさかまさか、と思いました。もしかして
部屋にはもう一人の自分がいるかも。でも、そんなことはありえないし、
何かの勘違いだろうとも思いました。それで、ムラムラと確かめてやろうという
気持ちが起こり、階段をのぼって自分の部屋に向かったんです」
「よく行けましたね」  「まあ・・・でも、音で弟が後ろからついてきたのも
わかってましたから。で、部屋のドアを開けるとすぐ、勉強机が目に入ったんですが、
もちろん誰もいません。ああ、よかったと思ってベッドの頭のほうを見ると、

そこの壁に巨大な蛾がとまっていたんです。翅を閉じて、枝分かれした触覚を
小刻みに動かしていました」  「大きさはどのくらいですか?」
「1.5mくらいはあったと思います」  「うわ、それじゃ怪物ですよ」
「私は卒倒しそうになって悲鳴を上げました。そのときに姉ちゃんどうした、と
弟が入ってきたんです。私が、蛾が、蛾が、と言って壁を指差しましたが、
そこには何もいなかったんです」  「うーん」  「弟からは、姉ちゃん
怖がりだなあ、とさんざん馬鹿にされました。でも、たしかに見たんです。
弟が入ってくるすぐ前、壁についていた蛾は翅を広げたんですが、
隠れていた下の翅に模様があったんです。それ、ドットみたいな粗い形でしたが、
私をいじめていた3年生の首謀者にそっくりだったんですよ」
「うーん、すごい話ですねえ」  「でも、あの大きな蛾はあとかたもないし、

その後も見たことはなかったんです。3年生のいじめは、9月になって引退すると
なくなりました。私は新チームで地区優勝もしたんです。・・・今でも、

あれが本当に見たものだったかどうかわかりません。

でも、それからますます蛾が嫌いになりましたね」