目が覚めました。反射的に枕元の時計を見ると、7時40分です。
「えー!」と思いました。いつもは7時に鳴るように目覚ましを
かけてるんです。学校には8時10分にまで入らないといけないので、
どう考えても遅刻になります。一瞬、時計を見間違えて、本当は6時40分

だったのではないかと思いました。しかし、降りてきた居間の壁時計も
やはり7時40分すぎ。わけがわかりませんでした。そこで洗い物を
していた母に「どうして起こしてくれなかったの? もう完全に遅刻じゃない」
と言いました。でも、母はのんびりした声で「さっき7時10分頃に行ったのよ、
そしたらあんた、寝ながら、今日は先生方の研究会で午前中は休みって
言ったじゃないの。だから無理に起こさなかったのよ。それともあれ、
嘘なの?」と逆に聞き返してきました。ええ、どういうこと?

そんなことを言った記憶はまったくない。そもそも研究会なんてない。
私はあせりました。その日は中学校の修学旅行の班を決めるための
学級会があって、絶対に休むわけにはいかなかったんです。「んもう!」
私は叫んで大急ぎで部屋に戻り、パジャマを脱ぎ捨てて制服を着ました。
髪はブラッシングもせず、ただまとめただけ。そうしているうち、
時間はもう7:50になっていました。私は階段を駆け下り、
母に「朝ごはん、いらない!」そう声をかけて家を飛び出したんです。
私の家の前の道路は通学路になっているので、普段なら見慣れた制服を着た
生徒が何人も通っているのですが、その日は一人も見かけません。
やはりいつもより遅い時間なんだ、と思いました。そこからは小走りで
中学校に向かいましたが、。いつもなら15分ほどの道を、

10分以下で駆け抜けたと思います。校門が見えてきましたが、まだ
閉まってはいない。校舎の3階についている時計は8時5分すぎ。
「ああ、間に合った」と心からほっとしました。校門の前には朝の
あいさつ指導の先生が立っていましたので「おはようございます」と
叫んで横を駆け抜けました。後ろから先生の「あと5分ないぞ」という
声が聞こえました。昇降口には、今来たばかりの生徒の姿があり、私は
「ああ、間に合った」と安心して2階にのぼり、2年B組の教室に入りました。
朝読書がすに始まっており、クラスメートはみな席について読書していました。
私もカバンをロッカーに入れ、席について机から本を取り出しました。
今読んでいるのは、学級文庫の「赤毛のアン」ですが、わずか数ページしか
読まないうちに始業のベルが鳴りました。そしてすぐ担任のM先生が入って

こられました。朝のホームルームです。日直の司会の後、M先生のお話になり、
先生はその日の予定の後に、「今日の2時間目の学級会は修学旅行の班決め
だから。前に言ったルールを忘れないようにね」と言いました。このルールと
いうのは、私たちのクラスは31人なんですが、修学旅行の班は6人ずつでした。
このそれぞれに班長や生活係などの役が割り振られるのです。で、6人の班が
4つ、7人の班が1つできることになりますよね。このときにもしも、
班決めで揉めたりした場合、自由な席ではなく男女ごとに出席番号順にすると
あらかじめ言い渡されていたんです。でも、それだと面白くないですよね。
会が終わってM先生がいなくなると、クラス中が雑談の輪になりました。
みなグループ決めの話で、仲のいい子たちが「いっしょの班になろう」と
言い合っていました。私も、友だちの朋美や佐紀に、「同じ班になろうね」と

声をかけたんです。1時間目の英語が終わり、先生が教壇の前に立つと、
黒板に電車の座席図を書き、6人と7人の区画を線で囲みました。そして
「いいですね。もしも揉めた場合は出席番号順です。では、自由に班になって
みてください。立って歩いてもかまいません」私はすぐ朋美のところに走り、
佐紀もすぐやってきて3人で制服の袖をつかみ合いました」これで他の3人、
あるいは4人の班と合体できればグループは完成です。ところが、これが
なかなか決まらなかったんです。思うに、朋美はどっちかというと、
活発なと言うか、うるさいタイプだったので、それで他の班に敬遠された

のかもしれません。少し焦りましたが、なんとか合体する3人が見つかり、
私たち6人はまとまって座りました。こうして10分ほどで5つのグループが
決まりましたが、全部が6人ずつでした。一人あまってしまったんです。

そのあまった子は、所在なさげに窓際にぽつんと立っていました。M先生が
「あと、制限時間5分ですよ。さあ、どこかの班で由美さんを入れてあげなさい。
でないと出席番号にします」その由美という子は、やや学区が離れたところに
住んでいて、部活動にも入っておらず、おとなしい感じの子で、友だちも
少なかったのです。私はグループの子らに「ねえ、入れてあげない」と
言いました。朋美と佐紀もうなずきましたが、合流した中の吉田という子が
「今言いださなくてもどっかの班で入れるでしょ」と言いました。それで
手をあげることはしなかったんです。「あと3分」とM先生が言い、
由美さんは黙って窓にもたれて俯いていました。このとき、ああ、自分が
この立場だったら嫌だろうなと思いました。でも、なかなか言い出せない。
そのとき、副委員長をしている美紀という子が、「31人なんて半端な

数だからいけないのよ」そう言って自分の席に戻ると、机の中から筆入れを
出したんです。そして中からカッターをつかみだし、由美さんに近づくと、
由美さんははっとしたように顔を上げました。そして美紀はドンとカッターを
由美さんの首の横に突き立てると、そのまま喉の下に回して首を
掻ききったんです。「えええ!」と思いましたが、血はまったく出ず、
チーズケーキを切ったような感じでした。由美さんの胴体はへなへなと
床に崩れ、生首の髪を持ったままの美紀は、ニヤッと笑って窓を開け、
由美さんの首をポーンと外の花壇に放ったんです。そして「これで班決め
終わりです」と言い、M先生も平然と「いい決め方をしたわね。じゃまな人は
旅行に来ないほうがいいからね」と言いました。わけがわかりませんでした。
こんなことがあるはずがない。夢なのだろうか、でも現実そのもの。

さっき英語の授業で当てられて本読みもした・・・私は教室の後ろのほうの
窓に駆け寄って外を見ましたが、花壇の花の中に由美さんの生首が落ちて
たんです。顔が上を向いており、うつろな表情で上を見上げていました。
ああ、かわいそうだ、そう思ったとき、突然ベルが鳴ったんです。
「時間切れ?」そう思いましたが、私は自分の部屋のベッドに寝ており、
鳴っていたのは目覚まし時計だったんです。「ええ、どういうこと?
今までのは全部夢??」そうは思えませんでしたが、そう考えるしかありません。
時間は7:00でいつものとおり。階下に降りると、いいにおいがして
母が流しでスクランブルエッグをつくっていました。ふだんどおりの
日常だったんです。もうここまでくれば、夢と考えるしかありません。
今日の班決めが気になって、そんな夢を見てしまった。

・・・余裕を持って登校しました。ただ、朝読書はほとんど頭に入らず、
私は夢のことばかり考えていたんです。あと、もちろん由美さんは生きていて、
ふつうに登校していました。そして、夢のとおりに出来事は進行し、
2時間目の学級会になりました。「いいですね。もしも揉めた場合は
出席番号順です」M先生が言いました。ところがここからが夢と違っていて、
由美さんがすごい人気だったんです。どのグループも、争うような感じで
由美さんを仲間に入れようとし、由美さんはとまどったような笑みを
浮かべていました。そしてグループはあっという間に決まり、みなが数分で
席に着きました。ここで、M先生が気になることを言ったんです。
「夢の呪術が効いたようね。それにしてもすごい効き目。

スムーズに決まってよかった.。由美さんが孤立すること心配してたのよ」

 

でも、どういうことかはわかりませんでした。カチカチと、

美紀が筆箱からカッターを出して刃を鳴らし、「私これ、たしかに使った

気がするなあ。夢だったのかなあ」と言いました。