ああ、俺は田崎って言うんだけどね。前はエロ本の出版社に
いたんだよ。だけど今はネットで海外サイトが見放題だろ。だから
エロ本なんてよっぽどのマニアじゃないと売れないんだよ。
でな、コンビニで売る夏季限定の心霊もののムックを出すことに
したんだ。1500円くらいでDVDつき。そのDVDには心霊映像が
入ってるんだが、もちろん中身はやらせだよ。俺らが夜にそれらしい
廃墟に行って、懐中電灯を持ってあちこち探索するんだが、火事になった
台所に行ったとき、霊の姿がちらっと映るようにする。霊に扮装した
やつを画面の端に映したり、スライドを弱い光量で壁に映したりするんだ。
罪悪感はぜんぜんなかったよ。だって、そういうものを買うやつは、
霊が出てくることを最初から期待してるんだよ。それがただの廃墟巡りじゃ
それこそ詐欺になっちまう。期待に答えるのは当然の義務だな。で、探索は
売れない漫才コンビと、新人の霊感タレントの女の子、それから高木さん
という自称霊能者だ。じつは俺らみたいなとことツーカーの霊能者はいるんだ。
だけど、そういう人を頼むとギャラが高価いんだよな。それで、そんときは、
ネットに広告を出している適当な霊能者を見つけて、その人に依頼することに
したんだ。高木さんは50代に見える男性で、山伏のような白装束をしてる。
首に黒い大珠の数珠をかけてたから、仏教系かもしれない。でな、総勢8人
くらいでロケに行った。行ったのはある県の国道沿いにある廃ドライブインだ。
廃墟になったのは8年くらい前で、取り壊されないでそのまま。地元で
肝試しの場所になってて、スプレー缶の落書きだらけだったよ。もちろん
所有者に撮影の許可なんてとってない。俺らの本なんて見ない可能性が高いし、
文句を言われたら謝ればいいだけ。それと、地元ではこのドライブインが
経営不振で、オーナーが焼身自殺したなんて話になってたが、新聞などを
調べたかぎり、そういう事実はないんだ。それから霊能者の高木さんには
俺らの計画をちゃんと話した。やらせをやるってな。そしたら万事わかってる
という反応で、ちゃんと打ち合わせにも参加してくれたんだよ。だから、
インチキ霊能者なんだなと思った。でな、計画というのはお定まりのもので、
まず霊感タレントの女の子に現場で気分が悪くなってもらう。で、ロケバンに
戻って休んでもらうんだが、そこで車の外で霊がさまよってるのを
ちらっと見せるんだ。まあ、考えてみれば車の中からカメラで撮ってるのは
変なんだが、こういうのの視聴者はそういう細かいことは気にしないんだ。
あとは、音声さんに頼んで録音に変な声を入れてもらったり、
照明さんに突然照明機材が故障したことにしてもらったり、ギミックの
てんこ盛りだった。やり過ぎという気もしたが、こういうのはコテコテの
ほうが視聴者が喜ぶんだよな。で、最後に高木さんに現場で読経を
してもらって終わり。だいたいこれで25分ぐらいだな。で、本番の撮影は
怖いこと、おかしなことは何もなかった。ただ、ガラスがあちこち割れて
床に散乱してたんで、それでケガすることのほうが怖かったな。
まあでも、なんとか計画どおり撮り終えた。出来栄えは可もなく不可もなし。
この手のDVDの平均的なもの。ただ、難を言えば、漫才師二人のノリが
少し暗かったのと、女の子の演技が最悪だったことだな。ただまあ、
それがかえって素人ぽくっていいという意見もあった。あと、高木さんは
もしかしたらどこかで坊さんの修行をしたのかもしれない。読経はすごい
いい声で、姿はどうにいったものだったよ。ただなあ・・・
この高木さんが、じつは曲者でな。俺らをいい金づるだと思ったのか、
撮影が終わってからもさんざんつきまとってきたんだ。やれ、本物の霊が
憑いているとか、全員あらためてお祓いをしなくちゃいかんとか、
こういった仕事を他にも紹介してくれとか。はては電話番号を交換して
個人的に会おうというような話まで出た。でもよ、俺らなんて、業界の
裏の裏まで知りつくしてるだろ。だから高木さんの要求に答えるやつは
いなかったんじゃなかったかと思う。それに俺らは薄給で、余分な金を
持ってるやつなんていないからな。で、高木さんはほぼ毎日、俺らの出版社が
入ってる事務所に出入りするようになり、やってくるエロ系の女の子や
作家の誰かれに声をかけるようになったんだよ。これはさすがにまずいと
思った。大きな損害を出すやつがいたりしたら、俺らが訴えられかねんし、
女関係のトラブルなんて最悪だろ。だから排除しようと思ったんだ。じゃあ
どうやるか。単刀直入に、心霊なんてすべて嘘です。もう俺らにつきまとわないで
ください、そう言ってやってもよかったし、今から考えればそうすべきだった。
でもよ、スタッフからこういう意見が出たんだ。もう一度番組に出演して
ほしいと言って、そこでインチキ霊能を暴いてやればいいんじゃないかって。
まあ、本当はこういうことはしちゃいけないんだよな。だけどそのときは。
俺も面白えと思ったし、カメラを回してればいい絵が撮れると考えたんだ。
そりゃ高木さんは怒るだろうが、出演料さえ払えば黙って受け取るだろうとも
思った。それにこんなムック、まともなやつが買うことはないしな。
で、計画はこうだ。今回も廃墟探索にするが、行き場所は廃屋になっている
民家だ。そこはかつて一家無理心中した家ってことにした。
それは嘘だが、それらしい物件は見つけてあった。で、一階の奥の間に
仏間があって、古ぼけた大きな仏壇がある。そこで霊がよく目撃されることにして、
閉まった扉を高木さんに開けてもらう。今回は女の子はなしだ。で、
この仏壇にはしかけがしてあって、奥に黒い目の細かい網を張ってある。
そしてサイドに投影機を用意し、幽霊の像が網に映るようにするんだ。
おそらく高木さんは驚いてひっくり返り、逃げ出そうとするだろう。
そこで部屋の電気をつける。電気は止まってることにしてるが、じつは
通じてたんだな。で高木さんに真相を言う。まあこういう段取りを
考えたんだよ。ドッキリカメラのようなものだ。それがまさか、あんなことに
なるとは思わなかった。事前にその家に入って仏壇に細工し、テストも
何回もやってみた。映すのは女の幽霊が宙を飛んで迫ってくる映像だ。
途中まではうまくいったんだよ。事前にその家に俺らが入ったことが
バレないように、床の畳の上には砂も撒いたし、人口蜘蛛の巣のスプレーも
吹いておいた。そしていよいよ仏間に入って、高木さんが両開きの
扉に手をかけた。と、同時に投影機のスイッチを入れる、そしたら、
たしかに霊は映ったんだが、俺らがつくったものとは全然違ったんだよ。
着物の婆さんの顔が大写しになった。その途端、高木さんは悲鳴をあげて
尻もちをついた。もちろん俺らもびっくりだよ。思わず本音が出た。
「誰だよ、こんな映像を入れたのは!?」ってな。電気をつけようと
したがつかない。わけがわからなかった。だって投影機は作動してるんだし、
高木さんは完全に腰が抜けた様子で、座り込んだままその場で手を合わせ、
婆さんに向かって「許してくれ、俺が悪かった許してくれ」と拝んでいる。
でな、そのときにふうっと部屋全体に線香のにおいが流れて、ばあさんの
姿は消えた。そうして、その後に俺らが用意した幽霊の像が
映ったんだよ。部屋の電気もついた。わけがわからなかった。ただ、後に
高木さんが話してくれたが、その婆さんは高木さんがかつて霊能詐欺をした
相手で、かなりの額をだまし取った。裁判になったが、その最中に婆さんは
脳溢血を発症して死んでしまったらしい。そのときは婆さんの亡くなった息子の
霊を呼び出そうとしたんだそうだ。でな、このときの映像は撮った。だけど
何も映ってないんだよ。ただ、高木さんが暗い仏壇の前にへたり込んで、
泣きながら手を合わせているだけ。こんな事情だったんだ。しかし・・・
それにしても本物の霊はいるんだなあと思った。見たのは確かだからな。
しばらくして俺はその出版社をやめ、高木さんがどうなったかは知らない。