鎧武者
当時は田舎に住んでたんだよな。田んぼしかないようなところ。
でな、その村には高根山って里山があってな、800mくらいの山で
村の所有で共同管理だった。だから村のもんは、ちょっとした
小屋なんかを建てるときは、そっから材木を伐りだしたりしたもんだ。
それと山菜やキノコ採りだな。年寄りは季節になるとよく
山に入ってた。ただ、根こそぎ取るとよくないからって、
自分の家で食う分しか採らなかった。まあ、村中でその山を守って
たんだよ。それで、今日するのはその山の話じゃないんだ。
その高根山の奥にある山のことだ。「まいやま」って呼ばれてて
400mくらいかなあ。高根山とは深い沢で隔てられてた。
入っちゃいけないときつく言われてたんだ。理由はよくわからないが、

じいちゃんがまだ生きているときに聞いた話だと、その山の頂には
古い神社があって、社殿は朽ちていくまま。神主もいないんだそうだ。
なんでもそこの神社で、江戸時代にすごい罰当たりなことがあって
放棄された。それ以来、山に入ると祟りがあるってことだった。
ただ、どういう祟りかは話してくれなかったけどな。
でもよ、俺は子どもの頃、一度だけその山に入ったことがあるんだよ。
といってもとば口までで、頂上まで登ったことはないんだけどな。
だから本当に神社があるのかもわからない。でな、あれは秋のことだ。
俺は舞茸採りをしてたんだ。俺の家に親戚が集まるんで、舞茸の
天ぷらをつくるから採ってこいって、母親に言われたんだ。
このときもまいやまには絶対入るなってきつく言われたけどな。

でな、山の裏のほうにまで降りて、雑木の切れ間からまいやまのほうを
見たら、ずっと頂上まで獣道くらいの道がついてて、その4合目の
あたりにありえないものが見えたんだよ。まず、何かキラリと光を
反射するものがあって、その下に赤茶色のものが見えたんだよ。
それ、縦長で、人間が倒れているように見えたんだ。しかも、ここからは
信じてもらえないかもしれないが、昔の鎧を着てるように見えた。
でも、そんなことありえないだろ。ただ、もしもそれが人だとすると、
遭難して助けを求めてるかもしれない。そうだとすれば、ほっとくわけには
いかないだろ。今だったらスマホで警察に連絡しただろうが、当時は
そんなものはなかったんだよ。迷ったが、沢までおりて獣道を見上げた。
やっぱり人のように見える。たが、まったく動いちゃいない。

どうしようか迷ったが、俺は意を決してそこを少しのぼった。そんなに
高い木はなくて、笹薮になってるところが多かった。でな、その倒れてるものの
直下100mほどまで来て、視界がひらけてはっきり見えるようになった。
やっぱり鎧武者なんだよ。さっき見たキラリと光ったものは、首のあたりに
突き立っている刀なんだよ。もちろん、まさかと思った。しかし
見間違えじゃない。ここらで時代劇のロケでもやってるんだろうか。そんなこと
さえ考えたんだよ。さらに登ろうとしたとき、山の上のほから、「坊主、
それ以上登るな」という大声が聞こえてきたんだ。それに続けて、
「そういつは合戦で死んだ迷いものだ」と。合戦? まさか本物の鎧武者?
そう思ったとき、山頂のほうから、昔の野良着のようなものを着た、背の低い
じいさんたちが数人降りてきて、その鎧武者を担いで上のほうに登ってたんだよ。
いや、このことは誰にも話してない。信じてもらえると思わなかったからな。

2,舞茸
ある年寄りがやはり高根山で舞茸を採っていた。季節の始めでたくさんある。
年寄りは採った舞茸をどんどん背中のかごに放り込んで、どんどん山を降り、
まいやまの見えるところまで来た。もうやめて戻ろうかと思ったが、
まいやまへ登る細い道が見え、そのあたりの倒木に舞茸がたくさん生えて
るのを目にしてしまったんだ。ああ、あんなにある。年寄りはまいやまには
入ってはいけないことを知っていたが、欲に負けて、あそこにある分だけ、
と獣道に入っていったんだな。そして採った分の舞茸をやはりかごに入れて、
さあ、そろそろ戻ろうかと思ったとき、獣道の山の頂のほうから、「ここは
禁足の山だ。それはお前も知っておろう」という大きな声が聞こえてきたんだ。
さらに続けて、「かごの中を見よ」という声。年寄りはへたり込みながらも
背中にしょったかごを下ろして中を見ると、採った舞茸はみな

人間の耳に変わっていたそうだ。それも引きちぎられたものらしく、
根元には血までついていた。年寄りは「ひえええ」と悲鳴を上げ、舞茸の
かごをその場に放り出して、家まで逃げ帰ったんだそうだ。その後、
その年寄りは家で熱を出し、3日後に死んだという。そのかごが
どうなったかは伝わっていない。

3,百年殺
これは春の話で、キノコ採りではなく、ワラビやゼンマイなどの山菜採り。
年寄り夫婦が2人で高根山に入っていた。そして山の裏に回ったとき、
まいやまのほうからかすかに「ぎぃやあああ」という声が聞こえてきた。
婆さんのほうがその声に耳を済まし「ありゃ何だ?」と爺さんに聞いた。
そしたら爺さんは平然と「百年殺だよ」と答えたという。
婆さんがなおも、「百年殺って何だ?」と聞くと、爺さんは少し
困った顔をしたが、「昔な、戦後すぐの頃、都会から来た山屋が、
村のものが止めるのも聞かずにまいやまに入ったんだよ。銘木や岩を探したん

だろうな。しかし、禁をやぶったバチがあたって、今も百年殺をやられてる
その悲鳴だ」婆さんが「わからん」という顔をすると、爺さんは「百年かけて
体を少しずつちぎられるんだよ。死なない程度に少しずつ。餓死しないように

飯も食わせているらしい」と。婆さんは「それは恐ろしいのう」と言い、
爺さんは「だろう。だからあの山に入っちゃならんのだよ。ただもっとも、
百年が経つ前に寿命が尽きてしまうだろうがな」と言ったそうだ。

4,空中写真
まだ営林署がある頃のことだが、ここらの山の空中写真を撮って、それから
地図を起こそうという話になった。村長も村の区長もみな止めたが、国の
事業のため、どうにもできなかった。で、ヘリがまいやまの上空にも入って
撮影したが、そのいただきに奇妙なものが映ってたんだ。山の頂上に、
円形に木の生えてない草地があり、そこに神社があった。神社は
白木造りだったのが年月を経て黒くなり、さらに屋根も傾いていた。
かなり古いものだと思われた。しかし・・・問題は神社ではなかった。
その屋根の上に巨大な白骨死体があったんだ。縮尺からすれば4,5m。
しかも拡大してみると、その頭蓋骨には額の上部に2本の角が確認できたそうだ。
鬼の死体? ということで大騒ぎとなり、調査が入る計画になったが、
国の上層部の介入でとりやめになったんだそうだ。